第3話 合議

空想時代小説


 翌朝、直江兼続一行は、朝もやにまぎれて発っていった。

 政宗は側近の者を集めて、合議を行った。初めは反対派が多かったが、秀康公が味方するかもしれぬと分かった時点から、反徳川の意見が増してきて、形勢は五分五分となった。夕方になり、これ以上合議はすすまぬと見た小十郎が

「殿、これ以上は無理でござる。最後は殿のお考えで」

「うむ」

 しばしの沈黙のあと、

「家康公は傑物だが、その跡取りと目される秀忠殿は奥方に頭が上がらぬ凡人じゃ。このまま徳川の世となれば、わしらはいつつぶされるかとおびえておらねばならぬ。徳川をつぶすか、徳川と対等の力を得るなら、合力の価値はあろう」

「それでは殿、上杉と合力なさりますな」

「今はな。上杉景勝殿は表裏のない剛直な方だが、直江殿はなかなかの策士じゃ。油断はできぬ。さらに、佐竹が陣営におると、いずれはうまくいかぬこともあろう」

「それでは、合力なさらぬのですか?」

 側近たちは、はっきりしない政宗にいら立っていた。そこに、小十郎が口をはさんだ。

「殿、直江殿との合力の代償に、陸奥と出羽の2国をわが領地にし、関東は上杉や佐竹にくれてやればいいのでは・・?」

 側近たちは、目を丸くしてその提案に驚いた。政宗はうなずいて

「うむ、そんなところでよかろう。よし、その旨を文にしたためよう」

 側近たちは、合力と決まって歓声をあげた。その声を聞いて、庭にいた一人の武士が大声を発した。

「殿! わしに先陣を!」

 その声は、政宗の親戚筋でかつて角田城主であった成実(しげざね)であった。しかし、戦の功労で不満を抱き一度出奔し、高野山はじめ各地をめぐっていたが、白石城攻めを聞きつけ、一兵卒として勝手に参戦していたのである。政宗はあきれた顔をして、

「成実か! 白石城攻めでは勝手に先陣をしておって、命じずとも先陣で突っ込むことであろう。こたびはお主の好きにせえ!」

「はっ、ありがたき幸せ」

 という返事に、周りの武士たちは苦笑いをしていた。以前は、1万石の城主だったが、今は無役の足軽扱い。馬もない。ましてや、かつての功労であらそった石川昭光の配下となっているのである。家族は出奔した時に切腹させられ、今は独り身である。中には、哀れみの目で見ている者もいたが、成実は戦ができることで喜びがいっぱいという感じであった。

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