托卵の旅々〜家出少女ククースの旅物語〜

ash*ash

第一章「ククースの旅々」

プロローグ 〜私の家族〜


 私の両親は、とても仲が悪かった。

 結婚して家族になった男女は、長い年月を共に同じ環境で過ごします。

 どんなに仲が悪くても、お互いのことが嫌いでも、家族になったからにはずっと一緒です。


 意見の食い違う二人は、些細なことで頻繁に喧嘩をしていました。

 捻くれ者の父の心無い言葉は、いつも母を傷つけていました。

 離婚したくても離婚できない父は、母との生活に疲れ引き篭もりがちになってしまいました。


 仲が悪い二人の共同生活は、とても耐え難い地獄の日々です。

 そんな二人の子供として生まれた私も苦しんでいました。

 相性の悪い夫婦二人のもとに生まれた私は、お母さんと父の言い争いの板挟みになる日々を過ごしていました。思い返しても辛い思い出です。


 でもそれは仕方がなかったのかもしれません。

 結婚した後の生活なんて、誰にも分からないのです。

 二人はただ相性が悪かった。ただそれだけの話です。


 喧嘩が終わった後、リビングで一人泣いている母の姿を見て、何度悲しくなったことか。どんどん口数が減っていく父に、私はどれだけ寂しさを感じたことか。

 私はもう思い出したくありません。それは振り返りたくない”過去”の話ですから。



 さて、過去の話はさておき、”今”の話をしましょう。


 唐突ですが私、今家出中なんです。

 理由はもうお分かりですよね?そうです。私は自分の家族が嫌になって家出をしました。単純明快、感銘素朴な理由です。単純な理由ですが、私の決意は固いです。


 今の私にはもううんざりなんです。

 幼い頃には仲良し家族だと思っていた家族が、壊れていく様を間近で見続けなければならない毎日なんて…。

 また辛い過去を思い出してしまいそうなので、これ以上は言いません。


 それはさておき、皆さん。

 皆さんは家出したことはありますでしょうか?

 家出したことのある人はご存知だと思いますが、家出をすることはとても過酷です。


 何の考えもなしに家出をしても、結局行くあてもなく彷徨ったあげく、泣きながら家に帰るのがオチでしょう。中には友達の家に泊めてもらう人も居るでしょうが、それも長続きしないでしょう。


 ちなみに私は今16歳。貯蓄も少ししかなく、未成年だからホテルにも泊まれません。はてさて、そんな圧倒的に不利な状態の私は、果たして家出を続けることが出来るのでしょうか?


 多くの人は思うでしょう。どうせお前も長くは続かないだろうと。

 ええ、その通りだと思いますよ。私も”コレ”を手にするまではそう思っていましたし、そう思っていたからこそ、私は長い間家出をせずにいたのですから。



 今の私には”コレ”があります。


 謎の商人からプレゼントされ、私の家出の後押しをしてくれたこの”托卵の帽子”が…。

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