第3話 被害者意識
その女性がいうには、被害者は、自分の主人で、地元の人間であれば、たいてい誰もが知っているような会社の社長だという。
今の社長は3代目社長で、創業者は、当時はまだ開発もほとんどされていなかったパソコンを使った事業展開を、どこよりも先駆けてやったことで、世間で注目を浴びた会社だった。
時代的には、昭和の終わり頃であるが、末期というほどではない。ちょうど、コンピュータに近いものが、カルチャーで流行ったりした時代だった。
たとえば、音楽では、テクノポップなるジャンルが出てきて。ゲームでは、やっとその先駆けである、
「インベーダーゲーム」
が出てきた頃だったのだ。
インベーダーゲームもそこから2年くらいして、立体的なゲームがすでに出来上がっていた。
3Dほどの迫力ではないが、シューティングゲームで、地上攻撃ができる、
「空対地ミサイル」
が搭載されたマシンを、コントローラーで操作できるゲームができたのはビックリだった。
実は正直に言えば、もっとビックリしたのは、陸上競技のゲームで、オリンピックのゲームだったが、コントローラを駆使できると、まるで3Dに匹敵するような動きになるのが見えてくると、本当にすごいゲームだということが分かってきたのだった。
これは、後から発覚したというか、暴露されたことであり、それこそ、
「その会社の、最初からの計算ではなかったか?」
と、言われたほどのあざとさだったが、タイミング的にちょうどよかったのか、それらの真新しいゲームを画策したのは、実は、今回誘拐された社長の祖父が設立した会社だという。
なぜそんなあざといことをしたのかというと、当時は出始めで、そんな頃に暴露しても、混乱に打ち消されてしまうのがオチだった。
しかし、少し落ち着いてきて、さらに、まだ伸びしろを残しているような業界であれば、いいタイミングで分かってしまえば、注目を浴びるのは、必死だった。
しかし、さらに、それを自分たちで演出するというよりも、第三者によって発見されたというよりの、
「すっぱ抜かれた」
あるいは、
「暴露された」
と言った方が、最初から言わなかった会社は、
「実に謙虚な会社ではないか?」
ということになり、その評価はうなぎのぼりになるだろう。
しかも、まだ成長過程にある産業であれば、まだまだここから乗り出しても、十分に爆発的な売り上げが見込めるという、実にうまく計算されていたのだ。
確かに最初のブームの火付け役は、格好としては確かにいいものだが、実を取るのであれば、
「ブームというのは、すたれ始めると早い」
と言われる通り、出てくる時も早かったが、萎んでいく時はあっという間だ。
しかし、発展途上で、彗星のように現れた企業が、あっと驚くような開発をしていたとなれば、下火になりかかっている企業をしり目に、今度は自分たちの一人勝ちになるというもので、その目論見は見事に嵌った。
しかも、その後に出てくる。パソコンや、ポケベル(あっという間にブームは過ぎたが)さらに、携帯電話から、スマホに至る、この切れ目ないブームとその業界の伸びを考えると、地元だけでの知名度というのは、
「実は、もっと裏に何か考えがあるのではないか?」
と、勘ぐってしまいそうなほどであった。
「能ある鷹は爪を隠す」
というが、まさにその通りだろう。
それも、これも、何と言っても、先を見る目、先見の明があったからに違いない。そんな会社の社長が誘拐されたというのは、ゾッとするほどの大事件ということであろう。
誘拐事件があったというだけで、すでにその気はあったが。社長の名前を聞いた瞬間、ただでは済まないことは、誰にも承知のことであった。
ただ、
「優良会社だと思われていた、有名社長が誘拐されたということになると、ちょっとした問題では済まない」
ということだ。
それを、犯人側は、身代金を受けとるには、警察や世間の目を欺いた形で、密かに行った方が、成功率も高いことだろう。しかも、実際に受け取る身代金をいくらにしたのか分からないが、誘拐には相当なリスクと、時間と経費が掛かるはずだ。それを覚悟で行うのだから、よほどの成功に対する自信を持っているか、あるいは、犯人側に、何か他の目的があるのかということである。
今分かっていることとしては、情報があまりにも少ないということで、身代金についても分かっているわけではない。ただ。被害者の社長が誘拐されたという事実だけで、ここから先は、話を聞かないと分からないという当たり前のことだった。
「俺は何をそんなに焦っているのだろう?」
と、勝手に思い込んでしまい、まだ、話も聞いていないのに、想像だけが、先走りしていたのだった。
「じゃあ、時系列で、分かっていることをお話願えますか?」
と、福岡刑事は、奥さんを名乗る相手に話を聞くことにした。
そもそも、相手が、
「自分の旦那が誘拐された」
と言っているだけで、この女性の正体すら分かっていない段階ではないだろうか?
「わかりました。まず、この事件が発覚したのは、一昨日の夕方のことでした。その日の朝は、普通に家を出て、運転手が回してきた車に乗って、いつものように出社して行ったんです。すると、夕方くらいになって、知らない番号から、知らない声で、お宅の旦那を誘拐したといってきたんです。それで、私はパニックになってしまって、相手はとりあえずそこまでいうと、また追って連絡をするといって、すぐに切ったんです。で、ビックリして会社に電話をしてみると、主人は会社にいるということだったんです。実際に電話で話もしました。それで、ただの悪戯だと思って、その時、主人には、何もないといってしまったんです。すると、今度は帰宅時間になったので、運転手が社長室に入ると、主人が消えていたということで、急いで会社内を探してもらったんですが、見当たらないらしいんですよ。主人も、日ごろから社長として、自分の身は自分で守るという観点から、必ず会社の中にいる時などは、誰かに分かるようにしていたということなんです。だから、皆社長がいなくなったのを聞いて、連絡を取ってみたりしたんですが、社長のケイタイは、社長室にあったんですよ。社長がケイタイを置いて、一人でどこかに行くはずはないということで、急遽、会社内で総出で探したそうです」
というところで、奥さんは、一度話を切った。
「なるほど、それで、奥さんはそれからどうしました?」
と聞くと、
「実は、たぶん、同じくらいの時間だったと思うんですが、また犯人から電話がかかってきて、今度はその電話というのが、主人の家族用の携帯電話からだったんです。最初、私は、これで、あの誘拐をほのめかす電話が、たちの悪い悪戯だったということだろうと思ったんですが、その電話口から聞こえてきた声は、最初に脅迫で掛けてきた人の声だったんです。さすがに誘拐なんて言われるとビックリしますので、その時のその人の声は頭に引っかかっていたんでしょうね。これで、誘拐がゆるぎないものだと私は確信しました」
と彼女は言った。
「会社から連絡があったのは?」
と聞くと、
「いいえ、さすがにここまでくれば、私もいてもたってもいられないし、なりふり構わず、会社に連絡を入れたんです。すると、秘書の人が出てきて、社長がいないというではないですか? もうこれで誘拐であることは間違いないと思い、顧問弁護士に相談したんです」
というので、
「なるほど、そうなるでしょうね。それで弁護士は?」
と聞くと。
「まずは、相手の出方を待つしかない。下手に警察に連絡を入れては、何をされるか分からないので、一度相手がどう出るかによって、先を考えないといけないでしょうね。奥さんは、まずお宅にお帰りください。そして、犯人が電話などで接触してくる可能性もあるので、録音できるようにだけしておいて、その様子で警察に連絡するかどうか、決めることにしましょう。だから、まずは、録音できる体制にして、自宅で控えていてくださいということで、家で、家庭用の電話にも、私の携帯にも連絡が入れば、長い哀話でも録音できるようにして待機していたんです」
ということであった。
「そういうことだったんですね? それで、本当に誘拐があったのだということは、どうして確信しました? 携帯電話だけでは、ハッキリと分からないのでは?」
と聞くと、
「ええ、犯人に私の方から、主人が無事かどうか、証拠を見せてほしいというと、電話口に出してくれました。そして、私と主人にしか分からないようなことを言ったので、これは間違いなく主人だと思いました」
という、
「それを聞いて、弁護士も、誘拐に違いないと思われたわけですか?」
と聞くと、
「ええ、そういうことです。正直、ハッキリとは言えない部分もありますが、弁護士の先生も、まずは、主人の命を最優先といってくださったので、私も冷静になれました」
と奥さんは、そういった。
「わかりました。我々も、迅速にお宅に伺えるように考えます。ただ、被害者の生命を最優先とするのは私たち警察も同じで、というか、それが一番ですので、なるべく目立たないようにするようにしましょう」
といって、奥さんには、とりあえず、弁護士には警察に連絡したことと、警察が、あまり騒ぎ立てないようにということを言っていることを話してほしいといっておいた。
奥さんは、それを聞いて、
「分かりました。きっと弁護士の先生も同じことをいうと思います」
と言った。
「ところで、犯人からの要求は、何かありましたか?」
と聞くと、
「いいえ、今のところはありません。とりあえず、誘拐という事実はあったということだけを、こちらに知らせたかったのが、目的じゃなかったかと思うんです」
というので、
「それにしては、念が入りすぎているような気がするんですが、まず最初に誘拐したかのような虚偽の電話を入れておいて、今度は本当に誘拐したと同じタイミングで電話を入れてくるというのも、何か都合がよすぎるような気がするんですよ。だったら、最初の電話は何だったのかってね?」
と福岡がいうので、
「そうですね、何か、スッキリはしませんが、私には分かりません」
と、奥さんは、それまでと明らかに態度が変わったかのように見えた。
どこか、落ち着きが急になくなってきたような……。それを思うと、今度は、
「この奥さん、明らかに何かに怯えているような気がする。その相手は、犯人なのだろうか?」
と、福岡刑事は感じた。
しかし、今のところ、犯人からも何ら要求はないという。
「最初に電話を入れてきた時、要求を何も言わないというのは、どういうことなのだろうか? 相手は誘拐のプロなのか、そうでなくて、普通に素人であれば、相手に自分たちには余裕があるということを見せつけようという意思が働いているのか?」
それを思うと、何か感じるものがあるのだった」
今回の事件において、今は何も分かっていないことは確かであるが、気になることもないわけではない。いきなり、最初に、まだ誘拐もしていないのに、あたかも、誘拐があったかのように、
「誘拐した」
というのもおかしなものだ。
確認すれば、すぐに誘拐などなかったことは明白になる。そのあとすぐに本当に誘拐して見れるというのもおかしなもので、その時誘拐に失敗していれば、どうするつもりだったのだろう。少しでも時間差があれば、それも分かるが、ほとんど同時だということは、どっちかが失敗していれば、完全な茶番となり、相手に警戒心を植え付けるだけになってしまう。
自分たちが、動きにくくしたり、わざと簡単に話が進まないようにするのは、何かの目的があるからなのだろうか?
そんなことを考えていると、
「誘拐事件のリスクと危険性」
を加味して考えると、その結論は、
「誘拐なんて、割の合わない犯罪だ」
と、ここまで考えただけでも、そう思ってしまうのだった。
誘拐事件というものは、ニュースになるものと、ならないものがある。特に最初は、
「被害者の命を優先させる」
という問題があるからだろう。
それは、きっと、皆が考えていることだと思う。ただ、これが、
「闇で何とか解決できたものは、どうなるのだろう?」
と考えた時、考えられることとして、これは、福岡刑事の自分勝手な憶測でしかないのだが、
「それを公表してしまうと、模倣犯のようなものが増えてくる可能性があるからではないか?」
というのと、
「下手をすれば、誘拐が多いということで、その署のイメージが治安が悪いということになり、民衆に必要以上に不安がらせることになるのではないか?」
と考えるからだった。
ただ、逆にいえば、それだけ署のイメージが悪くなり、責任問題に発展などすれば、上層部はたまったものではない、何とかして、マスゴミにバレないようにしたり、もしバレても、必死になって、もみ消そうとすることだろう。
「もし、特ダネ的なものがあったら、おたくに、最初に連絡する」
などという言葉を言ったかどうか分からないが、まずゴミもバカではなく、むしろ、悪知恵の働く連中が多いことから、本当の意味を理解しつつ、警察相手にムキにならないのは、今後の協力を考えると、
「一時期の感情に走ることの方が、損になる」
ということを理解しているからであろう。
そう思うと、誘拐事件など、実際の犯罪に比べれば、
「報道されている内容は、もっと少ないのかも知れない」
と考えられる。
今度は逆に、事件が無事に解決した場合は、大げさなほどの記者会見を開くかも知れない。
すべてにおいてそうだとは言わないが、警察のメンツで、検挙できたことを公表したいと考えるのが一番ではあるだろう。
しかし、もう一つとしては、
「犯罪の抑止力にもなる」
という考え方もある。
「営利誘拐などという犯罪は、いくら計画しても、警察の捜査によって、成功する確率はかなり少ない犯罪で、罪も重く、世間に多く知れ渡ってしまう」
という意味で、犯罪自体を諦めるような抑止力を発揮するのではないかという考えである。
これも、間違いではない。犯罪というものは、誘拐事件に限らず、マスゴミに報道されることによって、メリットもあれば、デメリットもあるということだが、営利誘拐などの場合は、誘拐された人間の命がかかわってくるということで、かなりデリケートな問題となる。
実際に、起きてしまった犯罪であれば、もう抑止力は関係ない。後は、犯人の感情で、警察が介入することによって。いかなる精神状態になるかということの方が問題なのであった。
起きてしまった犯罪を解決するには、犯人が分かっている。どこの誰かが分かっていないとしても、警察と話をしている犯人がいるという意味で、犯人による感情の変化によって、被害者の命がいかに変わってくるかということが問題となるのだった。
下手に相手を怒らせると、相手の目的が何であるにしろ、
「ターゲットを誰にするか?」
というのは、何らかの因果関係を持っている人間で、恨みを持っている人間である可能性がかなり高いと言えるのではないだろうか?
それを考えると、
「営利誘拐というものは、犯人側にとって、かなりリスクが大きいのだから、それが果たして、金銭だけの問題なのだろうか? 複数の人間が大規模な計画を練ってから実行されるものなので、それを金銭にすると、身代金で賄えるものなのだろうか? いくら世の中がお金次第とはいえ、お金のためだけに誘拐などという大それたことをするというのも、かなりの勇気と覚悟を必要とするものだ。そうなると、そこに潜在している意識としては、相手に対しての並々ならぬ、恨みのような感情がこみあげてこないとできるものではないだろう」
と言えなくもないはずだ。
誘拐というものを考えた時、まず、考えるのは、
「犯人側の覚悟」
というものであろう。
確かに誘拐というものは、殺人に匹敵するくらいの凶悪犯である。誘拐には、
「相手の自由を奪う」
というもの、そして、本人やまわりの人間に、恐怖の時間を与える」
さらには、
「脅迫による、相手から、何かを奪う」
という行為が含まれる。
脅迫などの場合、時には、まったく関係のない第三者を危険に晒すこともある。例えば、誘拐した相手が、食品関係の人で、引き換えと同時の脅迫の中で、
「おたくの会社の商品に、毒を仕込んだ」
などという、脅迫を一緒にしてきたりした事実もあった。それが、昭和の最期に起こった事件の一つでもあったのだ。
あの事件は、結局、未解決となり、永遠に真相は謎のままである。人が殺されたわけではないので、時効は長くても10年というところであっただろうか? 昭和の最期の頃なので、時効が成立してからも、すでに二十数年が経っている。
あの事件では、複数の食品メーカーが脅迫の対象となったのだが、最初のきっかけは、某お菓子メーカー社長の誘拐事件だった。
誘拐の目的もあいまいなままに、いつの間にか開放され、そのうちに、違うメーカーにも犯罪が飛び火(?)する形になって、それこそ、犯人グループの本当の目的が掴めなかった。
いきなり複数を狙うということは、捜査上、一長一短なのかも知れない。
一社であれば、復讐目的ということなのだろうともいえるが、これが数社ともなると、犯人の絞り込みが難しくなる。
しかし、逆に言えば、複数社にそれぞれ恨みを持っている人が存在したのだとすれば、十中八九、動機と犯人は特定されたも同然であろう。
犯人側としては、ある意味、攪乱させているつもりなのかも知れないが、警察の捜査が進むうちに、犯人が特定されないとも限らないのだ、
確かに、証拠がなければ、犯人が特定されたとしても、犯人にとっては、さほど脅威なことではない。だが、それは警察が、犯人の考えているほど、無能であった場合のことである。
少しでも、警察を舐めているわけでないとするならば、逆に警察の捜査が、進むにつれて、犯人側で警察を甘く見るようになるかも知れない。
それが一種の盲点、あるいは死角に入り込んだものだとして、警察側からすれば、
「警察も舐められたものだ」
と映るかも知れない。
自分たちはそのつもりではないと思っていても、逆に、犯人側に、
「我々の犯行計画に、一点の狂いもない」
という自信があればあるほど、甘く見ているとしても、無理もないことだ。
ひょっとすると、昭和最後のあの事件でも、
「最初の誘拐というのは、捜査を攪乱させるための、ダミーのようなものだ」
と思っているとすれば、事件が迷宮入りになったのは、この時のダミー事件が、最初に警察を攪乱させるという意味での目的を、これ以上ないというくらいに満たしていたのかも知れない。
それを考えると、この事件は、ある意味、犯人側にとって、
「成功した」
といえるのではないだろうか?
ただ、何と言っても、それは、
「迷宮入りした」
ということでの成功ということであって、本来の目的を達成できたのかどうか、それは犯人側にしか分からない。
それを警察や世間に分かってもらおうとすると、今度は、犯人を特定させる必要がある。そうなってしまうと、犯人グループは自分たちの身元をバレさせることになるだろう。
「自分で自分の首を絞めている」
ということと同じことになるだろう。
「本当は、言いたいのにいうわけにはいかない」
というジレンマが横たわっているとすれば、犯人グループにとって、
「この犯罪は、それでも行わなければいけなかったのだ」
ということになり、結局、動機が大いに問題になってくるだろう。
もし捕まってしまったとするならば、覚悟が決まっているとして、彼らには、それを大っぴらにいうことができる。果たして、証拠に繋がりそうなこと、口にできるだろうか?」
それが、事件に重たい空気をもたらせるのであろう。
同じ時代に起こった、
「老人をターゲットにした詐欺事件」
というのは、この事件と、まったく正反対の部分があった。
それは、被害者側に、
「被害者意識がまったくなかった」
ということである。
そのために、二つの大きなことが出てきた。一つは、
「うまくやりさえすれば、完全犯罪に近づけたかも知れない」
ということである。
それは、被害者に被害者意識がなかったのだから、誰かに、
「それは詐欺だ」
と指摘されない限り、世間も、本人ですらも、気づくことはなかっただろう。
それだけに、被害者は、頑なに相手を信じていることで、たとえ指摘されたとしても、
「私は、あの人を信じる」
といって、さらに態度を硬化させることになるかも知れない。
そこまで犯人側が、被害者を洗脳していたということだろうから、もし、詐欺が明るみに出ても、本人に被害者意識がなかったとすれば、それは、犯人側にとって、
「いざとなった時の逃げ道」
も、うまく作っておくことに成功するだろう。
少しでも時間稼ぎができれば、それだけの時間を使って、逃亡することも可能だからである。
「海外にでも逃亡されると、手の付けようがない」
と言われるが、もし、これによって、日本国内における時効を狙っているとすれば、犯人側も気をつけなければいけない。
時効というと、殺人などの凶悪犯などでは、十数年前くらいに、廃止されたが、そこまででもない犯罪には、まだまだ時効というものがある。
その時効であるが、警察の捜査において、海外に逃げてしまえば、時効のある犯罪くらいであれば、ほとんどのものが、日本の警察が介入できないということになる。
だから、
「海外への高飛び」
ということが有効になるのだ。
しかし、ここには、実は盲点が存在していて、
「時効の経過において、海外に滞在していた期間を、除いた期間が、時効となる」
ということになっている。
つまり、時効が10年の犯罪であれば、たとえ、海外で3年いて、帰国すれば、あと7年ということになるのだろうが、実はそうではなく、10年のままなのだ。海外にいた時の期間をカウントしないで日本に帰ってきて、時効だと思ってしまい気を抜くと、どうにもできなくなってしまうことになるだろう。
そんなことを考えていると、
「犯罪において、ある意味一番安全なのは、相手が被害者意識を持たないということになるのだろう」
という意識から、今回の犯罪を成功させる裏付けにもなったのかも知れない。
しかし、この犯罪にも、デメリットはある。
何と言っても、
「疑うことを知らない」
といってもいいような、寂しがり屋の老人をターゲットにしたという、卑劣でえげつないやり方に、世間は驚愕を受けたことだろう。
しかも、そこに、
「被害者意識が絡まなければ、完全犯罪もありえたかも知れない」
と考えると、犯人はどのようにして、犯行に及んだのかということを、世間の人が想像すると、それは、大いなる社会問題になるのは必至であろう。
犯人が目立ちたがりであれば、それもいいのだが、あくまでも、
「詐欺行為によって、金銭を得るということに、自分の才覚を感じていたり、単純に、詐欺行為がうまくいけないいというだけの犯罪であれば、後から生まれてくる、社会問題的な意識というのは、余計なお世話だといってもいいのではないか?」
と考えられるのではないだろうか?
特に、見事に騙していることが、どれほど卑劣なことかと考えれば、重大事件であることに変わりはない。
ただ、共通していることは、
「この二つの事件で、犯人側が行った犯罪には、殺人罪というものが含まれてはいないということ」
であったのだ。
それでも、一番の大きな違いは、詐欺事件の方では、最後まで、被害者には被害者意識がなかったということで、中には、
「何も知らずに、死んでいった被害者もいた」
ということだったのだろう。
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