第9話 椎野。僕の目を盗んで他の男と接するのは許さない

 キウイと友人の小森を連れて屋敷へ帰った僕たち。



「加古君!!」


 屋敷が見えてくると、すでに外で待機してた椎野が出迎えてくれた。まるで我が家に帰った様な安心感。


「もう! 心配したんだから……!」


 少し遅くなっただけで執拗に心配される。まるで母親のような奴である。


「ごめんごめん。ちょっと、キウイを迎えに行ってたんだ」


 さっきまで僕と口をきいてたキウイも、椎野の前ではまた無口になり口を閉ざす。


「キウイ御前!? 連れて来ちゃったの……?」


 そしてキウイを連れてきた事で椎野も警戒してる。

 魔王とその因縁ある勇者一団。無理もないかぁ。

 空気が悪いで僕は二人の間を取り持った。


「もう大丈夫! キウイは僕たちの味方だよ!」


「そう、なの……?」


 僕は詮索する椎野も黙らせると、僕の背後からひょいっと、小森が姿を見せた。


「小森君!?」


「や、やあ! 椎野。久しぶり」


 突然現れたクラスメイトに、椎野も驚いていた。


「【カイン】が平和になった後、『討伐隊』に入ったんだよね?」


「まあね! そう言う椎野こそ、加古と一緒だったんだ……。突然瑠香たちの派閥からいなくなって、心配してたんだぞ」


 小森は僕と椎野の関係を探っていた。小太りモブ野郎が。


「そうだ! 久しぶりにやっておくか!」


 小森が唐突に提案をする。僕には何のことかわからないまま、椎野と小森は向かい合って始まった。


「「ウィ~~~~~」」


 若者言葉の典型の挨拶。小森が椎野に向かって拳を出すと、椎野も拳をコツンと突き合わせた。

 うざっ! 固い友情を結ぶ、かっこつけた挨拶だ。それが男女となれば、距離感の近い者同士でなければできない高等テクニック。女子とまともに話せない僕なんかでは、ボディタッチなど高望みなんだが。


「ははっ! 椎野、覚えてたか!」


「もちろん! 学校でもよくやってたよね!」


 その輪の中に入る余地がない僕は、蚊帳の外じゃないか。案外女子と慣れ合えるコミュ力持ってるようだね。

 納得いかないので、僕はこそっと椎野に触れた。そして、僕の荒んだ心を癒す『スキル』を発動する。


(【盗むバンデット】!!)


 心の中で呟き、椎野の記憶に巣食らう、小太りモブ野郎の情報を全てかき消してやった。


「……」


「どうした椎野?」


 突然目から光が消えてフリーズする椎野に、小森は動揺を隠せない。


「あ……ああ……。あっ……!」


 頭の中をいじくってる間、アヘ顔で廃人みたいになってしまう。ごめんね椎野。

 椎野の記憶を洗って僕は『スキル』を止める。

 さあ、出来の具合は……。



「…………加古君、この方は誰?」



 大大成功!! 椎野の記憶から小森の記憶が消えた。モブの顔なんか覚えておく必要はない。


「ああ! 僕の知り合いだよ。小森って言うんだ」


「え? ええ?? 椎野? どゆこと!!!!?」


 小森の慌てぶりよう。一瞬で君の存在が消えてしまったんだ。君たちの絆も大したことないね!


「小森さんね。はじめまして。椎野と言います。いつも加古君がお世話になっております」


 まるで僕のお嫁さんになったみたいじゃないか。効力あり過ぎ!

 青春の一ページである思い出を黒く踏みにじり、椎野からは真っ新な白紙に戻してやった。


「椎野……。グータッチ……」


「グータッチ?」


 小森の誘いにも、もう椎野は乗らない。乗れない。知らない。さよなら。

 



 屋敷の中に入ると、美術館のような豪奢な内装に小森も目を丸めてた。

 こいつも学がないから、この屋敷の展示物の価値はわからないだろうけど。


「すげぇ屋敷! お前らの拠点か?」


 小森は天井を見上げたまま質問してきた。


「そうだよ」


 盗んだんだけどね。まあ、正直に言う義理はないから、誇らしげに毅然としていればいい。

 すると、小森は僕にコソッと耳打つ。


「……お前の『スキル』って【盗むバンデット】だよな?」


「うん。雑魚アイテムしか見つけれないクズ『スキル』さ」


 ちょっと皮肉ってみた。当てつけに聞こえたか、小森は表情を歪めながら迫ってきた。


「謙遜すんなよ! さっきの見たぞ? シルヴィさんに何したんだ?」


 自分の仲間に起きた珍事だ。小森も放って置けないようだ。

 僕は得意気に説明した。


「僕の『スキル』は、あらゆるものを『盗める』能力に覚醒したんだよ。盗める物は形あるものから、概念まで様々だ。……シルヴィたちにやったのは、『怠ける』以外の『欲求』を盗んだ」


「ってことは……シルヴィさんたちは、一生怠け続けることしかできないのか!?」


「正解!」


 青ざめる友に、僕は楽観的に答えた。

 倫理を犯し、生命を書き換える。そんな神をも恐れない、凶悪な『スキル』におののいてるようだ。

 にこの『スキル』を持ってれば、僕が追放なんかされなかっただろう。小森はそんな風に考えてるようだ。


「お前……これからどうするんだ?」


 小森が立て続けに僕に問う。僕は丁度壁に掛けかけられてた、【カイン王国】の地図を見ながら説明した。


「まずはこのアルバス田舎町を出るよ。そして都に行く。まずはそうだな……冒険者ギルドを訪ねるのが鉄板だよね」


「都は瑠香が縄張りにしてるから危険だぞ?」


 瑠香……。『一年桃組』のクラスメイトであり、未来みくる高校の最強の女王様だ。

 さらには、暴力的に僕を追放した張本人でもある。


「丁度いいよ。僕を追放したみんなに復讐するつもりだったんだ。相手として不足はない」


 僕は飲み物をぐびっと一思いに飲み込んんで、再び小森と向かい合った。


「小森。僕と一緒に戦ってくれないか?」


「……お、俺も?」


「女子比率が高い我らが特殊なクラス。通称だ。個性豊かな女子たちが作った国で、僕ら男子たちはいつも肩身が狭い。これじゃあ、現実世界でも同じだ!」


「……だがしかし、女子共はどいつもこいつも強力な『スキル』を持ってるぞ?」



「大丈夫。僕がいる! この【盗む《バンデット》】があれば、女子たちを徹底的に服従させることができる! ……【カイン王国】あらため、僕たちの【ハーレム王国】を建国するんだ!!!!!!」



「加古……。お前、変わったよな」


 そう言って小森は、かつての旧友の面影もない僕から視線を落とす。


「……それに、本当に魔王と共存なんかできるのかね」


 ぽつりと小森が呟くと、キウイは小森を蹴飛ばした。


「ぐへぇええええ!!!」


 床に叩きつけられた小森に、キウイが片足で踏んづけて見得を切り出す。


「無礼者が……!!! モブ顔のくせして! お前と共存してあげるかどうかは、これから私とカコで決める事だ!!!」


 魔王の性は健在だね。その気概がなければ国家転覆なんてテロ行為はできないよね。


「貴様は地に這いずって塵を食べて、命を乞え!!!!」


「だ、だずげで……!!!!」


 ぐりぐりと足で小森を踏みつける。こんなの止める意味もない。むしろご褒美まであるだろ。


「小森、キウイに謝っとけって」


 僕が小森を楽観的になだめると、椎野が優しくフォローし始める。


「ごめんなさい小森さん」


「小森『さん』!?」


 だが小森は、余所余所しい呼び方が気になって仕方ない。


「キウイ御前には、ちゃんと言い聞かせておきますので……」


 まるで我が子のような言い草。天使から魔王が生まれたって、誰も信じてくれない。


「お前ら……夫婦か!!!?」


 小森はやつれ気味に語気を強めた。


 キウイの存在がいい感じで僕と椎野を夫婦に見せて、三人家族のコミュニティーを形成してくれる。

 僕が欲して盗んだもの以上の、恩恵が巡って来てくれる。【盗むバンデット】さまさまだ。



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