第6話 盗んだら返す、それも僕の流儀だ。
少女を治癒したらチュウで返ってきた。
「加古君。こーゆーのってよくあるの?」
椎野だ。さっき自分の目の前で盛大なキスを見せられてまだ動揺してる様子だ。
僕とキウイの熱い接吻が脳裏で暴れる様に、フラッシュバックして苛まれてるのだろか。
「……ないよ! 初めての事だった!」
僕が全力で否定すると、椎野は「ふーん……」とつれない返事だった。ホントだよ!
僕は今、椎野の『心』を盗んでるんだ。僕の初体験を見せられたとなれば、胸中穏やかではないのだろうか。
すると、
どんっ――!!!!!!
外から轟音が響いた。
大地も大気も震わす衝撃だった。
「森の向こう側……!」
僕と椎野は屋敷の外へ出て音の正体を探る。
深い森の先で土煙が上がっている……!
キウイが巣立った矢先の出来事。嫌な予感がした。
「加古君! 町の方だよ!」
屋敷から町までは森を抜ける必要がある。
舗装もされてない地面はでこぼこしていて、木の根っこが張り出してて悪路。
そんな森の道を僕は走った。
「加古君!」
「椎野は屋敷で待ってろ!!!」
僕は走る事を止めずに森を疾走した。
「はぁ、はぁ……!」
息を切らしてひた走ると、鬱蒼と茂る森の先が突然ひらけた。そして小さな町が見える。
王国の都から切り離された、この静かで平和な町を脅かす怪物――ドラゴンの姿も確認できた。
「ドラゴン……!!!?」
純白なボディに屈強な鱗が纏ってる。背中に生えた蝙蝠の皮膜のような翼に長くしなる首……そして、キウイの頭にあったものと同じ形の角が、王冠のように頭部から生えている――間違いないじゃないか……!
「キウイいいいいいいい!!!!」
町に到着した僕は、声を荒げてキウイに気づかせた。
キウイも僕の存在を認識したようで、町の破壊活動を止めた。
「……恩人じゃないか!」
心の傷も回復したからか、みなぎるほど活発で陽気な性格だった。
キウイの痛々しい傷は、没落貴族の虐待ではない。
異世界転生したクラスメイトとの戦いで負傷したものなんだ!
暴れまわれるほどまで回復したなら、それは僕しかいない。
退治した『怪物』を、僕自身の手で復活させたって事になる。
「この私がわかるのか?」
声音も、高慢と高飛車な性分も酷似してる。
「お前、やっぱりキウイなんだな」
キウイは長い首を柔軟に曲げると、自分よりも小さな生き物である僕に、思いやりを持って顔を近づけてきた。
「さっきはありがとう。おかげでまた暴れられるよ!」
そんな言葉で、僕が喜ぶとは思ってはいないだろう。邪悪も追加だ。
仲良さげに対話する僕たちに、周囲の町民たちが訝し気にこちらを眺めてる。この怪物と接吻した仲だとは、思いもよらないだろう。
僕はこそっと、キウイのステータスを確認してみた。
◆◆◆
〈名前〉スズカ・キウイ御前(★復活)
〈年齢〉〈性別〉不明・女性
〈役職〉魔王
〈体力〉10000/10000
〈魔力〉10000/10000
〈攻撃力〉3600
〈防御力〉5500
〈素早さ〉2800
〈運〉1000
◆◆◆
これが真のステータスか。まさにラスボスのステータスだな。
そのステータスが表す通り、木組みの建物は容易く崩壊していて、あちこちでは火災が発生していた。
こんな小さな町だ。火種が小さくてもあっという間に燃え広がり――やがて、壊滅してしまうだろう。
「僕はこんなことをするために治したんじゃない!」
「でも治してくれた。それは事実だ」
キウイは視線を切って続ける、
「一年前に、この世界に来た勇者共にこの私は負けた……。この私が納めていたこの【カイン】は、今や平和な王国へと戻ってしまった……!」
その勇者とは、僕のクラスメイトたちのことだ。魔王が退治された後、僕以外の生徒は全員称えられていた。
「敗北した私は、力のほとんどを失ってしまった。……深い傷を負って……!」
怒りと憎しみを含んだ語気。僕は臆せずに対話をした。
「それであの屋敷で奴隷にされていたのか?」
「そしてお前が治してくれた。戦いの傷も、心の傷も。全てだ!」
ワニのように長い口から『グルルル……』と、唸り声をあげている。少女の姿のつぶらな眼はなく、獰猛な獣の目だった。
「お前は下がっていろ。私を助けてくれたんだ。お前ひとりの命は見逃してあげる」
テロ行為に手を貸した僕だけを救うだと?
「でなきゃ、一緒に殺しちゃうよ……」
前述の言葉に敬意などはない。
結局僕さえもいつでも獲物になると、こいつの目が言っている。
僕は怪物と対立する姿勢を変えなかった。
「ねぇ? 僕が盗った君の『傷』は、どこ行ったかわかるか?」
僕が不毛な問答を始めると、キウイはケラケラ笑いながら答えてくれた。
「さあ? 彼方に飛ばしたんだろ?」
「ああ、飛ばしたよ。空の彼方……宇宙の果てまでな」
着地の見えない会話を止めて、僕は自分の手をキウイへ突き出した。そして続ける。
「……戻せるけどね?」
大事なことは最後まで言わない。それが相場である。
僕の片手に集まる魔力の光。ドラゴンの巨躯から比べれば、ちっぽけな魔力だがその気迫に、キウイは気圧される様に不穏を感じてるようだ――
――「『
僕が新たな『スキル』を叫んだ瞬間、ドラゴンの右肩にドンッ――と、強烈な衝撃が発生される。
大砲でもぶちかましたような轟音が響いた。謎の衝撃波で肩を打ち抜かれたキウイは、身を反り出してもがき苦しんだ。
「あああああああああああぁぁぁぁっ……!」
鋼の鱗。斬撃や魔法攻撃のほとんどを無力化する無敵の鎧が、僕が放った『スキル』で簡単に射貫けた――否、
「な、なぜだ……!!?」
鋼の鱗を貫通する傷が、突如ドラゴンの体に生じた。
自分の防御力の高さを過信してたキウイは、この謎の攻撃に動揺を隠せない。
「何をした……! この私に攻撃をするのか!!!?」
「攻撃じゃない……。さっき君から盗んだ傷だ」
僕が説明してる間に、ドラゴンの姿が次第に崩壊していく――
「【
白竜の姿から、力を失った可憐な少女の姿に完全に戻ってしまった。
キウイはがくっと膝から崩れ落ちて、目にじんわりと涙を浮かべていた。人間の姿で助けを求めに来たのだ。怪物への変身が解除する程、相当な痛みなのだろう。
「元は君の傷だ。だから君に返しただけだ」
僕が得意気に鼻を鳴らして勝ち誇ると、キウイはぐすぐすっと鼻をすすって泣き始めた。
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