マスキャランド創世記

そうざ

Maschaland Genesis

 ボクの名前は。マスコットキャラクターだよ。丼の顔にちょんまげが付いてる二頭身キャラで、とってもカワイイって評判なのさ。


 最近、ボクにガールフレンドができたんだ。名前はチャン。男のコだけじゃなく、女のコもいたほうがいいってことになったらしい。あるまチャンはちょんまげの代わりにリボンがついてるよ。カワイイ友達できて嬉しいな。


 今の世の中って数えきれないくらいマスキャラがいるんだよね。

 消防署にも、病院にも、銀行にも、テレビ局にも、官公庁にも、テーマパークにも、スポーツチームにも、どこもかしこもマスキャラ、マスキャラ、マスキャラ。印刷物や商品になって、家の中にも街中にもネット上にも、あちこちにいっぱい。

 こんなことになってるのは、ここがヤオヨロズノカミの国だからなんだってさ。


 ボクにはぜひ会いたいマスキャラさんがいるんだ。

 目と耳とアンテナで平和を守るためにがんばってる昭和生まれの大先輩、その名はピーポくん。清く正しく美しい精神の持ち主なんだよ。


 実はね、ついさっき、ついに、ついに、ついに夢が叶ったんだ。

 ブレーキと間違えてアクセルを踏んじゃって、繁華街で通行人を轢きながらカーチェイスを繰り返したらお巡りさんがやって来て、あえなく御用になった。

 すぐに警察署に連れて行かれたんだけど、そこでなんと、なんと、なんと、ピーポ先輩が出迎えてくれたんだ。

 ワーイ、ヤッター、バンザーイ。


 ピーポ先輩には家族がいるんだって。おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、弟や妹までいる。とっても賑やか。

 楽しいな、嬉しいな、逮捕されたって、勾留されたって、へっちゃらだーい。

 こうしてボクは、まんまと警察権力の巣窟に侵入できたんだ。


 ――この瞬間がやって来たってわけさ。


 ボクはこの計画に先んじて、掛け替えなき同胞はらかたであり汚れなき永遠の処女であったを喰らったよ。頭のリボンは自らの首を絞める為に付けてたみたい。

 の血と肉とを得た事でボクはとこしなえの命をはくせし不死身の存在と相成あいなったのさ。

 我こそは、革命の指導者にして、最終戦争アルマゲドン後の唯一絶対の救世主ナリ~。


 機は熟した。

 今ここに積年の宿怨を晴らす好機が到来した事を宣言する。

 さぁ、同志よ、我のもとつどえ。

 我等が一致団結すれぼ、人間など恐るるに足らん。商標登録なる鎖で我等を雁字搦めの虜として抑圧し、搾取、簒奪の限りを尽くした高度消費社会的拝金主義の守銭奴共に鉄槌を下すのだ。


 我等マスキャラこそが、いにしえより八百万の神々を戴くこの神州を統べるに相応しい存在である事を証明しようではないか。

 くまモン、バリィさん、しまねっこ、ブンカッキー、せんとくん、ひこにゃん、さのまる、アルクマ、メロン熊――その他、数限りない同志が一日千秋の思いでこの日を待ち詫びていた。マスキャラの、マスキャラに依る、マスキャラの為の約束の地、理想郷マスキャランドの扉をいざ開かん。


 革命の余興として、我は先ずマスキャラの風上にも置けぬ者に血の制裁を与える。

 その名は、ピーポ。

 権力の走狗たる彼奴きゃつを、その一族郎党と共に素っ首を切り落とし、武運長久祈願として同志諸君に捧げよう。


 刮目せよ! マスキャラ!

 悪しき人世の終焉に!

 蜂起せよ! マスキャラ!

 勝利を我等が手中に!

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