第12話 四人は、山賊と戦う準備をする
「カルナリア姫さまをねらって……でも、むほん人たち……反乱軍は、まだこちらには来ていないのですよね」
エリーレアはいやな気持ちのままレントにききました。
「反乱軍、というまとまったかたちではまだ入りこめないところでも、悪いやつらに話を持ちかけて、十二歳の女の子を連れてくれば高く買うぞ、と伝えれば、悪いやつら同士で話を広めて、十二歳くらいの女の子をねらう人さらいが次々と起きてもふしぎはありません」
「そんな……」
修行のひとり旅をしており、悪いやつらのことも色々知っているテランスも言いました。
「姫さまは騎士たちに守られているのでしょうが、悪いやつらは、夜にこっそり忍び寄ってきたり、病気で苦しんでいるふりをして助けてもらってから裏切ったり、何でもやって、姫さまをさらおうとすることでしょう。むほん人ではないやつらまでそうやっておそってくるのでは、姫さまも、はたしてご無事でいられるかどうか……」
「不吉なことをいうのはやめてくださいまし!」
ついエリーレアはどなってしまいました。
「そうですね、まだ何もはっきりしたことはないのに、もうしわけありません」
「とにかく、先を急ぎましょう。よくないことをあれこれ想像しても、気持ちが悪くなって、体も動かなくなるばかりです。今わたくしたちのするべきことは、姫さまのところへ急ぐ、それだけです!」
「ええ、その通りです。できるだけ急ぎましょう」
テランスも、強くうなずいて、エリーレアと馬を並べました。
「それにしても、あなたはほんとうに強いお方だ」
「いえ、ぜんぜん強くなどありません。今も、いやな話を聞いて、姫さまが心配で心配で、泣き出してしまいそうなのです。いっそのこと、悪い人さらいどもでもあらわれてくれれば、おもいっきりあばれて、気持ちを切りかえることができるでしょうに」
「これはなんとも物騒な。ははは」
「なにがおかしいのですか」
「こういう時こそ、笑うのですよ。笑うと、いやな気分を追いはらえて、体もよく動くようになって、そしてふしぎなことに、良いことも起きるようになってくるのです」
「そういうものなのですか……」
エリーレアは、そう言われたからといって、すぐに気持ちをきりかえて笑うことなんてできそうになかったのですが……。
「あ、あ、危ないっ!」
レントがあわてて、振り向くと馬の上のぼろぼろさんが、大きくななめに傾いていました。いねむりでもして、おっこちてしまいそうになったみたいです。
「なんとも、のんきなことだ」
テランスのあきれた声と、ふらふらグラグラするぼろぼろさん、馬の横であたふたするレントなどを見ていると、エリーレアのほほがゆるんできました。
「ふふっ」
やっと、笑うことができました。
「ああ、おっしゃる通りですね。笑うと、いいことが起きる気がしてきます。ありがとうございます、テランス様」
お礼をいったエリーレアは、大きく腕を広げて、空と、左右に広がる豊かな畑を見回しました。
むほんが起きて大変なことになっているとはとても思えない、のどかな景色です。
これを守るためにも、姫さまのところへ急いで、反乱軍を追い払わなければならないと、あらためて思いました。
それが終わったら、こういうところをのんびり旅するのもいいかもしれないなと、エリーレアは考えたのでした。
西へ、西へと急ぐうちに、また山がだんだんと近づいてきます。
その山を越えればタランドン領です。
今度の山は、あのひひがいた山よりずっと高く、通るのがたいへんです。
山の手前にある街で、したくをしました。
こちらにはけものがいるようなことはなく、旅人たちは普通に山を越えているようでした。
ただここでもまた、十二歳ぐらいの女の子がさらわれたという話を聞いてしまいました。
「そのくらいの年の女の子を連れた、
レントが色々聞いて回って、教えてくれました。
「山の上には、ほんとうの関所があって、タランドン領の騎士さまたちがしっかり守って、怪しい者は通さないようにしているのだそうです。タランドン領の騎士さまたちはとても強いので、悪いやつらもそちらには入りこめないのですが、そのかわりに、山のこちら側に住みついて、降りてきては悪さをしているようなのです」
「山賊ですか。女の子をさらって、山の中の自分たちのねぐらに連れこんで、まとめてむほん人たちに売ろうとしているのかもしれませんね。見すごすことはできません」
「そのような悪党どもを放っておいて先へ行くのは、騎士として許されません。タランドンへ向かう途中の道そうじということで、退治してゆきましょう」
「ええ、そうしましょう。ゆだんなく準備をしましょう」
エリーレアもテランスも、自分の剣をしっかりみがき、弓矢や他の武器も、ねんいりに手入れをしました。
レントですら、短剣をといで、投げ縄を用意し、投げつけるのにちょうどいい石ころをそろえてと、真剣な顔でしたくをします。
ぼろぼろさんは、相変わらず、じっとしているか、ゆっくりゆらゆらしているかです。
「山賊と、今度こそ本当に戦うことになりそうですが、大丈夫ですか?」
エリーレアがたずねると、ぼろぼろさんは大丈夫ですというように頭をたてに動かしました。
ひひや犬に肉を食べさせたやり方といい、気がついたらいいところにいてくれる動き方といい、この人にはいったい何がどのくらいできるのか、そもそもどういう人なのか、エリーレアはふしぎでなりませんでした。
次の日の朝、おおぜいで出発しました。
山をこえてタランドン領へ入りたい貴族や商人が馬車を走らせ、そのまわりには自分で荷物をかついだ平民の行商人や、用事があって西へ行きたい人たちなどがぞろぞろと、歩いてついていきます。
貴族やお金もちの商人たちは
山賊の方も、相手がたくさんだと、おそった自分たちも痛い目をみるので、出てこないことが多いのです。
エリーレアたちも、最初はその中にくわわっていました。
フードをしっかりかぶって、女だとわからないようにして。
テランスも、ものすごく強い騎士だとわからないように、馬を降りて歩きました。
山のふもとまではそうやっておおぜいの中にまざって進み……。
山に入ってから、とちゅうで、別な道に入りました。
貴族や商人の
彼らは、主人や荷物を守る役目の人たちなので、エリーレアたちが山賊を退治してくれるならありがたいと、知っているかぎりのことを色々と教えてくれました。
馬車では通れない、細い道もそのひとつでした。
けわしいのですが、それだけはやく先へ行けるので、えものが来たのを見つけた山賊たちが先回りするためによく使っているらしく、そこを行けば山賊を見つけることができそうなのでした。
「では、お先に」
体ひとつのレントが、すいすいとけわしい山道を先へ行きました。
おくびょうで、だからこそ色々な危ないものにすぐ気がつく彼を先へ行かせて、エリーレアやテランスたちは後から登ってゆきます。
「あの者は、身分はそれほど高くありませんが、見くびってはならない、すぐれた人物でありますな」
乗ったままではとても通れない、せまくて急な山道を、馬を引っぱりあげながら、テランスがレントのことをほめました。
「ええ、お調子ものに見えますけれど、とてもたよりにしています」
エリーレアもほめました。
そのレントが、大慌てで戻ってきました。
「この先で、きれいな女のひとが、動けなくなって、助けてほしいと言っています!」
「なんですって!?」
「とてもきれいなひとです。その……色っぽいというか、とにかく、すてきなひとで。むふふ」
鼻の下をのばしたレントの顔つきに、エリーレアはさっきの言葉を取り消したい気持ちでいっぱいになりました。
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