第10話 家康の反撃

空想時代小説


 翌日、大坂城に集まった面々に驚きの知らせが上杉からもたらされた。

「家康、駿府城から出陣。勢力およそ1万」

 その知らせを聞いて、その場にいた者全員が驚愕の声をあげた。

「なに! 家康は死んだのではないのか!」

 大野治長が政宗に問いただす。政宗に代わって、側にいた重長が答えた。

「首のない家康の鎧を着た亡骸を見ただけでござる。影武者だった可能性はありまする」

「駿府の家康が影武者かもしれんぞ」

 真田信繁が徳川の策を考えていた。ありうる話だ。

「それでどうする?」

 秀頼が口を開いた。秀頼が声を発することは珍しい。そこにいた面々はかしこまって、秀頼に頭を下げた。

 最初に口を開いたのは真田信繁である。

「影武者うんぬんをここで論じても詮なきこと。まずは、当方の味方を固めなければなりませぬ。ここにいる面々は、豊臣方と考えてよいか。もし、ご不満の者はこの場で退出なされよ。追うことはせん」

 真田信繁はあたりを見回した。視線は毛利秀元に向けられた。

「秀元殿、どうなされる?」

「無論、豊臣方につく。先ほど、輝元公から文が届き、豊臣に追従せよ。ということであった」

「奥方は徳川の出であるとのことだが?」

「たしかに奥は徳川の出だが、おしつけられたにすぎん。それよりは、毛利の旧領回復が大事。それとも第2の吉川広家になるとお思いか? 広家殿は蟄居閉門になり、その後亡くなった。二の舞はご免じゃ」

「毛利殿が味方についたのは心強い。他の面々も大丈夫でござるな。のう、政宗殿」

 信繁の目は、政宗に向けられた。今までに、何度も離反をくり返しているので、信用度が少ないのは仕方ない。

「わしは豊臣方につく気はない」

 という政宗の声に全員が目をむいた。

「しかし、徳川は倒す。よって、今はここに集まった面々と同じである」

 一同、いちように胸をなでおろした。

「しかし、五大老制の復活を提案されたのは政宗殿ではないか?」

 信繁が問い詰めた。

「それは豊臣方をまとめるための策でござる。私は五大老になるつもりはない。奥州の覇者になれればそれでよい。毛利殿とて、中国と九州。長宗我部殿は四国、畿内は秀頼公、北陸は前田殿、甲信越は真田殿、東海は大野殿、関東は上杉殿が支配すればいいのでは。そこで不可侵の契りを結び、それに反したものは他の全員を相手にするとすれば戦のない世が産まれまする」

 政宗のこの考えにうなずく者が多くいた。一度失敗した五大老制を復活させたところで、だれかが実権をもつことは目に見えているからだ。

「それは徳川を倒してから考えることだ。秀頼公が聞きたいのは、まず今は何をすべきかだ」

 信繁が一同に問うた。そこに重長が政宗に代わり答えた。

「おそれいりますが、わが策を申し上げてもよろしいでしょうか」

「うむ重長、許す。わしの考えとして申せ」

 と政宗が許しをだした。かの有名な軍師の片倉小十郎の息子が述べる策に一同が注目した。

「家康は、すぐには大坂に来ないはず。1万では勝てぬのは明白。おそらく秀忠勢の残党やその他の諸侯が集まるのを待つことになろう。さすれば決戦の地は関ヶ原」

「関ヶ原!」

 そこにいた面々が目を丸くした。重長が話を続ける。

「大事なのは松尾山をおさえることでござる。先の関ヶ原でもここをおさえた方が絶対有利。そして関ヶ原後方の玉城に秀頼公が本陣を構えていただく。秀頼公の出陣があれば勝てまする」

 その話に淀君は苦い顔をしている。

「よし、松尾山はわしがおさえる」

 と血気にはやった長宗我部盛親が言い出した。

「いえ、そこは上杉殿にお任せいたす。すでに上杉殿は軍勢を整えて東進を始め、関ヶ原の重要性を感じて向かっておるところでござる」

 長宗我部はしゅんとなった。

 その後、信繁を中心にして徳川攻めの陣ぶれが決められた。

 先陣は政宗、右翼は前田、左翼は毛利、遊撃に真田、補給隊は大野治房、本軍は秀頼と大野治長、後詰めは長宗我部。それに先発隊として上杉が関ヶ原に向かっている。

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