第4話 四者談合

空想時代小説


 8月に入り、政宗は数人の供を連れて結城秀康が陣をはっている宇都宮へ出向いた。秀康の陣へ行くと、そこに直江兼続と佐竹義宣(よしのぶ)の二人が続いてやってきた。

 直江からは、事前に秀康公の内諾を得たという文が政宗に届いていた。しかし、直江の言うことをそのまま信じるわけにはいかない。政宗は秀康公あてに、

「秀康公の意にそい行動いたす所存」

 という密書を送っていた。秀康公が合力するとなれば、それまで。合力せぬ時は、その場で直江と佐竹を斬るつもりであった。姿は見せていないが、黒はばき組の手裏剣の名手を連れてきていた。

 結城秀康この時26才。気力充実の年頃である。ちなみに政宗は33才。直江兼続40才。佐竹義宣30才である。政宗と義宣は、会津摺上原(あいづすりあげはら)での戦い等で何度も戦った因縁の相手なので、目は合わせても声をかけあうことはなかった。

 直江はまず口を開いた。

「秀康公、こ度のお招き恐縮に存じまする」

 秀康公はうなずいていたが、内心は(お主がおしかけてきたのも同然ではないか)と思っているのであろうと、政宗は思った。

「そこで、文にしたためた秀忠(家康の三男)討伐の件、我らの布陣に出陣の命をくださりたく、お願い申し上げます」

 (秀忠討伐?)政宗は、意外という顔を一瞬したが、すぐに平常に戻した。

 (直江め、徳川討伐などと言っておいて・・秀康には跡継ぎ争いをさせる気か・・まあ、それもよかろう。要は、徳川の力がそがれればいいのじゃ)

「わしの考えじゃが・・江戸ではやっかいじゃ。ましてや父相手では面倒。秀忠単独の機会をねらっておる」

 秀康は家康に背く気はさらさらないようだ。そこで、直江が口を開いた。

「草の者から秀忠は信州上田攻めに向かうと聞いておりまする」

「それは好都合。真田も我らに合力いたそう。少数だが頼もしい味方となろう」

 秀康は、弟秀忠に跡目をとられることがよほど悔しいのであろう。秀忠憎しの様子がありありと浮かんでいた。

 直江がひとつの提案をした。

「そこで、秀忠討伐軍を秀康公と上杉の3万。江戸攻めを佐竹殿と政宗殿の3万では?」

 その話に秀康は異議を唱えた。

「江戸の父を攻めるのか?」

「いえ、家康公が西へ動いたらでござる」

「であろうな。父とは戦いとうない」

その話を聞いて政宗は内心(秀康も秀忠同様凡人か? 覇者となる器ではないな)

で思っていた。直江も佐竹も同様の思いであったろう。

 談合はそこで終わった。政宗は奥州街道、佐竹は水戸街道から江戸に攻め上がる手はずとなった。先陣は佐竹に譲った。政宗としては、戦力を残し、奥州・出羽制覇に備えなければならないからである。

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