57.『世界の都市夜歩き』とか言えばBSでやってる番組っぽい
深夜の街。街灯や看板の灯りはあれど人は見かけず。
海外は治安が悪くて夜中に出歩くと危ないっていうしね。じゃあ女子高生一人でうろついてる私はなんだって話になるけど。日本でだって家で寝てる時間なのに。
バージニア州? アーリントン? だったっけ? みたいな大都市(たぶん)なのにコレか。これがもしアイダホとかノースダコタだったら(マンガで田舎っつってた)どうなるのさ。
むしろ都会の方が治安悪い可能性はあるけど。
とまぁ、それはさておき。
「やぁ、でも、マジかぁ」
振り返ると遠くになだらかーな山? 岡? その中腹から頂上あたりにかけて広がる、一見病院にしか見えない施設。
「できるモンだね。ワープ」
短い距離だけど、できてしまった。
いきなり拐われて、オカルトと戦争してるとか言われて、改造人間にされて。
はいそうですかガンバリまっすって言えるほどヒロイズム極めてない。
当然の反応として受け入れなかったし、当然の常識として半分信じてなかったし。
当然の権利として脱走を画策した。
戦争とか戦うとかできないよ。空手の試合が限度だよ。そういうのはまず軍人や自衛隊でがんばってよ。次に警察とか。
女子高生に押し付けて、それが解決策とか思わないでほしい。
最初は身体能力爆上がりだし、普通に正面突破できるんじゃね? とか思った。
でもねぇ、大騒ぎになるし。
いくら私がスーパーパワーのオーバーパワーでも、大勢の人に追い回されたり最悪銃を向けられたり。そういうのに頭やメンタルの方が対応できるとは限らないワケで。
ま、知能テストってワードがチラッとあったから、その辺脳みそクチュクチュされてるかもしんないけど。
とにかく、「できるだけ騒ぎにならないよう
なんとなく窓の外をイメージしながら目を閉じてた。
そしたらなんか、気がついたらワープしてた。
そこからはもう、チーターより速い足でスタコラサッサ。ゴキゲンな街の灯りへ駆け込んだワケ。
ちなみに小樽の実家はムリだったから、距離的な限界があるのかもしれない。
そんなこんなで置き去りにした研究所も遥か後方。
ワープできて暗闇で遠くのものがはっきり見えて。どんどん人間離れしてくなぁ。
そりゃもう純正の人間じゃないけどさ。
「はぁ」
ため息が止まらないね。少女が異国の地で一人、帰る場所のない夜を過ごすってだけでもアレなのに。
でもその裏で、案外冷静な自分がいる。まずは根なし草なりに夜を越さないといけない。24時間やってるダイナーかガソリンスタンドでも……
「はん」
まぁいいや。今はそれに感謝しようじゃないの。メシ屋の知識入れて英語はスルーなんてこたないだろうし。当座は金以外困らないでしょ。うまくお父さんお母さんと連絡取れれば、日本に帰れるかもしれない。
まずは不安だけど郊外を目指そう。アメリカだと24時間営業は郊外が多い。
「Hey, girl」
唐突に路地裏から、ガタイのいい三人組がヌルッと。
どういう連中でどういう目的かは言われなくても分かる。コイツら顔面がもう治安悪い。
トライアングルに私を包囲して、正面のヤツが肩に手を回そうと。ほら来た。
「悪いけど今、機嫌悪いんだわ」
「What’s?」
「はん」
警告はした。日本語だけど。でも絡むのをやめなかったから、全員ゴミ箱に叩き込んだ。いいよね、街中に公共のゴミ箱あるの。ゴミステーションじゃない、ポリバケツみたいなゴミ箱。
「それと、もう
足だけ見えてる輩どもにはたぶん聞こえてない。聞こえてても通じないだろうけど。日本語的にも、真意って意味でも。
あ、通じる通じないと言えば。ゴミ捨て場をゴミステーションって言うの、北海道だけらしいね。
「んなことよりお腹空いたな。おーい、ご飯奢ってくれるかい? I’m hungry!」
返事がない。ただのゴミ箱のようだ。ちぇっ。ナンパするならメシくらい奢らんかい。こちとらマズい病院食を18時に食って以来なんじゃい。なんで見た目だけじゃなくて食事も病院に準拠したかな、あの施設。
「これだったらガソスタよりダイナーがいいな。あ、そもそもお金持ってないや」
相手が犯罪者予備軍(もしくはすでにやってる)でもさすがにねぇ。いくらなんでも人から財布奪うのは気が引けたから、空きっ腹のままウロつき再開。
尼僧院でもあれば施してもらえないだろうか。早くも思考が浮浪者のソレになりつつある私の目の前に現れたのは。
「おっ」
研究施設、ではなく本物の病院。それも街のクリニックじゃなくて普通に大きいの。
もちろん24時間営業って言い方する施設じゃないだろうけど、ところどころ明かりがついている。
「ありゃたぶん、宿直がいるな」
もしかしたらワンチャン、交渉次第で一晩泊めてくれるかも? まぁ今の私なら断られても忍び込むくらいワケないけど。
とにかく、結局ご飯食べれないならダイナーで起きてるよりベッドで寝れる方がいい。お邪魔させてもらおう。
ポテチつまんだ指で逆さまの聖書を読むような道徳観。公序良俗に反するけど、善性に価値がないのはオオドリイが教えてくれた。
それに今の私、悪魔だし?
そう考えるともう、交渉するのもメンドくさくなってきた。適当な窓から侵入しちまおう。
「ここらでいいか」
しばらく敷地内を歩き回って、手頃な棟の手頃なエリアに目をつけた。
何がいいって窓から覗いた感じ、二階はナースステーションが近い。巡回とかで見つかりやすいリスクはある。でも研究所から追っ手が来た時、そこのスタッフがざわざわするから感知しやすい。
もっとも、今の耳なら敷地に踏み込んだ瞬間の足音を拾えるだろうけど。
「どーもー。予約してないんだけど、最上階スイート空いてるぅ?」
便利なワープで適当な部屋に侵入すると、
「おっと」
思わず小声になる。
「
きっと寝落ちするまで話し込んだんだろうね。ベッドごとにある仕切りのカーテンを開けたまま寝てる子どもたち。
よかったよかった。「シングルベッドとダブルベッドがございますが、どちらにいたしましょう」とか返ってきたらエラいことだった。大騒ぎだ。
「いい夢見ろよ。寝る子は育つからなー?」
せっかく人が声を潜めて(そもそも黙っとけよ)抜き足差し足立ち去ろうとしているその時、
「Eeeeeeeeeeek!!」
「なんだ!?」
別の部屋から、少女の引き裂くような悲鳴が。
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