21:王太子と秘密のお茶会①
夕食後、ケルヴィンの案内で応接室に移動し、お茶の準備が整うと人払いがされた。
この部屋に残るのは、セドリックと従者のコンラッド。
ケルヴィンとセリーナ。そしてジョアンナの5人だけだ。
全員が退出してドアが閉まると、セドリックは雰囲気を変えた。片手でタイを軽く緩めて長い足を組み、寛いだ様子でソファーにもたれている。後ろに控えたコンラッドは、そんなセドリックを嫌そうな顔で見て軽く咳払いをした。
しかし、セドリックは知らん顔だ。涼しい顔でクッキーに手を伸ばして口に放り込む。
ジョアンナは目を丸くして、その様子を見ていた。チラリとケルヴィン達を見てみると、特に驚いている様子もなくお茶を飲んでいる。きっと、いつもこんな感じなのだろう。
──息子みたいなものとは聞いてはいたけど……本当に自分の家みたいに寛いでるわ。
驚いてセドリックを見つめていたせいで、ふいに彼と目が合ってしまった。
「聞いているかもしれないけど、ヴィンセントとは学園からの友人でね……リネハンにはよく来ているんだ。隣のメホールは私が管理しているからね」
メホールはリネハンの隣にある王家が治める領地だ。一般的な男爵領くらいの大きさしかないが、隣国にも近いので、有事の際には非常に重要な拠点となる場所に位置している。
彼の話では、領地の視察のついでに、ヴィンセントの見舞いも兼ねてリネハンへよく遊びに来ているそうだ。
「ヴィンセントの調子はどうだい?」
「ジョアンナが来てからは食事の量も増えて、楽しそうに過ごしているわ」
「そうか……それは良かった」
本当に心配していたのだろう……セドリックは心からホッとした表情を見せた。
「パオロの事で内密に耳に入れたいことがある。後で2人で話をしよう」
ケルヴィンはピリッとした空気を
「……ああ、わかった」
ケルヴィンの
「早速で申し訳ないんだけど、明日の午前中には王都へ向けて出発するので、あまり時間がない。すぐにジョアンナ嬢のスキルについての話を始めてもいいかな?」
ジョアンナは自分に向けられた全員からの視線を受けて、緊張が高まるのを感じながらもなんとか顔に笑顔を浮かべて頷いた。
セドリックが後ろに軽く目を向けると、控えていたコンラッドがジョアンナに近づいてきた。そして、テーブルの上のお茶などを移動させて、ジョアンナの目の前にスペースを作る。
これから何が起こるのかと見ていると、コンラッドは胸から包みを取り出した。その包みには複雑な魔法陣が描かれている。どうやらマジックバッグのようだった。
マジックバッグは【空間魔法】のスキルを持った者と、【裁縫】【魔道具】などの物作りに長けたスキルを持つ者の2名で作成するアイテムだ。スキルの使用者の能力によって、大きさや、形、収納の大きさが変わってくる。
中には、入れた物の時間がほとんど止まってしまう物もあったりする。そういう性能の良いマジックバッグはとても高価なので、貴族でも一部の家しか持っていない。
コンラッドはマジックバッグに手を入れると、水晶のついた魔道具らしき物を取り出した。そして、それをジョアンナの目の前に置く。
「これは主に王宮や国境などで使われている、スキルを調べる魔道具だ。15歳の時に教会で使った物と似たような物になる。ジョアンナ嬢、君のスキルをもう一度ここで確認させてもらえるかな?」
コンラッドが補足してくれた情報によると、教会でジョアンナも使った物はスキルと名前がわかるだけだが、これは犯罪歴の有無などもわかる物らしい。
王宮では入城の際に許可証を持っていない者は、この魔道具を使って危険性がないかを確認しているそうだ。
例えば……【爆発】や【毒】、各種攻撃魔法などのスキルを持った人などがこれにあたる。彼らが悪意を持ってスキルを使う場合、武器や道具などが無くても、簡単に人の命を奪えてしまうのだ。
対面していきなり「ドカーン」っと爆発されてしまうと、どんなに騎士が優秀でも守りようが無い。
魔道具で確認して危険性のあるスキルだと判断された場合は、スキルを一時的に封じる魔道具を身につけての入城となるそうだ。
──確か、学園で習った話では……【爆発】などの危険なスキルを授かってしまうと、スキル封じを受けてそのスキルを一生使えないようにする人が多かったはずだわ。スキル封じに似た魔道具もあるのね。
コンラッドの説明が終わると、すぐにスキルの計測をする事になった。
やり方は簡単だ。教会の物と同じで、どちらか片方の手を水晶に乗せれば良いだけのようだ。
ジョアンナはゴクリと唾を飲み込み、利き手の右手を水晶に伸ばした。
手が水晶に触れた瞬間、水晶は中から光を放ち、空中に魔法陣が何重にも展開していく。
ジョアンナはこんなに複雑な動きをする魔道具を見たことがなく、目を丸くしてそれを見ていた。
最後に大きな魔法陣が出てパッと消えると、水晶の上に半透明な板のような物が出てきた。
そこには、ジョアンナの名前やスキルなどが書かれている……
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名 前:ジョアンナ・マーランド
年 齢:17
国 籍:エビロギア王国
犯罪歴:なし
スキル:【ログインボーナス】【鑑定】
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全員でその板を見つめていると、セドリックが突然笑い出した。
「いやー、ケルヴィンから聞いていたけど、本当にスキルが増えているね。ここに来る前に王宮に保管されているジョアンナ嬢の記録も確認したが、15歳の時に授かったのは、間違いなく【ログインボーナス】だけだった。これはスゴイね……。確か、スキルキャンディとかいう物を手に入れて、スキルが増えたんだよね?」
「はい。スキルを授かった日から[ログイン]というボタンを押す作業を千日連続で行った事で、いくつかの特典を手に入れました。その中にあったスキルキャンディを食べると、すぐに【鑑定】を手に入れた事が……感覚でわかりました」
「…………なるほど……」
「殿下、こちらがまとめたものになります」
「ああ……ありがとう。読ませてもらおう」
どうやら、ジョアンナの説明ではよくわからなかったようだ。説明を聞きながら困惑していた様子を見せたセドリックに、ケルヴィンが紙の束を渡す。
セドリックは、それを真剣に読んでいる。
ジョアンナは邪魔をしないように、静かにその様子を見つめていた。
「見慣れない言葉が多かったが、だいたいのイメージはつかめたよ。細かい事は後でケルヴィンと確認するとして……。ジョアンナ嬢、【ログインボーナス】の画面をここで出して見せてもらえるかな?」
「はい。私以外には見えも触れもしないようなのですが、ここに、画面があります。大きさは、この位で……先程の魔道具で出てきた透明な板に少し似た物です」
ジョアンナは画面を出し、いつものようにどんな物なのかを説明していく。
それが終わるとセドリックの指示に従い、目の前で[ガチャ]を実際に回した。
その後、いくつかの質問をセドリックから受けた後に、ジョアンナとセリーナは退席する事になった。
最後にセドリックからの指示で……聖水、デスパル草、各種ポーションを全て1つずつ取り出してコンラッドに渡した。それらをセドリックが持ち帰り、王宮で詳しく調べてくれるそうだ。
デスパル草は「3日でダメになってしまうと本に書いてあったので大丈夫か」と聞いてみたが、大丈夫だそうだ。コンラッドの持っているマジックバッグは、時間が経過しないタイプの物らしい。
デスパル草は初めて[アイテムボックス]から取り出したので、ジョアンナも実物を見るのは初めてだ。少し変わった匂いがして、細い1本の茎に、手の平ほどの大きさの紫色の丸い葉が2枚ついている。
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◼︎デスパル草(品質:良)
カリード王国のモーンズデー
3日経つと黒く変色し、効能は失われる
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試しに【鑑定】で調べてみたが、デスパル草はやはり3日しか持たない薬草のようだった。
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