第12話 僕は暴力系ヒロインは嫌いじゃない②

 酒場ではテーブルやら椅子を運び出す酔っ払いたち。今まさに『ゲーム』会場が作られつつあった。


「……カコ」


 ん? キウイだ。僕の袖をつまんで小さく引っ張る様は、何かをねだる子供みたいだった。


「どうしたんだ?」


「……あれ」


 キウイはおもむろに指をさした。

 僕がその指の先を追いかけると、これから決闘する相手の鷹条さんの姿だ。


 和装セーラー服と言う特注品で、袖口が着物みたいに広い。装飾も和風にあしらわれてる。そして肉感たっぷりの足を包むハイソックスを身に付けてる。


「あの服が欲しい」


 僕以外に興味を示さなかったキウイだが、どうやら一目惚れしたものを見つけれたようだ。

 どうしようか。普通に鷹条さんに向かって「くださーい」って言ったら、普通に変態になるだけだし……、


「加古ぉ!!」


 僕が思案してると、鷹条さんが乱暴に呼びつけてきた。


「『チンチロ・ファイト』は賭け勝負だ! 万が一、天と地がひっくり返って私が負けたら……お前何が欲しい?」


 つまり負けるわけがないって言いたいんだね。しかしこれは渡りに船だ! これで堂々とキウイの服を手に入れられるぞ!


「じゃあ……、君が着てる服を頂こうかな?」


「……っっ」


 凍り付く一同。結局変態発言に変わりはなかったみたい。


「いいだろう。負けたら私の服をくれてやる……」


 呆れながら辰美君が二つ返事で応える。


「その代わり、お前が負けた時にはニ度とその面を私たちに見せるな。この【カイン王国】から追放だ!」


 またしても僕に追放のトラウマを蘇らせようとする。


「わかった!」


 こちらも二つ返事だ。ニ度と偉ぶることができないようにしてあげるよ。

 そうしてる間に障害物は片付けられ、酒場に広場が形成された。


「加古! 『チンチロ・ファイト』の説明をするぜ」


 決闘の準備が整った所で、鷹条さんが自ら仕切った。


「ただ殴り合うんじゃ面白みがねぇ。このゲームではサイコロを使う。私たちは交互に振ったサイコロの出目で攻撃回数が決定する」


 そう言ってポケット出てきた何の変哲もないサイコロ。僕はルールを理解しながら質問をした。


「つまり、『一』が出たら『一発』、『二』が出たら『二発』ってことだね?」


「そう言う事だ。『スキル』は自由に使え。相手が女でも容赦するとか考えるな? ただし、『一』が出たらそのターンは『スキップ』。ノーカンだ。いいな?」


「OK!」


「よぉし。『チンチロ・ファイト』の開始だ! まずは私から……」


 有無を言わせず、当たり前の如く鷹条さんから始まった。

 鷹条さんはサイコロを握った手の中で振ってから、床に向かって投げ放った。僕と鷹条さんが向かい合う目と鼻の先で、転がったサイコロが止まる。


「……『二』だ。私はこのターン、二発の攻撃が許される。おっと、その前にお前に私の『スキル』を見せておかなきゃな!」


 鷹条さんは宙に手を突くと、突然ウィンドーが表示される。これは鷹条さんの『ステータス』だ!


 ◆◆◆


〈名前〉鷹条千早

〈年齢・性別〉16・女性

〈役職〉格闘家

〈体力〉300/300

〈魔力〉350/350

〈攻撃力〉500

〈防御力〉200

〈素早さ〉100

〈運〉200


〈所有スキル〉

【逆鱗】

 効果:感情に応じてステータスが変化。怒るほどに元の攻撃力が倍化する。


 ◆◆◆


 ステータスがオール三桁だ! 常人などは100が精一杯だと言うのに。ましてや攻撃力の数値は抜きんで出てえぐい。


「加古! 私の攻撃力は未来みくる高校『桃組』クラスの中で最強だ。……骨いっても知らねぇぞ?」


 そんな物騒な言葉を残すと、後腐れなく鷹条さんが仕掛ける。


「うらぁああああ!」


 猛烈な気迫で拳を繰り出す。鷹条さんのストレートは僕の腹部に直撃した。


「うっ……!」


 衝撃が体を貫いてくる。臓物が吐き出そうな嗚咽を堪えると、追撃の猛襲が続く。


「もう一丁!!!」


 二発目の拳は僕の頬を捉えてた。メキッと鈍い音が鳴って僕は吹き飛んだ。バキバキッと、抜けた床に僕の体はめり込んだ。


「ひゃっはっはっは!! 怖いねぇ千早ぁ!!」

「容赦ねぇな!」

「ひょろガキを殺すなよ!!」

 

 ギャラリーからの心無い嘲笑が聞こえてきた。


「二発でもう終わりか? 手ごたえねぇな」


 たった二発で沈んだ僕に吐き捨てる鷹条さん。


「ワンターンキル。現在『チンチロ・ファイト』連勝九十九回目だ。これで百だが……お前が相手じゃしけるねぇ」


 どうやら連勝記録も天秤にかけられていたようだ。

 僕は床に埋まった体を引き抜き、辛うじて起き上がった。周囲のギャラリーは感心しているようだったけど、鷹条さんは驚いてはいない。自分から仕掛けて二発でダウンとは思ってないからだろう。


「……僕の、番だ!」


 僕の抉れた顔面の痕が痛々しいからか、椎野が顔を覆っていた。

 僕はサイコロを投げると、控えめに転がって一瞬で止まった。盛り場も作れなかった。出目は……、


「……『一』だ」


「残念だったな加古。『一』はスキップだぜ」


 再び順番が回って来て嬉しそうな鷹条さん。サイコロを手の中で転がして焦らし始めた。


「ワンターンキルのチャンスはまだあるようだ」


 勝利の女神は自分に微笑んでいると確信していた。そして威勢よく投げ飛ばしたサイコロが床の上で止まる。出目は……『六』だ。


「「「「「ふぅううううううううううう!!!!!」」」」」


 このゲーム最高の出目に、ギャラリーの盛り上がりもピークに達する。


「悪ぃな加古。これで最後だわ」


 ボキッ、ボキっと手の骨を鳴らして鷹条さんは笑みをこぼす。


「出目は『六』。お前の番はスキップしたから、このターンで勝てば私のワンターンキルは達成できる!」


 おいおい。自分の有利な条件ばかり後出しで言っちゃって、往年のカードバトルかなんかですか?


「消えろ……、加古おおおおお!!!」


 ファイティングポーズを取った鷹条さんが、拳を大きく振り上げて迫る。

 右フックに左ストレート。身を低くくした僕の腹に蹴りを入れた。床にうつ伏せたところで両手を握り合わせて寝そべった僕に打ち付けた。


 バキッと、床が砕き割れた音が響く。破壊的な攻撃が六発決まる前に止まった。


「はぁ、はぁ……! 弱い者イジメしてる感じだぜ……。今日のはカウントしなくても良いわ。こんな奴相手じゃ……んん!?」


 粉塵の向こうでむくりとまた起き上がる僕の姿に、鷹条さんが目を見開いて驚愕した。

 鷹条さんは息が上がっていた。思いのほか疲弊してるのは辰美君とわかると、ギャラリーの評価も変化した。


「ひっ……ひゃっはっ……。な、中々やるねぇあの『カコ』って奴も」

「ぶちのめした感がねぇな……」

「ひょろガキを殺す気で行けええ!」


 みんなゾンビを見るような目だった。実際けろっとしてる僕の姿に、攻撃の手数ほどのダメージが確認できてない様子だ。


「野郎……!!」


「まだ気づかないの?」


 煽るように僕は鷹条さんに尋ねた。


「さっきから圧倒的に攻撃をしてるのに手ごたえがないでしょ?」


「……っ」


 確かにと、鷹条さんは自分の震える拳を見つめる。


「それはね、僕の【盗むバンデット】による影響さ!」


「てめぇの『雑魚スキル』が、私に何したって……?」


 鷹条さんはまだ僕を侮っているようだった。決定的な攻撃力不足と、『雑魚スキル』では何もできないと考えているようだ。


「僕の『盗賊のスキル』は他人の物ならなんでも盗めるんだ。例えば概念だったり、人の心だったり……」


「……?」


 まだ理解してないようだ。脳筋鬼ゴリラ女には難しい問題だったかな。

 だったら猿でもわかるように教えてやろう。


「ステータスオープン」


 僕が自分のステータスを開示した。何もなかった空間に僕の情報ウィンドーが表示される。


 ◆◆◆


〈名前〉加古現

〈年齢・性別〉16・男性

〈役職〉盗賊

〈体力〉40/70

〈魔力〉50/80

〈攻撃力〉530(500アップ!)

〈防御力〉60

〈素早さ〉100

〈運〉100


 ◆◆◆


 僕のステータスで、一つだけ異様に上昇してる数値。それは攻撃力だ。これは君から盗んだ数値を僕のに加算されてるんだ。


「まさか……!!」


 不穏を感じた鷹条さんもステータスを表示し出した。


 ◆◆◆


〈名前〉鷹条千早

〈年齢・性別〉16・女性

〈役職〉格闘家

〈体力〉300/300

〈魔力〉350/350

〈攻撃力〉0←(500ダウン)

〈防御力〉200

〈素早さ〉100

〈運〉200


 ◆◆◆


「こ、攻撃力が『ゼロ』……」


 やっと理解してくれたようだ。


「僕はね、君から攻撃を受ける度に『君の攻撃力を100ずつ盗んでた』んだ」


「……攻撃力を盗んだ?」


「そう。現在、君から受けた攻撃回数は『5発』。だから500奪った。君の攻撃力は『ゼロ』になったわけだ」


 青ざめていく鷹条さんの顔。自分の誇るべき力を失った瞬間だ。


「これでは初めの僕の攻撃力『30』よりも弱い。虫も殺せないんじゃないかな?」


「……っっ」


「まだ君のターンだ。あと『二発』残ってるけど、やる?」


「加古ぉおおおおおおお……!!!!」


 奥歯を噛みしめて、鷹条さんは憎悪と怒りをたぎらせた。


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