霊感のある友人
彼女と出会ったのは、ミズキと付き合って1年が経った頃だった。
「親友のマミと会って欲しい」
マミは、中学からの友人で、ぼくらが今後とも仲良く付き合っていくうえで面通しが必要とのことだった。
夕食を共にするといってぼくらは待ち合わせをした。
姿を表したマミは、小柄な女性だった。女性というより女の子といったほうがしっくりくる。
初めましてと頭を下げたマミをみて、ぼくは礼儀正しい子だなと思った。「とてもミズキの友達とは思えないよ」
どういう意味よと小突かれて、ぼくらは笑った。そのあとの食事会の雰囲気もとても穏やかで、ミズキの過去の話で盛り上がった。
一通り昔話を終えた頃、ミズキはここだけの話と声のトーン落とした。「マミって、霊感があるの」
初めは冗談だと思ったけれど、ふたりの様子からどうにも笑い話ではないようだった。
ミズキ曰く、具体的に何かが見えるわけではないらしいけれど、嫌な場所や雰囲気を感じ取れるらしい。
「まさか、今日マミさんを呼んだ理由って」
「さすが、鋭いね」
ぼくらは数日前に同棲を始めていた。
「お察しのとおり、ふたりの愛の巣をみてもらおうってわけ」
嫌な予感が適中した。「もし、なにかいたら」
「引っ越せばいいじゃない」なんて、ミズキは他人事のようにいう。
お店の会計を終えると、ぼくらはコンビニに寄ってから愛の巣へ向かった。マミさんが何かを見つけないかと不安な気持ちはあったけれど、事故物件でないことは確信をもっていた。
部屋選びの時にぼくらは新築であることにこだわった。初めてふたりで暮らす家か曰く付きであっていいはずがない、それはぼくらの総意だった。
だから、マミさんを招いたことだってただのイベントでしかなった。ぼくらの選択は間違いでなかったことの再確認になるのだろうと思っていた。
「この部屋、危ない」
マミさんは、部屋にはいるなりぼくらに絶望を突きつけた。ミズキの顔もひきつっている。
マミさんは具体的に何がいるのか、危ない理由は教えてくれなかった。マミさんは部屋をぐるりと歩き回ると「やめたほうがいい」とだけ告げて帰ってしまった。
それから、ぼくがミズキと別れるまでそう時間は掛からなかった。部屋のリモコンの位置がずれているとか、排水溝に髪がつまっているとか、人の気配がするとか、そういう些細な積み重ねが、ぼくらの溝を深めて、やがて埋められないほどの深さになってしまった。
ミズキは、マミさんに何度も相談していたみたいだ。けれど一向に幽霊が離れる様子はなく、やがてぼくに原因があるような扱いになってしまった。
ぼくらの破局の原因はマミさんにあるといっても過言ではないだろう。けれど、不思議とぼくはマミさんを恨めしくは思えなかった。
きっとぼくとミズキが別れることは運命だったのだろう。
ミズキと別れてからしばらくして、ぼくはどうしても聞きたいことがあるとマミさんを呼び出した。
「どうしてわかったの?」ぼくは尋ねた。「まさか、本当にぼくに何か憑いてるとか?」
マミさんはぼくを冷たい目で見つめた。
「霊感なんて、あるわけないじゃない」
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