プロローグ
プロローグ 宮島郁は月を見上げる。
一体この世の中、この一生で、人はどれだけの「負け」を経験するのだろう。
ふとそんなことを思って、また横隔膜が震え出す。涙が体の中をせり上がってきているんだ。私はたまらなくなって、たまたま行き当たった公園のブランコに座った。深呼吸。
少しだけ、気分が落ち着く。
中学時代に打ち込んだ部活。中体連で負けた時は悔しかった。「負け」というものの本当の重みをしったのはあの時だ。それは脱力感と喪失感を絞ったエキスに悲しさを混ぜたような非道い味で、こんな思いをしているのが自分以外にもいることがしばらく信じられなかった。
思うに、私は潜在的な負けず嫌いだったのだ。そんな自分の一面を発見したのが中学の終わりだった。
そして、今。高校二年の私はまた「負け」を経験した、のだと思う。そうだよ。今のこの気分は、あの帰りのバスの最悪な時間に味わったものとそっくり。
私は負けた。それも恋愛という勝負で。
「負けヒロイン」という言葉を、私は知らないわけではない。漫画や映画でよくみる、ヒロインになれなかったヒロイン。まさか私がその役回りをすることになるなんて。
――宮島郁は月を見上げる。
一体この世の中、この一生で、人はどれだけの「負け」を経験するのだろう。
「負け」というレンガを、一体どれだけ積めば人は「勝ち」に届く?
地球から月まではおよそ38万キロあるんだってさ。
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