第11話 僕は暴力系ヒロインは嫌いじゃない①

 王都――

 今や魔王を退治したクラスメイトたちの、神聖なる居住区になっているようだ。

 クラスの女子たちは特に格が高いようで【女傑ヒロインず】と呼ばれてるらしい。



 ひた歩いてると、僕たちの目と鼻の先にようやく冒険者ギルドが見えてきた。

 大きな酒樽がたくさん転がってる入り口。雰囲気ある木製のスイングドアに、中からは荒々しい男たちの嘲る笑い声が聞こえてくる。

 そんなウエスタンな外観こそ冒険者ギルドであった。


「よし。みんなよく聞いてくれ」


 僕は椎野とキウイに号令をかけた。


「これからギルドに潜入する! ここは敵地だ。なるべく騒ぎ立てたくはない」


「そうだね」


 椎野が賛同すると、キウイも僕に向かって静かに頷く。

 ましてやキウイは魔王だ。顔バレするかもしれない。


「クラス全員の強さは僕も知ってる。本来僕が正面から向かって倒せる奴じゃない。でも大丈夫。僕には必勝法がある。だからなるべく不意打ちを狙いたい!」


 必勝法。それは当然【盗むバンデット】の事だ。

 作戦会議が終わりギィ……と、スイングドアを押して僕たちはギルドの門をくぐる。

 雑多な内装に、やや薄暗い室内は冒険者を歓迎する雰囲気ではない。どちらかと言えば夜の顔の犯罪の匂いがする酒場だろう。


「ぎゃははははは!!!!」

 

 陽気な声の正体は、ギルドの受付に併設してる酒場の方だ。長いカウンター前にはたくさんのテーブルが設けられており、そのほぼすべてが物騒な客たちで埋まってる。創作物のように歓迎してくれる空気ではない。

 すると、


「椎野じゃん!」


 ギクッと、僕と椎野が肩を震わした。

 声の主は酒場の奥のテーブル席だ。


「た、鷹条たかじょうさん……!」


 あっさりと見つかると、椎野がバツ悪そうに応じる。

 椎野の続いて僕も麗しきセーラー服の鷹条さんの姿を見つけた。

 いやはや男だらけの店内で、女子高生が一人で場を仕切る姿は異様だ。


 美しい金髪のロングヘアに挑発的に露出した長い足。体の半分以上は足じゃないかと見紛う。

 あの活発的な雰囲気は間違いなく【女傑ヒロインず】の一人――鷹条千早だ。

 司るは『正統派暴力系ヒロイン』。

 彼女に蹴られたい男子は後を絶たない。僕もその一人だ。


「椎野! どこ行ってたんだ? 瑠香が探してたんだぞ!」


 男勝りな口調で鷹条さんが尋ねると、椎野は委縮する。


「う、うん……。ちょっとね」


 だからはぐらかして答えた。

 その脇でチラつく僕の姿に、鷹条さんもようやく気が付く。


「……加古ぉ!」


 でも、その反応は意外だった。


「久しぶりだな! 元気だったか!? お前らもこっち来いよ!」


 なんとも好意的に呼びつけてくれる。目が合ったら半殺しを覚悟する相手だと思っていた。

 僕たちは大人しく鷹条さんに呼ばれることにした。


「ここ座って!」


 酒場の一番奥、特等席と言えるテーブル席に招いてくれた。

 鷹条さんは自分のすぐ隣の椅子を引いて、まず椎野を座らせた。


「加古もどこかに座りなよ」


「うん」


 調子が狂うな。こんなに歓迎されるとは想定してないから、僕は密かに潜入を決断したのだが。


「えーと……」


 テーブル席はどれも五人掛け。鷹条さんのテーブル席はたった今、椎野が座って全部の椅子が埋まってしまった。

 さて、僕とキウイはどこに座ろうかと見渡したけど……、


「……満席じゃないか!」


 そう。現在酒場に空席はない。僕とキウイはあてもなく突っ立っていた。


「ああ~」


 不穏を感じてると、鷹条さんが白々しく頭を抱える。


「悪ぃ加古。今、座れる場所なかったわ」


 その間、鷹条さんの取り巻きと思わしき男たちがニヤニヤと笑んでいた。


「加古。また、お前は仲間外れだわ。……床にでも座ってる??」


 鷹条さんの罵りに周囲の人々が「ぎゃはははははっ!」と、汚い声で嘲笑して応える。

 追放されたトラウマを刺激したつもりか。腕っぷしが自慢の番長が、随分と陰険な嫌がらせを思いつくよ。


「加古ぉ。座りたきゃ私らを立たせてみな? 『椅子取りゲーム』だ!!」


 そう言って、鷹条さんはゲームを仕掛けてくる。


「誰でもいいぜ? どんな手を使ってでも、弱そうな奴を狙うも良しだ!」


 そんな野蛮なゲームを僕が素直に応じるわけない。


「鷹条さん。座る場所はいらない。僕は君に決闘を申し込みたい」


 ピリッと空気が張りつめた。誰もが鷹条さんのご機嫌を伺っているからだ。

 だけど僕が君に気を遣う義理はない。


 感動の再会もない。あるのは君への恨み辛みだけだ。


「てめぇ……! 生意気よ加古ぉおお!!!」


 テーブルを叩きつけて荒々しく立ち上がる。ふんぞり返ってた椅子も、テーブルの上のグラスも倒して君は相変わらず迷惑を考えない。


「孤独過ぎてついに狂ったか?」


 まくしたてる鷹条さん。ひるむことはない。今の僕にはチート級の『スキル』があるんだ。


「孤独とは言い様だよ。クラス転生したあの日もそうだ。『桃組』のクラスメイトがそれぞれパーティを編成してた時、瑠香は僕がどのパーティに入れないように操作してたんだろ? お陰で僕はぼっちになってしまった」


「あれはあんたの『スキル』が雑魚いのが原因だろ? あんたは元よりぼっちだから」


「そんな事ないんだよ。僕の『スキル』は雑魚くなかったんだ! 君にも見てもらいたくてね。そして君に教えてあげるよ。本当に孤独なのはどっちなのかをね」


 ちっと、鷹条さんは舌を打って不毛な問答に嫌悪した。


「いいぜ。加古。あんたの決闘受けてやるよ。ゲームも変更。このギルドのメインイベント……【チンチロ・ファイト】で決着ケリつけてやるぜ!!!」


「ちんちろ?」


 事情通な周囲からは「ふぅ~~~!!」と、歓声が湧き上がった。ちんちろファイトとは?   



 ――「そうだ。鷹条さん」


「ああ?」


「君は椅子から立った。立たせることに成功したんだから、とりあえず『椅子取りゲーム』は僕の『勝ち』でいいよね!」


 一番強い奴を立たせることができたんだ。これは僕も鼻高だ。


「……っっ! 加古ぉおおおおお!!!」


 抜け目ないのが盗人の性分なので。

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