第4話 美冬ユキはその時、生まれた

「どどどどどうしよう………」


私は、焦ってしまった。

美冬由紀(ユキ)ハルが好きになった人物。

そして、私がナツミとしてコラボする相手。

ナツミの中の人は私なのにあんな態度とって…。

由紀さんは私の事を知らない。


「……とりあえず……今日、ミーティングするって言ってたから」


私はSNSアプリを開き、ユキさんにメッセージを送る。


【遅くなって申し訳ございません。こちらは準備ができたのでユキさんの準備が出来次第始めましょう】


っとメッセージを送る。


「………だ、大丈夫かな」


なんだかんだ言って美冬ユキはプラチナVTuberでV4だ、私が超えなくてはいけない存在。

ピロン。


【わざわざありがとうございます。それでは始めましょうか……愛川夏美さん】

【はい!始めますかそれではそちらにお電話かけますね……って…‥え…‥?】


電話をかけようとしたがユキさんから着信がくる。

私は、恐る恐る応答ボタンを押す。


「こんばんわ!初めまして!ナツミさん!」

「こ、こんばんわ……え~っともしかして……私の事…って」

「ん?わかるに決まってるよ」

「……」

「だって、あなたも私の配信とかリアルライブ来た事あるでしょ、ハルと一緒にずっと居たもんね」

「……はい」

「でも…あなたがVTuberになるとはおもわなかったわ」

「ごめんなさい」

「謝る事なんてないわ、もうわかってるもの」

「え?」

「私がハルを傷つけてしまった、だからあなたはその穴埋めとしてVTuberを始めたんでしょ」

「それもあるかもですが……」

「見つけてもらうのにすら難しいのにすごいよあなたは」

「違う…」

「違うってどういう事?」

「……私はすごくないし才能もない全部ハルが…」

「っ……」

「ハルはいつだって応援してくれてる、誰もみていなくても…‥」

「……そうね……ハルは、そういう人だったわね…だけどあなた、ハルに自分がVTuberって事言ってないんでしょ?」

「は、はい」


気まずい…。


「なるほどねまぁ、良いか……改めて言うけど私を美冬ユキをみつけてくれたハルを私は大好き」


ユキさんが何か思い切ったように言う。


「じゃあ、なんであんなことしたの?なんであんな酷い事…ハルを見捨てたの!?」

「……人気がでちゃったからよ」

「……っ」

「元々、私はトップVTuberになりたかった、あの人の配信をみて救われた、私もあんな風に誰かを笑顔にさせたいその一心で私はVTuberになった、それだけでよかった。でも、現実はそう甘くなかった」

「……」

「もう心が折れかけてやめようと思った時に助けがきた……まるで漫画やアニメの世界の様に」


【アバターと声……めっちゃ大好きです。推してもいいですか?】


「初めて貰ったコメントだった」

「もしかしてそれが……」

「えぇ、ハルよ」

「羨ましいですね」

「私は声がその時でなかった、もう…嬉しくて…嬉しくて…声がでなくて心配はされたけど、ありがとうってちゃんと伝えられた、その後は2人きりの会話で盛り上がった……そして、最後に一言…」


【また来るね。配信楽しみにしてます。そして、ユキちゃんの1人のファンとして絶対にユキちゃんを有名にさせます】


「その言葉聞いて正直……無理だよって思った……ただでさえ私はその当時登録者数10人以下だったんだから……でも……そこから私の人生は変わった……登録者数は伸びて顔バレもあったけどハルがその時も助けてくれた……」

「事の顛末はわかりました」

「でも見捨てたのは事実でしょ?」

「だから……それは…」

「それは…」

「事務所のせいよ…」

「事務所?ユキさんあなたは今個人勢じゃないんですか?」

「登録者数が100万を超えたあたりから事務所に声をかけられたのよ、うちに入らないかって」

「良い事じゃないですか?」

「良い事じゃなかった事務所に入る条件がただ一つ、ハルと関わるなって」

「っ!!そんなバカな事務所あるの!?」

「あるよ世の中にはファンを下にみてる事務所が……ただでさえハルは私のファンとしてはずっと最前線に立ってきた。でもやっぱり、周りからは良くないって思われてる……そうファンじゃなくて厄介勢としてね」


確かに、私の配信でも必要以上にコメントをしてくる人がいて、時々コメント欄が荒れる時もある。

そうか……応援のつもりでも、周りからみたらただの厄介勢としてみられるのか。


「……だから、ハルを見捨てたの?」

「言い方はちょっと悪いけどそういう事になるかな、これ以上ハルが悪者扱いになっているのは見たくない」

「……」

「でも、私はその事務所に裏切られた、お金だけむしり取って逃げられた」

「ネットのニュースで見たわ」

「あれは、本当に最悪な出来事だったわ」

「でも……著作は私にあったからアバターだけは守られたし、同情の声で私はまた救われて今、此処にいられる……」

「私は、同情はしないよ、でもそんな事私に言うよりハルに言った方が…‥」

「わかってる。でもまずはあなたに伝えたかった……あなたは私の2番目のファンだから。ここで言わないといつまでもすれ違い起きちゃうし言った方が私が少し優位に立てるでしょ?」

「っな……でも……絶対にハルは渡さないから、幼馴染としてずっとハルの傍にいた私が負けるわけないし」

「今の、発言……早大に負けフラグが立ってるわよ、幼馴染は滑り台ヒロイ…‥」

「そんなの…打ち破ってみせるから!」

「……あなたもやっぱりハルの事が好きなんだね」

「当たり前じゃない…あの時はあんな事、言っちゃったけどやっぱり私は、ハルが好き…でも…」

「でも?」

「今のハルは私じゃなくて私のもう一人の姿、ナツミを好きになってる」

「正体を明かせばすぐ終わるのに」

「それは絶対にしたくない、ハルの夢を壊したくない」

「そう、じゃあ一つアドバイスをしてあげる……私は私自身をアバターにしてる。だから私は自信が持てるのよ、さっきも言ったけどVTuber、あなたは自分のアバターを盾にしてちやほやされてるだけ、それを辞めない限りこの先にはいけないわ」

「っ……」

「まぁ片隅に置いとく程度いいわ。トップVTuberあの人も言っていた本来VTuberは自由であるべきってね……」

「……」

「ま、自分から言ってなんだけどこういう暗い話はやめよう、ここからは仕事の話」

「は、はい」


由紀さんは、先程の雰囲気からガラッと入れ替わり仕事モードに入った。

今は、彼女は由紀ではなくユキになった。


「どういう対決しようか?」

「え、本当にやるんですか?」

「やるよー、ハルもきっと見るだろうし、うーんそうだ!リスナーから私たちに言って貰いたいセリフを募集して採用されたセリフを言ってどっちが可愛い?かっこいい?ってリスナーに決めて貰おう!」

「……結構適当なんですね」

「まぁね、正直私はハルしかみていない、


その言葉で私の何かが別の感情が生まれた。


「……よくそれで、トップVTuberになろうとおもいましたね」

「何?私の発言で癇に障った?」

「えぇ……今の発言、ハルが聞いたら怒りますよ」

「でしょうね」

「じゃあなんであなたは…‥」

「はぁ……だから私は……いえ……こんな事してたらいつまでも話が進まない、あなたも頭がいいんだから今のこの会話が無駄な時間って事わかるでしょ」


私は、頭に血がのぼっていたが、ユキさんのその言葉で少し落ち着きを取り戻した。


「すいません」

「いいのよ、それほどあなたはハルの事が大好きって事がわかった。でもVTuberをやる理由には人それぞれ……これだけは忘れないで」

「うう…‥」

「泣かないでよ!私が悪者になっちゃうじゃない」

「うう…」

「まぁいいや、リスナーにコラボ企画内容の募集するけど良い?」

「はい……」


画面越しからカタカタとキーボードを叩く音が聞こえる。


「これで投稿っと」

「もう投稿したんですか!?」

「えぇ!こういうのは早い方がいいのよ!じゃあ、一日経ったらまた連絡するね~じゃっ!学校で~!」

「ちょっ待っ」


ぷつんっ。


「あっ……あの人……す、すごい…」


これがV4のノリって言ってはいけないのだけど。


「なんというか……」


ピンポーン。

チャイムがなる。


「夏美~出て~」

「え~お母さんでてよ~」

「今、手が離せない~」

「む~しょうがないな~」


私は、部屋着のまま玄関に行きドアを開ける。


「は~い」

「え、えっと……夏美……こ、こんばんわ」

「……は、ハル?」

「そ、そうだよ…」

「ちょおおおおおちょっと待って!!」


私は、大慌てで服を着替える。


「も~ちょっと何してんのよ」


お母さんがでてくる。


「あぁ…なるほどね…」


お母さんは、全てを察したらしい。


「いいんじゃないの?」

「何がよ!」

「ありのままをみせればいいのよそういうのは」

「うう」


ふとお母さんの言葉がユキさんの言葉と似ている事に気づく。


『私は私自身をアバターにしてるだから私は自信が持てるのよ』


「そうか……そういう事か……なんだ……私自身で勝負すればいいんじゃない……」


今はまだ、ナツミが私としては明かせないけど夏美としてハルにアピールすればいいんじゃない。


「なんかニヤニヤして怖いんだけど、大丈夫?しゅん君待ってるよ?」

「はっ!そうだ」


バタバタと廊下を走る。


「ご、ごめん…」

「大丈夫だよ」

「えっとハル、こんな時間にどうしたの?」

「いや……ちょっと今朝の件で心配で、様子を見にきたんだ」

「は、ハル……」


わわわわ、めっちゃハル優しい本当に大好き。


「あ、あの……は、ハル……部屋入る…?」

「い、良いの?」

「うん……本当の私をみて」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ねぇ、もっと……激しくしてよ……ハル」

「…………っ」


と、長い長い回想で冒頭の始まりに戻る。

相変わらず誰に言ってるかわからないが。

久しぶりに入る、夏美の部屋。

特に部屋の感想を言うまでもないのだが、女の子らしい部屋だ。


「……夏美。本気なんだな?俺、1度やったら止められなくなるぞ」

「う、うんわかってる……来て、しっかりと奥で受け止めたい……ハルの本気を直接感じたい」


俺は、思いっきり奥へと力を入れる。


「……肩が凝りすぎ」

「あ~気持ちいい~」

「久しぶりに夏美の家に来たと思えば……これか」

「なに~?不満なの?この美少女で可愛いくてモテる、夏美ちゃんが相手してるのに」

「はいはい‥‥こんな姿、クラスのみんなに見られたらどうするんだよ?」

「見せないよ!こんな姿みせるのはハルだけなんだからね!」


彼女のその言葉が、天然で言ってるのか狙っていってるかわからない。


「そ、そうか……ん?なんかパソコンついてるけど大丈夫?」

「あっ!えっ!?」


夏美は慌てた様子でパソコンを閉じる。


「……なんか隠す事でもあった?」

「ううん、別に……」

「そっか」


夏美は、髪の毛をくるくると触る。彼女は嘘をつく時髪の毛をくるくるする癖がある、本人は未だに自覚をしていないが幼馴染である俺はわかる。

でも、俺は深くまで聞かない。

本人は気づいてはいないが、パソコンを隠した理由、それは多分――

100VTuberでそのたぐいのものが画面に映っていたからだ。

その事を言うと今まで積み上げてきた関係が崩れてしまうから俺は聞かない。


「パソコンはいいから肩もんでよ」

「んっ‥‥‥‥あっ‥‥‥‥そこっ‥‥好きぃ」

「……」


さて…あのパソコンの画面、チラっとみたが美冬ユキのアイコンがみえた、恐らくコラボの時の内容の話をしていたのだろう、先ほどユキのSNSが更新されていて。


【私達に言わせたいセリフ募集】


っと投稿されていた。

すでに、100万件以上のメッセージが送られてる。

恐るべしV4。


「あのさ、ハル」

「ん?」

「今朝の事なんだけどさ」

「うん」

「その……ありがとう」

「いいよ、俺も由紀が来るのは想定外だったけど」

「……ハルの事好きだもんね」

「それは……」


美冬由紀の転入と疎遠だった幼馴染との再びの会話。

ここから始まったんだ、俺達の物語は。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「まさかユキが学園に来るとは思わなかったよ」

「そうね」

「アイス、美味い」

「で、どうするの?この学園にV4全員集まっちゃったけど」

「まぁとりあえずは…‥ユキに説教だね」

「あはは…」

「このアイスも美味い」


この学園にV4が全員集まってしまった、これが何を意味するか私にもわからない。

ただ、春田春歌という男と愛川夏美が大きな鍵になるのはわかった。

この配信時代に何かが起きる‥‥だけど…V4のトップとして、この配信時代を守らなければならない…あの人が帰ってくるまでは…‥そして……私が‥…。


「……トップVTuberになるまでは邪魔はさせないから」

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