第10話 僕は卑怯者が嫌いだ。だから正々堂々盗む

 今日は、久しぶりの友人との再会で話しに花が咲いた。

 椎野が夕飯にシチューを作ってくれたので、ちょっと固くなってたパンを浸しながら食べた。

 食後、腹が満たされたからか睡魔が襲ってきて、早めに就寝に着くことに。

 今日は新生活で、一日中忙しかった。疲れてたのかもしれない。

 


 深夜だった――


 同室。椎野とキウイはすでに寝入っている。

 なにせワイドな窓だ。煌々と差し込む月明かりが眩しそうなので、カーテンを閉めて部屋を暗くした。

 僕は眠れない夜を過ごしてると、階下で何か物音が聞こえた。


 立派だが案外年季の入った屋敷。玄関の大きな扉は開けると、ギギギっと軋んだ音が響くのだ。

 僕は開け放ってた学ランのボタンを留めて、満を持して部屋を出た。


 屋敷の外へ出ると、茂みの奥で人影が見えた。つかの間の雲が晴れると、月光がその人影を映し出す。


「!!」


「……小森」


 仰天して僕の顔を覗き込むのは、今しがた別室で就寝したはずの小森だった。

 都からお供してた黒馬に、今まさに跨ろうとしかけてる。


「加古……」


 不都合そうに挙げてた足を下ろす小森。


「……寝てたんじゃなかったのか?」


 随分シリアスな口調。犯行がバレた殺人鬼みたいな顔をしてる小森に、僕は淡々と返す。


「寝ようと思ってた。でも寝つきが悪くて。ああ、椎野とキウイなら、とっくに深い眠りについてるよ。夕食に食べたシチューに、睡眠薬でも入ってたみたいにね」


「お前は?」


「僕はシチューには口付けなかった」


「食えない奴」


 小森は冷たく呟く。きっと椎野の手作りシチューなら、安心して完食すると踏んでいたのかな。残念。来客がいるんだから、警戒心MAXで注意を払っていたんだ。お陰で固~いパンだけをかじってた。


「やっぱり薬、君が入れたんだろ? 僕の能力と目的を、早くギルドに戻って辰美君に報告か? 相変わらず辰美君の犬だなぁ」


「うるせぇ」


 積もる話しがあるとか言いながら、まるで尋問みたいな会話だった。僕の耳はごまかせないよ。

 逃亡に失敗した小森は、手段を変えて僕との対話を始めた。


「シルヴィさんの件は、不問にしておく。だが、キウイは無理だ」


「僕とキウイは君たちに因縁がある。利害が一致してるんだ。だから、一緒に君たちの栄光を奪って、この国を乗っ取ってやろうってね」


「加古!!」


 声を荒げる小森。


「目を覚ませ! 魔王を退治してからこの国は瑠香たちが仕切ってるんだ」


 なるほど。未来みくる高校の『女王様』は、必然的に異世界の国でもでかい顔してるってわけだ。尚更気に入らないね。

 そうとも知らずに小森は、僕の説得を続ける。


「……今なら俺から瑠香にも取り合ってやる。お前のその野望とキウイを捨てられるなら、お前は俺たちの仲間になれるはずだ!」


「あいつらに頭を下げろって?」


「大人になれ加古! 復讐しても何にもならない!!」


 ベッタベタのセリフを使ってくれる。大人になる事で、自分の信念とキウイを失うくらいなら、子供のままでいいよね。どうせ僕たち、子供だし。


「小森。君のあだ名って、名前をもじって『』だったよね」


「なんだよ、今更……」


 気にしてたか。小森はやや不機嫌そうに返して来た。


「中学の時からのよしみだ。小森。君はその頃から、イジメられてた僕に優しくしてくれてたね」


「友達だろ。当然だ!」


 そんな臭いセリフを、臆面もなく言える。僕はなんていい友人を持ったんだ。

 だけどね、何の曰くもないのに誰も『コウモリ』なんて、あだ名することはないよ。


「君は僕を慰めてはくれるけど、瑠香サイドのスタンスは、変えようとしなかった……」


「……」


 ついに口を閉ざす小森。


「君はイジメる側から、僕を慰めてくれる。本当は友達と思ってないよね? 罪悪感?」


「違う!」


「追放の時もそうだった。一度は僕を擁護してくれたけど、僕が不利な状況になるとすぐに逃げ出す。お前は息をするように人を裏切る」


「……俺の立場もある」


 それが彼の本音だろう。出るものが出たか。やはりこの男は、女王のしもべなんだ。


「ねぇ、知ってる? 『卑怯なコウモリ』って話し」


「……?」


 知らなそうだ。なら教えてあげよう。


「コウモリって『牙』もあれば、『翼』もあるじゃない? 大昔、獣と鳥がいつも戦争してたそうなんだ。コウモリは『わたしには牙があるから獣の仲間です』と言ってたのに、獣陣営が不利になると、今度は『わたしは翼があるので鳥の仲間です』と鳥陣営に寝返った。やがて、コウモリは獣からも、鳥からも仲間外れにされた。そして暗い洞窟に住み着くようになり、他の動物たちが寝静まった夜に狩りに出るようになった――」

 

 めでたしめでたし。昔話の終わりだ。

 今時受けない、バッドエンドものだな。


「君そっくりじゃないか『コウモリ』! どっちつかずのお調子者!」


「だから何なんだよ」


「ずっと思ってたんだ。誰にでもいい顔してる君のメンツ、それを剥ぎ取ってやりたいって!」


 今ならその『夢』、叶えられる『スキル』が僕にある。

 念じるんだ。新たなチートを越えたチートを!!!


「やめろ……」


 散々尋問して、僕の能力を勉強してたんだ。なら、これから君に起きる事も、お察しできるよね? 僕は今、邪悪な発想に事欠かない。



「孤独に破滅しな……! 【大泥棒アルセーヌ・バンデット】!!!!」



 僕の手が小森の顔面を覆うと、バリっと閃光が走った。


「…………!!!?」


 恐る恐る目を開ける小森に、僕は飄々と尋ねる。


「気分はどう? 僕の『スキル』は、あらゆる所有権を奪うことだけど、返却時も元の所有者に限る」


 ここからが新たな『スキル』の特性だ。


「でも、【大泥棒アルセーヌ・バンデット】では触れてを、 に移動できる」


「あ……ああ!」


 小森も異変に気付いたようだ。


「つまりね、『君の顔』と愛用の『馬の顔』を盗んで、入れ替えたんだ」


 小森が自分の顔をまさぐって確認を続ける。

 細長い顔、目と目の感覚が広く、前に突き出したシャープな鼻と口……。パーツの全てが自分の物と違う。


「……!!」


 屋敷の窓越しに自分の姿を見た。肉付きのいい自分の豊満な顔ではない。被り物でもない。自分が跨っていた黒馬の顔になっているのだ。

 はっと気づいて、次に小森は愛馬を見た。黒馬の顔もまた、首から自分の丸顔が生えてる。ケルベロスとも違う、異世界でも奇妙な生物に変貌だ。


「ぎゃあああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


「いいざまだよコウモリ。いや、馬? もうどっちかわかんないな。そんな姿でギルドに帰っても、君の言葉を信じてくれるかな? それどころか、瑠香たちが馬面うまづらの君を、仲間に迎えてくれるかな?」


「……っっっ!!!」


 引き剥がそうにも取れるわけがない馬の顔。それが今日から君の顔だ。この力なら整形も余裕だな。


「馬コウモリ。君も一度は、孤独の味を覚えると良いよ」


「やめてくれぇええええええええええええええええ!!!!」


 馬面うまづらで人語を使い、絶叫する小森。人面で馬の鳴き声を繰り出す化け物。

 小森を縛って乗馬させると、そのまま駆け出した人面馬は森に消えて行った。


 さて、『新スキル』の確認だ。


 ★★★★


〈加古現・スキル〉

盗むバンデット

 効果:触れた相手の所有物、概念などを盗んで自分の所有物に変える。


返却バイオフィードバック

 効果:【盗むバンデット】で奪ったものを、所有者に返すスキル。


大泥棒アルセーヌ・バンデット】←NEW!

 効果①:触れて盗んだ相手の所有物を、相手以外の者に移すことができる。


 効果②:触れていなくても、相手の所有物と自分の所有物を、強制的に入れ替えることができる。その場合、相手の所有物の価値と、自分が持ってる所有物の価値は同等でなければならない。


 ★★★★


 ふむふむ。【大泥棒アルセーヌ・バンデット】は二種類あるようで、小森に行使したのは『効果①』だ。


 二つ目の『効果②』は、【盗むバンデット】最大の難点であるリスクを無視できるんだ。

 その代わり、相手と入れ替えるものは『僕の物』であり、必ず『等価交換』が発生する。

 接近するリスクがない分の条件と言う訳か。



 さて、明日はいよいよ本命を盗りに行く!

 女王気取りの瑠香が作った国を破壊する。そして作り直してあげる。


 僕の為の【ハーレム王国】をね!!! 

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