作戦名、僕らのハーレム王国

第8話 僕が盗みたいのはお金じゃない。人間の尊厳だよ。

 僕の活躍で救済されたアルバスに、再び平和をぶち破るような足音が響いた。

 やがて数匹の黒馬が空を切り裂いて現れた。黒馬を駆るのは、裸体に甲冑を纏う少女たち『討伐者』である。


「『討伐隊』だ……」


 アルバスの民の一人が、唇を震わせた。

 なるほど。冒険者ギルドの刺客がやっと出向いて来たか。


「ひどい……」


 討伐隊の一人が小さく嘆いた。今しがた暴れまわったキウイによって、崩壊した町の惨状に心を痛めてる。

 別の女性は、火災で焼き焦げた匂いに思わず鼻を手で覆ってた。


「民たちよ! 無事か!?」


「シルヴィ様……!」


 露出狂女の中でも、バストやお尻、足を露出させた者ほどランクが上のようだな。シルヴィと呼ばれた女討伐者は、ほぼ裸体。申し訳程度の西洋甲冑を身に着けて、背中には大きな大剣を背負っていた。


「魔王はどこにいる!」


 返り血を思わせる真っ赤な髪に、多くの命を討伐してきただろう大剣を携えるシルヴィが好戦的に民へ尋ねた。


「そ、それが……」


 問われた民が、畏まりながら言葉を詰まらせた。アルバスの民にとって、キウイは命を脅かした因縁のある存在だ。


「……?」

 

 これにはシルヴィも不思議がってる。出向いて来たのだ。すぐにでも討伐してやろうと踏んでいたのだろう。


(……君!)


 一人の女性が僕に耳打ってきた。声を出しかけると、その女性は「しっ!」と、指を口に当てて制した。


(その子を連れて、早くここから逃げなさい!)


 彼女はこの小さなアルバスの民だ。自分の町を破壊されたのに、キウイをかくまってくれると言うのか?

 僕はその真意を小声で聞いて確かめていた。


(どうして助けてくれるの? キウイは恨まれても仕方ないのに……)


(……ええ。でも『討伐隊』の裁きは惨いの。そんな小さな子が殺されるのは、誰も見たくないはずよ……!)


 その女性の言う通り、未だシルヴィの質問をはぐらかし続ける民たち。


(破壊された町は元に戻せるわ。でも、殺された命は戻らない)


 女性は僕に問い続けた。キウイによって、死者が一人も出てないのが幸いだろう。


(さあ、早く……!)


 するとシルヴィはこそこそと、僕たちが声を潜めてるのに気が付いた。

 そこには頭から角を生やした少女がいる。これにはシルヴィも勘が働いたようだ。黒馬を歩かせて僕たちに迫る。


「そこの角が生えた小娘、お前は魔族か?」


 その洞察の通りだ。僕は思わず衰弱したキウイを抱き寄せてしまった。それが疑るシルヴィを確信へと誘発してしまう。


「民どもが一様にして口をつぐむのは、魔王であるこの少女をかくまいたいからでは?」


 ご名答だ。いい洞察してる。こういうヤツは生かしておくと、後で厄介な存在になるのが相場だ。

 始末しておくか……!


「そこの少年。お前も魔王を匿うか?」

 

 シルヴィが僕に目を付けた。


「魔王を匿うものは全員、刑に処する! その覚悟で言葉に気を付けるがよい!」


 シルヴィが語気を強めた。声で制圧するとは、さすが『討伐隊』のリーダー格だけあるな。

 キウイが不安そうに僕を見た。力が弱まった現状、あの『討伐隊』と戦える見込みがないようだ。

 心配すんなキウイ。僕はお前を見捨てない。

 そんな顔で僕はキウイを見た。


「僕たちは同盟を組んだ。今の【カイン王国】を奪い取るんだよ? 『討伐隊あいつら』だって例外じゃない」


 僕がこそっとキウイに耳打つ。


「だから、ここは僕に任せてくれ」


 ニッと笑って見せると、キウイは安心したように僕に身をゆだねてきた。

 キウイを抱擁してシルヴィを睨み返してやった。


「露出戦闘狂さん?」


「なんだ?」


 威圧的だった。不機嫌そうだが、蔑称でもちゃんと通じたじゃないか。


「相手が悪かったね?」


「なに……?」


 シルヴィは不遜な態度の僕に苛立ちを隠せない。

 キウイの正体を知ったシルヴィたちを、おいそれと返せるわけないじゃないか。


「貴様……私たちと一線交える気か!?」


 しびれを切らしたシルヴィが、背に携えた大剣を手に取って身構えた。僕から邪悪な意思を見て取れたようだね。ホント、勘のいい女だ。

 面倒になる前に、ここで消してしまおう――


「露出戦闘狂のみなさんに質問だ!!!!」


「「「「「!!!?」」」」」


 ここで僕から、突然のクエスチョン! よく聞くんだ。


「人間には死に至らす『七つの罪』があると言う。『傲慢』『色欲』『強欲』『嫉妬』『暴食』『憤怒』『怠惰』……!」


「だから何だと言う?」


 シルヴィが答えを急ぐ。慌てるなって欲張りさん。


「君たちの立派な『矜持』、好戦的な『貪欲さ』、魅惑の『色気』、僕への『憤り』……これらを奪い取ったらどうなるかな??」


「……っっ」


 大剣を装備してると言うのに、無防備な僕一人に怖気てる。

 シルヴィは声を張って、部下の士気を上げ始めた。


「馬鹿な……! 我らはこの国の王であるベアトリーチェ様の護身であり、【カイン王国】にもたらす魔を討つ者! 絶対的な正義の我の、どこに『罪』があるか!!!」


「試してみるかい?」


 僕は『討伐隊』全員の裸体に素早く触れて『スキル』を発動した。

 断固としたその正義の価値観が揺らがないか、見ものだね。



「【盗むバンデット】」



 僕の『スキル』は概念であっても、奪い取ることができる。

 感情を持つ尊い生き人間を構築する『罪』を、僕は暴力的に剥ぎ取ってあげた。さてどうなるか。


「「「「「うぅ……!!!!?」」」」」


 すると、シルヴィたち『討伐隊』は、次々と剣を放り投げて地べたに寝そべってしまった。

 数秒前の好戦的な敵意も失って、堕落して怠け出す。



「野生に還りたい……。剣なんか持たせるなよ。男の仕事だろふつー……」



 不平不満を吐き出すは、シルヴィであった。勇ましい矜持は感じられない。

 シルヴィの部下たちは……、



「馬ばっか乗ってるから腰痛いんだよね……」

「歩いて帰るの? だったら今日から野宿で良い」

「甲冑邪魔ね。全裸が一番だわ」



 この通りだ。義務だけじゃない。纏わりつく着衣からさえ解放を望み出した。アダムとイヴが禁断の果実を食べる前の、人間のあるべき姿に戻ったのでは?


「君たち?」


 僕は廃人寸前のシルヴィたちに問いかけた。


「戦わなくていいの?」


 いささか白々しいが、シルヴィの反応は。


「やらんやらん。私は寝ることが生き甲斐だ。寝るのが楽しみなんだ。それ以外の労力を使わすな……」


 絶大な効力だ。七つの罪をいじれば、人間の思考や人格まで操作できるんだね。まさに尊・厳・破・壊!


 威厳を失ったシルヴィを尻目に、僕はキウイを連れて歩き出した。


「じゃあ、僕たち帰るね?」


「……」


 返事がないと思えば、随分遅れて帰って来る。


「……貝になって海の底で静かに暮らしたい」


 口を利くのも面倒くさいと言いたいようだ。



「あれ……」


 すると、露出女たちだけで構成されてると思えば、顔なじみの男が紛れていた。


「お前、小森か!」


「……加古」


 小森とは、同じく異世界転生した未来みくる高校『桃組』のクラスメイトの一人だ。


「小森。お前『討伐隊』にいたんだね」


「ああ……。今じゃ、シルヴィさんの部下だよ。それよりも? 今の『スキル』……!!!」


 見てたか……。

 小森は友人だが、口が軽い。

 ここで消すか? あるいは――


「ねぇ、小森。怠け者のシルヴィたちは放って置いて……僕たちと一緒に来てくれない?」


「……?? お、おう!」




 ――――――――

 第二章、クラスメイト全員に復讐開始です!

 

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