第2話 直江訪問
空想時代小説
2日後、直江兼続(かねつぐ)は数人の家臣だけを従えて、白石城にやってきた。一見無防備な旅人姿であるが、先導は例の太助であった。他にも草の者の気配はしたが、姿は現さなかった。
政宗は直江の一行を客間に通さず、旅人として扱い、用人の部屋に通した。客間に通したのでは、敵と内通していると徳川方の密偵に疑われる可能性があったからである。そして、夜になって直江だけを政宗の部屋によんで、二人だけの密談をした。小十郎たちは隣室で待機していたが、二人の会話は聴き取れなかった。
「直江殿、よくぞ参られた。夜までお待たせし、お詫びいたす」
「政宗殿、お気遣いは無用。おしかけてきた身ゆえ、待つのはいたしかたなきこと。ましてや、いらぬ目がうるそうござろう」
「うむ、徳川方についた事で、軍監やかげの者がおって、味方なのに気が静まらぬ」
「お察しいたす」
「さて、ご用件をお聞かせくだされ」
「それでは早速、端的に申せば、上杉と組んで徳川を討たぬかでござる」
「わしに、徳川を裏切れと・・それはできぬな」
「裏切りではござらん。討伐でござる」
「どう違うのじゃ?」
「今、徳川は天下を狙っておる。おそらく、豊臣打倒を腹に抱えておろう」
「天下統一を狙っておるのはわしも承知じゃ。それゆえ多くの大名が上杉討伐の命に従っておるのじゃ」
「討伐が家康の考えならば、今味方している大名でも、いつ改易や転封の憂き目にあうか分かり申さん。現に上杉が、越後から会津に国替えになったばかりで、領国経営のため上洛できませぬ。と申しただけで討伐じゃ。政宗殿とはいえ、会津攻めにしくじれば何を言われるか分からんぞ」
「わしは家康殿からの約状をいただいておる」
「100万石のお墨付きでござるな。約状ほどあてにならないものはない。家康はたぬきでござるぞ」
「どうして、そのことを存じておる?」
「政宗殿、障子に目あり、壁に耳ありでござるよ」
「草の者か? 油断ならぬな」
「先日、小山で評定があり、上杉攻めを中止し、石田三成討伐に引き返し、徳川勢のほとんどは西に向かっておるところ。真田殿は、徳川とたもとを分かち、上田に戻った。長子の信幸殿は本多平八郎殿の娘婿。徳川勢に残ったが・・」
「そのことは早馬で聞いた」
「福島城攻めも待て、との命があったはず」
「それもお見通しか?」
「もひとつ、政宗殿にお聞かせいたす。徳川殿の二男で結城秀康公がこちらのお味方になる見込みがござる」
「なに、上杉攻めの残留部隊の秀康公がか? まさか?」
「秀康公の内諾は?」
「まだでござるが・・使者からは無下な扱いはされなかったと聞いておる」
「のぞみがあるのか?」
「政宗殿と佐竹殿に我ら上杉が連名で懇願いたせば見込みがあろう・・」
「秀康公と上杉・佐竹そして我らが一緒になれば東国の武士団のほとんどが結束するな」
政宗は、当初の拒絶の様子から一転好奇心をあらわにした。
「問題は、最上義光(よしあき)殿でござる」
「伯父ごか・・無理もない。反石田三成の急先鋒だからのう。かわいい娘が関白の豊臣秀次事件(秀吉に子ができたために秀次と関係ある者すべてを処刑したこと)で巻き添えをくい、三成の眼前で打ち首にされたからのう。秀次殿の側室という理由だけで、会ってもいないのに残酷な仕打ちじゃった」
「そこで、最上殿は政宗殿にお任せしたい。お味方は無理でも手出し無用と申してくださればよろしいかと」
「三成と親交の深い貴殿では無理もなかろう。何とかいたそう」
「それでは、合力を受けたと申されるか」
「いや、それはまだだ。家臣と合議せねば、返答できぬ」
「無理もござらん。では、拙者は明日会津に戻りまする。返事は太助に託してくだされ」
「うむ、分かった。早々に返事をいたそう。合力がかなわぬ時は、福島城で戦おうぞ」
「そうならぬようにお願い申す」
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