エロイス教
デブス叔父さん、ルッセーナ夫人、ハゲス元騎士団長を失った僕は何もやる気がなくなっていた。みんな大切な人達だった。それをバーサーカー達が殺した上に財産をすべて奪い、金貨を大量に得た。
許せない!絶対にやり返してやる!
だけど、僕の毒魔法は通用しない上に僕の首を獲るために屋敷に最強の暗殺者が二人も常駐している。一月以上経ったが僕の心が癒えることはなかった。
僕はフィーアとアジーン、それから領民たちに手配書が出ていないかと淡い期待を抱いていたが、そんなことは全くなかった。
傷心中の僕は誰もいない教会に毎日通い、叔父さんたちの冥福を祈り、そして、さらなる力を僕にくれと願うことだけだった。
「それにしても、教会に司祭がいないのも考え物だな~」
できることなら懺悔とか愚痴とか色々聞いて欲しいことがあったんだけど、こればっかりは仕方ないのかなぁ。
ライト―ン領のごろつきどもがいるこの場所に来たいと思う人なんていないでしょう。
「はぁ、エロいことしたら救われるみたいな素晴らしい宗教はないのかなぁ。そんな宗教があるならアーク教に喧嘩を売ってでも、うちで広めて欲しいんだけどなぁ」
アーク教とは端的に言うと『魔法を使う貴族超最高!使えねぇ領民は喜んで養分になれや』っていう考えが中心になっている。後は結婚するときは処女と童貞であるべしみたいな考えもある。後者を除けば僕としても思想はアーク教だけど、エロ宗教があるならかなぐり捨ててやる所存です。
「まっ、そんな都合のいい宗教なんてないよな~」
はははと笑って僕は屋敷に戻った。
━━━
「━━━というわけでございまして、我がエロイス教を「採用だ」え?」
「採用だ。ライト―ン領内での布教を許可する。教会もそこにあるから使うが良い」
「・・・本当でございますか?あの、私の話を聞いておりましたか?」
「うむ」
エロイス教という聞いたことのない宗教団体が僕の屋敷に訪れた。よく聞いてなかったが教義の要約すをると「エロいことをしてハッピーになろうね!」っていう内容だったと思う。アーク教の処女、童貞を大切にする考えに真っ向から対決するので、迫害されてここまで逃げてきたらしい。
よく見てみると美女ばっかだったのだ。
目の前にいるシスターはエロイス教のトップでウェーブのかかった銀髪にピッチピチな修道服を身に纏い、特徴的なピンク色の瞳には吸い込まれてしまいそうな魔力があった。名前はリース=セクス。そんな美女シスターがエロいことをしてくれると考えただけで僕の興奮はMaxに達していた。
もちろん僕はボロを出したりなんてしない。毒でオーラだけは貴族の風格を保っている。ただ内心はムラムラしていた。今夜、絶対に抜け出して教会に行ってやろうと心に決めた。
「ノル様?お一つだけ質問をよろしいですか?」
「うむ、言ってみな」
「わたくしたちの教義のどの辺りに賛同していただけたのですか?」
エロいことができること。
な~んて言ったら、僕の程度が知れる。リースは僕と言葉遊びがしたいんだ。女性はテキトーに愛しているという言葉を言ってやったら泣いて喜ぶって亡きデブス叔父さんが言っていた。だから、このエロエロシスターは欲しい言葉があるんだ。
「(エロは)世界を救うというところさ。僕もそのため(美女とねんごろするため)に、日夜努力をしているんだけど、中々うまくいかない。だからこそ、思想を同じくするエロイス教とは仲良くしたい。たとえ、ありとあらゆるもの(バーサーク領民)に反対されても戦う覚悟はできている」
「・・・そこまでのお覚悟をお持ちなのですね」
「ああ、もちろんだ。だからこそ今夜、君にお願いしたいんだが・・・」
「・・・分かりました。教会にてお待ちしております」
「ああ」
やったああ!美女とねんごろだぁ!ついに童貞卒業だぁ!っとその前に
「何でそこまで厳格な服を着てるの?」
エロいことをする宗教ならもっと裸に近い扇情的な服を着るのではないのかと思って疑問を口にした。すると、
「性欲と理性は表裏一体です。神聖な場において厳格な様式であればあるほど、性欲は高まるのです。そうは思いませんか?」
「ふっ」
その通りだ。
━━━
夜になると、僕は表口から堂々と外出した。フィーアとアジーンは夜中に精鋭を連れて森の奥に行くということで外に出ている。つまり、今日は超絶チャンスなのだ!
夜な夜な仕掛けてくるアジーンとフィーアの暗殺を防ぐ日々にはもうこりごりだ。死ぬ前にヤリたい!
そして、教会の前に着くと僕は毒を分泌し、感情を殺した。
「こんばんは」
「お待ちしておりました、ノル様。ではこちらに」
「ああ」
教会の奥の部屋に案内される。
「そういえば他の教徒たちは?」
「一人残らず布教に行っております」
「なるほどね」
領民たちも考えることは一緒か。そこら辺は同じ人間で安心したよ。いくら毒が効かないとはいえ性欲には勝てないということだ。
そして、奥の扉をリースが開いた。そこには純白のベッドが一つ。緊張が高まるが毒が効いているのでバレていないはずだ。
父上、母上、そして、叔父さん!僕は今日、童貞を捨てます!
アーク教にどっぶり浸かっていた父上と母上には怒られるかもしれない。だけど、叔父さんだけはいつでもどこでも女の子を侍らせていた。
「イイ男の元にはイイ女が訪れるグフよ」
僕はカッけえ!と思った。しかも、女の子の方は下を向きながらプルプルして喜んでいたのだ。やっぱり叔父さんは最高の師匠だったよ。
「それではここでお待ちを」
「ああ」
リースが僕をベッドに座らせた。僕は内心を悟らせないように下を向いた。すると、ガチャっと扉を閉めた。
ん?扉を閉めた?
リースの方を見ると口を三日月にして、嗤いだした。そして、
「ふふふ、馬鹿な男!私はサキュバス!貴方を殺してこの領地を滅ぼしてあげますわ!」
人間離れした牛の角に、特徴的な尻尾を生やし、瞳は暗闇の中でも怪しくピンクに輝いていた。
超こええ
「エロいことをするだけの宗教があるわけがないでしょうに。聡明そうな顔をして下は欲望に正直でございますねぇ」
クソぉ!その通りだ!
「あまりの恐ろしさに声も出なくなってしまいましたか?」
はい・・・
しかし、表情は貴族だ!
「・・・死を受け入れてもなお貴族の品格は崩さないと・・・ノル様の矜持に敬意を表して最後の遺言くらいは聞いて差し上げますよ?」
内心はバックバクだけど毒のおかげで思考はクリアだ。だから今の状況がなんなのかはよく分かっている。サキュバスというのがなんだか分からないけど、エルフみたいな亜人ということだろう。
とりあえず僕は今殺されかけているわけだ。しかも童貞を卒業と同時に今生も卒業らしい。
ふざけんな!僕はまだ美女を囲って美味しいものを食べるという夢を叶えていないんだぞ!?
なんとしてでも生き残らなきゃ!
そのためには毒殺だ。まずは時間を稼がなければならない。
ふと視界の端っこにある読みかけのエロイス教の聖書が見えた。リースの読みかけなのか、途中で開かれていた。
「『アークの災厄』、君らの身体を蝕む呪いは確かそんな名前だったはずだが合っているかな?」
「っ!なぜそれを!それはエロイス教の教徒以外に知りえないはずですわ!」
そりゃそうでしょ。僕も聖書をそれっぽく読んでるだけだし。
なにはともあれとりあえず興味は引けたようだ。
「君らは元々貴族の血を引いていた。しかし、アーク教の処女、童貞を守るという教えに背いたために罰を受けた。その姿がそうなのだろう?」
「・・・その通りですわ。わたくしは三百年前、婚約前にある平民と身体を重ねてしまいましたわ。その数年後、婚約における『アークの誓い』において、わたくしは神を欺いた罰として永遠に異性の精気を集めなければならない悪魔の姿になりましたわ」
よしよし。流れは間違えていないらしいな。書いてあることを言っているだけだけどリース判定でアウトだったら、ここで殺されるはずだ。
それだけ教えを共有できるのは嬉しいことなんだ!
ならば!
「結論から言おう。君を悪魔の姿に変えたのは呪いではない。魔法だ」
「なっ!ふざけたことを言わないでください!」
ひい!調子に乗り過ぎた!
聖書に書いていないことを言ったら怒るのは当たり前だよなぁ。生死がかかった場面で何を馬鹿やってるんだか・・・
でも、引き返すことはできない。僕はゴリ押しすることに決めた。
「嘘ではない。現にアーク教の聖書にはサキュバスなんていう悪魔は存在しない」
「はっ?・・・いや・・え・・・」
僕は生まれついての努力家であり天才だった。アーク教の聖書の絵表紙の付いたページを何度も読み、いかに貴族として領民たちから搾り取るかを貪欲に学んでいた。そんな僕がサキュバスという怪物を知らないわけがないのだ。
「ちなみにリース。君の姿にサキュバスという名前を告げた人間は誰だい?」
「・・・教皇ですわ」
「なるほど、その教皇の顔はこれかな?」
「っ!こいつです!こいつですわ!なぜ三百年前の人間が今も生きているのですか!?」
人違いやろ。これってさっきポストに入っていた指名手配の人相書きだぞ?(新教皇万歳の写真)まぁいいや。
「不死の魔法、もしくはそれに連なる魔法を使っているんだろうね。リースだって三百年も生きているんだろ?」
「はい・・・ですが、何のために」
「これは仮説でしかないけど、君らが集めた精気はすべて教皇に集まるようになっているんだ。いわばそこの抜けたコップさ。そして、リースたちの集めた精気はすべて教皇の永遠の命を保つために費やされているんだと思う」
「あのクソ爺!」
リースさん教皇(仮)様に激おこ。僕への殺意は完全に逸れたといってもいいだろう。
「・・・わたくし、この男に言われたんです」
「ん?」
「『アーク教徒に近付くと呪いが強まる』と・・・だから俗世を離れ、アーク教の及ばない場所で懺悔をしながら精気を奪い殺し続ける日々を送っていました・・・不死身の私には自殺という逃げ道すらありませんでしたので・・・」
「それは、君たちからの反乱を恐れたからだろうね」
「ええ。今となってはそうだと分かりますわ」
怖いくらいにメラメラと燃えてるなぁ。ただ、やる気になってもらったところ悪いんだけど、僕にとってアーク教は都合の良い考え方でもあるんだ。やっぱりエロで絞るのではなく、領民から税金を絞り取りたい。
リースにアーク教を潰されては何かと不都合だ。となれば、
「僕は君たちを全面的に支援するよ」
「ええ、ありがとうございますわ、ノル様。となれば、貴方から精気を頂くのはやめておきますわ。そこらの盗賊でも捕まえて搾り取りますわ」
「あっ、そういうわけじゃなくてね、僕なら君らにかけられた魔法を解けるかもしれないんだ」
「え!?本当ですか!」
「本当、本当」
嘘です。呪いとか知らんし。
「僕の魔法は治癒魔法。君らが呪いではなく魔法という病気に犯されとしたら、治癒できるかもしれないんだ」
「た、確かに。この身体になってからケガや病気にかからなかったので、その発想はありませんでした」
「でしょ?一回試してみよう」
「は、はい。ですが、なぜここまで私のためにしてくれるのですか?身体も重ねればあなたは死ぬということを伝えました。それなのにどうして・・・」
ふっ、知れたことを
「世界を救うって言っただろ?その中には君みたいな
「ノル様、こんな醜きわたくしを、人間扱い、して、くださるんですね・・・」
「あっ、おい」
世界を救うなんて臭いことを言ったらリースが感極まって泣いてしまった。とりあえずこの状態で毒を飲ますのは無理だ。泣き止むまで待とう。
━━━
三十分後。
「お恥ずかしいところをお見せしましたわ」
「いいさ。誰だって泣きたくなることはある」
「はい・・・」
リースと僕はベッドに座っているのだが、リースは僕の手を触っているのだ。ちょっと居心地が悪いので、話を進めよう。
「この水に僕はありったけの治癒魔法をかけた。うまくいけばこれで治るはずだ」
「は、はい。ですが色が禍々しいですわね・・・」
「良薬は口に苦しということわざもあるからね」
「な、なるほど。では、いただきますわ」
「ああ」
グイっと一気に僕の毒を頬張った。そして、一瞬だけ苦しんだ顔を見せた後にコップを捨て、ベッドに横になってしまった。
「ふぅ、なんとか殺せたな」
僕は再三にわたってやらかしている暗殺未遂。今回毒の濃度を最高潮にまで高めた。たまたまペロッと舐めたネズミが毒を舐めて一瞬で溶けてなくなってしまった。
「ここまでの効果があるなら大丈夫だろうね」
リースのツノも徐々に溶け出し、尻尾も先っぽから溶け始めている。朝になればリースの存在自体が消えているはずだ。死体処理もしなくて済むから最初からこうすればよかったよ。
そういえば、領民たちの元にもエロイス教の信徒たちが向かっているって言ってたな。まぁいいか!
サキュバスといたすと死ぬって言ってたけど、バーサーク領民を減らしてくれるなら僕が死ぬリスクがなくなるのだ。仮にサキュバスがライト―ン領を侵略しようとしてもサキュバスは僕の毒に耐性はない。殺すのは楽勝だ。
エロいことができなかったのは残念だったけど、生きてれば夢はつながるんだ!
どこかに僕を待つ美女がいるはずだ!結ばれるその日まで頑張ろう!
━━━次の日
「ノル様!本当になんとお礼を言えばいいかッ!呪いが解けましたわ!」
死んだかどうか様子を見に教会に行ったら、リースが僕に泣きながら抱き着いてきた。エロエロボディを堪能したかったが、僕はそれどころじゃなかった。
あの毒を克服しただと・・・!?
それだけではない!
「わたしたちもです!村人とエロイスしたら、精気を奪うどころかサキュバスの力が消えていきました!」
「私も・・・もうこれで人殺しをしなくていいのね。うえええん」
「ノル様、ありがとうございました!」
僕は口々に教会で元サキュバスたちに称えられた。しかし、この場にはサキュバスだけではなく、昨日サキュバスとエロイスしたら領民たちがいた。
「吸い込まれるような感覚に陥ったけど、そこはノル様の毒パワーだな」
「ああ!ノル様から力を授かった俺たちが負けるわけがない!」
「ノル様!最高の宗教をありがとう!」
領民たちはエロイス教のサキュバスに性技で勝ったらしい。そのおかげか僕を除いてみんな楽しんだらしい。血涙が流れそうになるのをなんとか堪える。ただ、領民たちの愚行はここで終わらなかった。
「俺たち幸せになります!俺みたいなごろつきと彼女を結んでくれて本当にありがとう!」
「ありがとうノル様!最高の嫁を手に入れられたよ!」
「あんなに激しく求められたら他の男なんて考えられなかったわ」
「まさか結婚できるようになるなんて・・・ライト―ンに来て本当に良かったわ!」
みんな結婚しやがった。今、僕はあまたのリア充たちの幸せを一人一人祝っている最中だった。僕が死ぬかもしれないと思って駆け引きをしてる間にこいつらは何をやっとるんじゃ!
「ノル様、私たちも
「そ、そうね!いつがいいかしら?」
領民たちに当てられてフィーアとアジーンが
「六十年後かな・・・」
「ノル様ったらぁ冗談はよしてくださいよぉ。私としては一年以内がいいですね」
一年!?そこまで我慢ができないのか!
「そうね!私でもそれ以上待たされるのは辛いわ」
アジーンまで!
ダダをこねれば僕が死ぬのは目に見えている。
「・・・分かった。僕も一年以内に覚悟をするよ」
うおおおおおおお!
「良く言ったノル様!団長も良かったですね!」
「やっぱりノル殿は最高だな。アジーン様もお幸せに!」
ちくしょう!僕を殺そうとこんなに意気揚々になるなんて!なんて酷い領民たちだ!
僕は外面とは裏腹に内心では嫉妬の炎を燃え上がらせていた。
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