第15話 僕は唯一の親友と再会する

 アクアの脅迫には、僕のクラスメイトが関与してるようだ。

 どうせ全員に復讐するつもりだったんだ。乗りかかった船。アクアには大船に乗ったつもりで期待していてもらおう。


『情報屋』が相手となればキウイは連れて行けない。

 この国を支配してた魔王が復活したと、情報が流出してはまずい。

 キウイはアクアと一緒にギルドにお留守番だ。


 さあ、ギルドから歩いて数十分後。商業と金融の中心である都に、鬼以上に外道が住む仏魔殿が見えてきた。

 赤いレンガ造りの派手な外観に、玄関先にある大きな看板には屋号が掲げられてあった。


「……『転生したらスキャンダルを追っていた件』??」


 僕が怪訝そうに読み上げると、隣で椎野が補足する。


「通称『転スキャ』だよ」


 めっちゃラノベに影響されたような会社名だな。胡散臭さは増すばかりだ。


「……何か御用でございますでしょうか?」


 不意に、背後から声を掛けられた。振り返ると、椎野と同じシンプルなブレザー姿のJKが両足揃えて立っていた。


「……委員長!!」


 思わず肩書きで呼んでしまった。久しぶりなのに習慣って奴は怖い。


「あらあら、加古君? ……椎野さんまで。どうしたのでございます?」


 妙な丁寧語を使う彼女こそ未来みくる高校『一年桃組』の学級委員長だ。

 大人し目な色の茶髪は、頭の後ろできっちりお団子にして束ねてる。紺のスクールベストも乱れなく、両足のハイソックスも左右対称でかっちり揃えられてる。

 きっちりかっちり生真面目な君は谷巳琴たに・みことじゃないか!


「お久しぶりでございますね。元気でしたか?」


 淡々とした口調が冷たく見えてしまうけど、首を傾げて尋ねる様は愛嬌を感じてしまう瞬間だ。


「僕は相変わらずだよ。実は、ここの一番偉い人に用があって来たんだ」


「……編集長でしたら中にいます。私はここで秘書をしてるんです。案内いたしますよ?」


 話しが早くて助かる! 


「さすが委員長!」


「さぁ、どぞ」


 谷は手の平で室内を示し、丁重にエスコートしてくれた。




 会社の中は、広いエントランスホールに、吹き抜けの天井にはシャンデリア。この造りは貴族の館に似ている。


「立派な会社だね」


 歩きながら僕が尋ねたけど、谷からの返事はなかった。

 廊下に飾られたトロフィーや額縁に入れた賞状は、自分の成果ではないと言った所か。

 はたまた廊下の壁に貼り付けた、各位ある要人のスキャンダル記事にうんざりしてる感じでもあった。


 ひた歩いてると、二階の一番奥の扉に到着した。ここに編集長がいるのかな。さあ、どう交渉するか。僕が密かに企んでいると、


「編集長!」


 扉の前で止まることなく、谷はガチャリと勢いよく扉を開けて中に入ってしまった。

 すかさず室内から聞き覚えのある男の、動揺した声が聞こえてくる。


「お、おぉい!!! 谷ちゃん! ノックして入ることを示してくれっていつも言ってるだろ!?」


「入ります」


「遅いわ!!」


 なんだろ、この雰囲気……。思ってたよりも緩い社風だな。


「編集長。お客様をお連れいたしました」


「あぁん? ……今日アポ取ってたのか?」


「いいえ。たった今私の独断で中へ上げました」


「勝手なことしてんじゃねぇえええ! 最高決定権の俺の意思はどうなるううう!」


 まるで漫才でも見せられてるようだ。ここは喜劇団だったかな?

 生真面目な谷さんがまさかそんなノリをするとは意外だ。僕は物珍しさを感じながらも、やつれ気味で切り出した。漫才の時間は閉幕だ。


「やあ、編集長とは黒田君だったか!」


 仲の良いクラスメイトの登場で僕の緊張も緩む。


「……来客ってのは加古か」


 僕のテンションと違い温度差のあるリアクションだな。

 黒田君も『桃組』の一員。そのリーゼントのように盛り上がった黒髪に、胡散臭い丸サングラスが特徴的だ。アイドルがその眼鏡をかければお洒落だけど、君がするとアウトロー感が出るだけだが。


「椎野もいるのか! ……で? 加古。今更何の用だ? 国が平和になったら現れやがって」


「鷹条さんと同じことを言わないでくれよ」


「会ったか。あいつに。……よく生きてたな?」


「鷹条さんなら決闘して倒したばかりだよ」


「……ほぉ。お前が? 追放された報復でもしたか?」


 お察しが良いようで。彼相手に様子見なんて小細工は通用しない。僕は単刀直入で切り込むことにした。


「黒田君、友人の君に頼みがあって来たんだ」


 友人を誇張して、僕は学ランのポケットから例の写真を取り出した。


「この写真で君がアクアを脅してるんだよね? ギルドの受付嬢だ」


「あ~……。アクアの奴に泣き付かれたのか?」


 悪びれることなく黒田君はあっさりと認めた。黒田君も僕相手に取り繕うのを諦めたって事かな。


「黒田君。これを引っ込めてくれないか? この異世界でどう撮影したのかわからないけど、アクアやギルドマスターを解放してあげるんだ」


「おいおい! 嫌だね。俺は他人の黒い噂で食ってるのよ! 友人の頼みでもおいそれとはやめてあげられねぇ」


 黒田君は長い足を組んでふんぞり返ってしまった。そして高慢に弱者を嘲笑う。

『桃組』クラスメイトには親しい友人も多少いる。完全な敗北を与えず、なるべく穏便に解決してあげたかった。残念だ。君も結局、瑠香たちと同じ住人。

 

 僕が討つべき敵に違いないようだ。


 はぁ……と、僕は深いため息を吐いた。やはりやるしかない。悪魔がかった『スキル』を使うこの手で!

 覚悟を決めた手に魔力が帯び出した、その時だった――


「――だが」


「!!」


 突然、黒田君が折れた。


「アクアを解放してあげる代わりに、条件がある……」


 まさかの事態に僕は発動しかけてた『スキル』を引っ込めた。


「条件? ……いいけど、こっちだって条件によるよ。僕はそこまでお人よしじゃない」


「大丈夫だ。お前は特に何もしなくていいんだ」


 僕は何もしなくていい? それは幸運だ。黒田君は「例えば……」と前置いて続ける。


「椎野。お前の下着だ」


 瞬間、丸サングラス越しの目が邪悪に笑んだのが見えた。まるで巧妙な悪魔に誘われていたように。


「それが欲しい」


「……う、うえ……!!!?」


 椎野は言葉にもならないでいた。その邪悪な視線を生足は感じたか、椎野は抵抗するように内股を強いられる。


「俺は『桃組』女子の下着コレクションのコンプを目指してるんだ。クラス一の天使の下着。欲しいじゃねぇかああああ!」


 友人と言うのも前言撤回したい。


「椎野大丈夫か!!?」


 僕は椎野の精神状態を案じた。メンタル崩壊寸前だったが、辛うじて持ちこたえている!


「椎野! お前の今履いてる下着で手を打とう」


 黒田君の容赦ない取り引きが続く。


「どうした? 下着を出すか、収穫なくここから出て行くか。どっちがいい?」


 他人の足元を見た黒田君は強い。さらに椎野が苦しんでいる要因としては、ギルドでの軽率な返事。

『力になります』『任せておいてください』

 あの安請け合いが自らの首を絞めるとは、おとぎ話みたいなオチだな。


「……~っっ!」


 椎野はわなわなと震える手で、スカートの中に直接両手を突っ込んだ。

 翻ってめくれた短いスカートからムッチリな太ももが覗くと、黒田君は食い入るように凝視して目に焼き付けた。


 戸惑う手でスカートの中のパンツを握り締めると、椎野は辱めに屈するように内股になってパンツをゆっくり下ろす。

 屈辱的な表情にも黒田君は満足そうだ。

 

 膝まで下ろして手放すと、純白のパンツがスカートからはらりと両足を伝って滑り落ちた。こんな断頭台があるのなら喜んで頭を差し出したいと言わんばかりに、僕と黒田君が「おお!」と唸って釘付けになる。


 足首まで下ろしたパンツを、片足ずつ上げて履き口から足を抜き放った。折り曲げた瞬間の太もも膨れ上がり、男の煩悩をくすぐって憎々しい。いや、肉肉しい。

 やや湿ってるのは、黒田君との不健全極まりない取り引きに不快にも汗ばんでいるからだ。


「どうぞ……」


 自己犠牲精神の椎野だ。我が身を盾にできるなら、下着の一枚や二枚、痛くもかゆくもないって顔をしてる。……たぶん!


「いい子だ。今の平穏を脅かさずに明日も生きたいのなら、まずは従うことが一番だ」


 乱暴に突き出した白パンを黒田君が受け取ると、賄賂を隠すようにパンツは懐へと消えた。


「この異世界に現実世界のような警察の権力なんざ当てにならねぇ。身ぐるみも金目のものも無けりゃあ命を賭けるしかない。俺はな、欲しいって言や必ず手に入れるのさ!」


 かっこつけて息巻くが何をほざいてもかっこ悪い。

 なるほど。差し詰め命を賭けれなかったこの男は、魂でも悪魔に売ったのだろう。 


 名が折れる『変集長』め!

 

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