第18話 僕と正統派じめじめ系ヒロインは似た者同士だ

『加古。これをお前に託す!』


 あの時――そう言って黒田君は僕に手渡した。

 二つに折られた紙を広げると、中から現れたのは、


『……髪の毛?』


『カガリ嬢の髪の毛だ!』


 これはまた変態極まりないコレクションが出てきたものだ。


『奴らの『スキル』に対抗できる手段となるだろう! 持ってけ!』


 逆に変質者って勘違いされないかな。嫌だよ。これは僕が採取したんじゃないのに。


『……こんなの役に立つ?』


『お前は女王の側近の強さを知らねぇんだ!』


 黒田君は半ば強引に預けてきた、この女子の髪の毛。用途は不明なんだが。


『黒田君。他にもまだカガリさんの私物ってあったりするの?』


『もちろんだ!』


 黒田君は鼻を高くして返した。


『じゃあ……アレもきっとあるよね??』


『……アレ? あ~。アレね!』


 黒田君は得意気にコレクションを開示してくれた――




 ――「はぁ、はぁ……。あんた、なんなの!?」


 時を戻して、カガリさんは疲弊していた。得意の藁人形による遠隔操作で、僕の関節をことごとくへし折ってるって言うのに。息が上がってるのは彼女の方だ。


「カガリさん。僕はこれくらいじゃ止められないよ?」


 首は左に折れたまま戻らない。両腕も関節を逆に曲げられてるから、歪な形で折れ曲がってる。すでに僕の肉体の可動域の限界を越えている。


「いい加減にしてほしいんだ憎(ゾ)! このぉ……!!」


 ボキッ!!!!

 カガリさんったらまた藁人形を酷使しちゃって。お陰で僕の右足も反対に折れたよ。


「カガリさん。僕の骨をいくつ折ろうとも僕は挫けない」


 骨が悲鳴を上げている。なのに僕はあっけらかんとしている。

 首も腕も折れ曲がり、片足を引きずって迫る僕の姿はさながらゾンビ。


「クラスメイト全員に復讐するまではね」


「ひっ……!」


 ぞくっと、カガリさんの小さな体が身震いしてるのがわかる。

 僕の肉体にダメージを与えてるのに、君は精神的ダメージを負ってるんだ。

 こんな戦い方は初めてかな。


 これも遠隔攻撃だよ。君の呪いの藁人形よりも悪質極まりないね。


「君は瑠香のしもべだ。苛めっ子の取り巻きだ。特に許せない」


「なんなのよ!」


 とうとう感情的になったカガリさん。お人形さんのような不自然な可憐さがあったが、今の方がずっと人間らしく自然に可憐だ。

 反対に僕の感情は不自然に落ち着いている。君の攻撃は僕を人間から逸脱させてるだけだ。


「これを見てよ」


 満を持して僕は『アレ』を見せた。


「……っ!」


 一瞬だった。カガリさんの表情が凍り付いた。

 僕が持ってるものは、仄かにピンクがかってフリルのついたかわいらしいパンツだ。


「君の下着だよね? 覚えてる? 黒田君は大切にコレクションしていたよ」


「な、何であんたが持ってるの!? 返しなさい!」


「カガリさんが言うように、僕の『スキル』は触れなければならないのがネックなんだ。だが君もまだ知らない『スキル』が僕にはある」


 カガリさんのパンツを握りしめながら解説した。


「僕の【大泥棒アルセーヌ・バンデット】の第二エフェクトは、相手の所有物と僕の所有物の強制転移だ」


「転移……」


「触れずに使える条件として『等価交換』であること。僕はさっきから自前のボールペンで試してるけど、変化はなし。遺伝子レベルで染み付いた君の『スキル』の賜物を、ボールペン程度では『等価』ではないよね」


 へし折れた首のまま、僕は不敵に笑んだ。


「でも、君の汗が染み付いた下着なら、その藁人形を奪えるに等しい価値があると思ったんだ」


「あんた、なに馬鹿なこと言ってるの……?」


「試そうか?」


 僕が名に恥じない『スキル』を行使すると、パンツを持った手に魔力が滲みだす。


「やめ――」


「【大泥棒アルセーヌ・バンデット】!!!」


 第二のエフェクトを発動すると、僕の汚れた手に納まってた神聖なる少女のパンツが、光と共に消失してしまった。

 瞬間、パンツが消えたばかりの手には藁人形が納められた。


 対して、藁人形を持っていたカガリさんの手には、自分の使用済みのパンツが返却されてた。


「そ、そんな……!」


 君の動揺を見たら確信してよ。どうやら価値は同じだったようだね。


「カガリさん。君の『スキル』が相手に呪いをかける類ではなく『呪いを込めた藁人形』を作ること。つまり、一度でも製作したこの人形は第三者の僕でも扱えるわけだ」


「馬鹿ね。藁人形があっても、私の髪の毛がなければ意味がない憎(ゾ)? 舐めないで!」


 その強気な姿勢。今度は僕がへし折ってあげるよ。

 僕は学ランのポケットから一つまみして出した。


「この紫色の髪の毛。君のだよ?」


「!!?」


「君こそ黒田君の収集癖を舐めちゃだめだ」


 僕は藁人形の頭頂部から自分の毛を抜き取り、代わりにカガリさんの髪の毛を刺し込んだ。


「あ……ああ……!」


 無力そうな喚き声が聞こえてくる。君が僕たちにしてきた仕打ちをそっくりそのままお返ししてあげる。


 僕は藁人形の頭を撫でると、それはカガリさんに伝わる。

「いやっ……」と、体を縮み込ませて抵抗する。


 藁人形のバストに触れると、カガリさんがすぐさま反応する。

「うぅ……」と、無抵抗で肉体を蹂躙される自分の非力さを呪ってる。


 藁人形の足を揉み上げると、カガリさんが感じる。

「あっ……」と、もはや抵抗を止めて、屈辱を受け入れた人間の喘ぎ声だった。


 人をさんざん玩具にしてきた罰だ。君はやり過ぎた。これくらいは許してもらおう。

 こっちとら人形を触ってるだけ。罪悪感もないし、気に病むこともない。


「仕上げだ」


「やめてぇえええええええええ……!!!!」


 一際大きな悲鳴が上がった。


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