66.変わらないこと 変わること
ポイント『ミシュ』。本当は悪魔が付けたもっと違う名前があった。だけど作戦決めるお偉方にはそんなのどうでもよくて。
『今日中にポイント「ハーゼ」まで侵攻する! そのためにもミシュは素早く陥落させること!』
わざわざ攻略する街にナチスドイツの人名を引用するとか。国連軍を主導する米軍がどれだけ意気込んだ『聖戦』かが分かる。
名前が足りなくなったら『トウジョウ』とか『ムッソリーニ』とか付けるのかね。
とにかく、最初に戦禍に曝されることとなった『ミシュ』。村とは言わないけど、すごくこぢんまりした街だった。
城壁こそないけど、文化遺産とかで見るような中世っぽい街並み。奥にはちょっとした森と小高い丘に砦っぽい建物(正直市役所レベルにしか見えないけど、そういうの町外れに建てないか)。
のちのち分かるんだけど、魔界がそういう文化レベルっていうか。魔法文明における都市開発は、ビル街よりこっちが完成系らしい。電気都市は磁場がウンヌン。
それはさておき。
別に壁がありゃ攻略難易度が変わるわけじゃないけど、散らかさないで済むのは好材料。時間も押してることだし、
「GO GO GO GO!!」
小さい街と飲んで掛かれてるうちに突入
したんだけど。
「ねえさ〜ん!」
「いろいろ探したけど、もぬけの殻よ?」
「どうすんの?」
「もう終わり?」
街には人っこ一人いなかった。たぶん私たちが来るのを知って、構えのしっかりした街に逃げたんだろうね。
「うーん、キャスラーさんに聞いてくるわ」
キャスラー少尉は私たち小隊の指揮官の
「Hey, sir」
「What’s?」
事情を話すと、少尉はメモを取り出した。『こういう時はこうしろ!』的な、おおまかな方針が書いてあるんだろう。
やがて彼は顔をしかめながら、
「
「
聞き返すと彼はメモを寄越してきた。指揮官じゃないのに見ていいの? と思ったけど、実質副官だから知ってる方がスムーズか。
それはさておき、書いてあった『対処法』は。
『占領した街を拠点として使用しない場合は、建物を全て破壊し燃やし尽くすこと。また敵陣地、
「Wah」
「
「……I see」
万一取り逃した連中が立て籠もれる拠点を不用意に残さない。そういうことらしい。
「おーい! 壊せ燃やせとのお達しーっ!」
「マァジィ!?」
「やることエゲツねぇな」
「私らがオネンネするのはこの先! みんな田舎の民宿より都会のスウィートに泊まりたいでしょー? だからここは手早く駐車場にしておしまい!」
「へーい」
「ま、戦うよりは楽よね」
「そうそう。シャワーもあんまり浴びれないんだし、返り血とかないに限るわぁ」
みんな気楽なもんだったけど。
「なんだかなぁ」
すぐにみんな萎えてしまってる。そりゃそうだ。
ぬいぐるみ、花瓶の花、子どもの身長を刻んでいった柱、家族の写真や肖像画。
そういうのを全部残骸の山に混ぜ込んで。一緒くたにガソリンかけて燃やしちゃう。
森も山も変わらない。鳥が虫が住んでようとお構いなし。片っ端から火を着けて回る。
「なんかねぇ」
「ここまでしなくてもねぇ」
「悪魔も有性生殖なんだなぁ」
みんなはなんとなく『気乗りしない』『ちょっとした罪悪感で気落ちする』みたいな感じ。
でも私はちょっと違った。少尉に聞かされたあの言葉。
『民兵ゲリラ』
私たちが次に燃やすのは、ぬいぐるみでも写真でもなく
次の暗雲は、数日後には訪れた。
ゲリラを蹴散らし陣地を破りつつも、街に着けばゴーストタウン。住人はみんな近場の要塞都市、ポイント『フェーゲライン』に避難してるらしかった。
そのおかげで、戦争の教本では『泥沼になる』と教えられる市街戦はオールパス。
ヌルゲー気味にたどり着いたここは、当のフェーゲラインも近い街。
そこで一晩明かした時のこと。
それはエメラルド色の朝焼けをした、魔界にしては爽やかな朝だった。
「うーい、点呼だよーん。みんなおるかー小娘どもー」
守備隊の後詰めも来たので今日が出発の日。そんななかでも行われるいつものルーティン。点呼自体は大事だけど、慣れた習慣、何気ない言葉。
だけど。
「キャミーがいませーん」
「ユンファもでーす」
「ユンファ具合悪そうでしたー」
「ほーう」
少尉も副官の私もケッコーゆるいし、何よりどうせ勝ち戦。誰もキツく取り締まったり「たるんどる!」とか竹刀振り回したりしない。
でもその分、人並みに心配はする。
「具合悪いんかい。気になるべなぁ」
ついてこれるならいいけど、行軍に耐えられないなら置いてくことんなる。
「ちょっと見てきましょうか?」
「お願ーい」
その後受けた報告は「ちょっと熱っぽいだけ。大丈夫」。
だからその時は「そうか。そんなもんか」って。でも少尉と話し合って「置き去りになるならともかく、今は守備隊が面倒見てくれるよね」ってなって置いてくことに。
だけど結論から言うと、もう手遅れだった。
その夜。攻略した陣地を一晩の野営地にして。
みんなは消灯。私は少尉とテントで明日以降の進軍ルートの確認。それと行程が遅れてないかのチェック。
そこに寝たはずの『おねえさん』の一人、ブランシュが駆け込んできた。
「ソフィー!(※彼女はソラコである私をこう呼ぶ)」
「おうコラ。士官の部屋にノックもナシとな?」
「それより大変なのよ! アイリーンが!」
「ん?」
宿坊で毛布に
「大丈夫!?」
「しっかり!」
「お水飲める!?」
「ちょっとどいて!」
当の彼女はというと、顔は青ざめガタガタ震え、苦しげな息をしている。
さらに、
「ひどい熱だ……」
赤くなってないから分かりにくいけど、触れると恐ろしい温度がある。
「熱……」
「ねえさん、これって」
「もしかして、キャミーやユンファと同じ……」
「かもしれない」
となると、対応は迅速にしなければならない。いや、もう遅いんだけどさ。当時の私は知る
「みんなアイリーンから離れて。同じ症状が出るってことは感染症の可能性がある」
「でもそれじゃアイリは」
「私が面倒見る」
「えっ!?」
みんな驚いて私の肩をつかむ。
「ダメっすよねえさん! 一番の戦力が『風邪でダウンしました』なんてなったら!」
「そうよ! ソフィーが欠けた分だけ作戦が難しくなって、その分被害が増えるかもしれないのよ!?」
言い分は分かる。けど。
「こういう時に率先するのがリーダーなの。そして何より、弱ってる子は放っとかないのが『おねえさん』だよ」
まぁホントは、士気の低下を恐れただけなんだけど。だから私が前に出て鼓舞したかったワケで。
でも、その甲斐はまったくなかった。
すぐに熱病は蔓延。私たちは次のポイントへ移動し攻略するまでに一週間もかかり。
そのあいだに傷病者は小隊の過半数を超えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます