41.宇宙人と諜報活動
なんだそれ!? 授業参観なんかよりよっぽど聞き捨てならないぞ!?
「おいっ! それってどういうことだよ!?」
『オラッ! ジャガイモよこせ!!』
熱い友情を交わした相手がピンチだというのに、メロは村人から略奪するのに夢中。やっぱり宇宙人がよ!
「メロ!」
『ナポ……』
「意味分かんないこと言ってないで答えろ!」
『私だって知らないのだ。答えようがない。今週のヒットチャートランキングに夢中で、マトモに聞いていなかった』
「音楽番組かよ! ニュース見ないから地球の情報偏るんだよ!」
カウンターをバシバシ叩いてやると、さすがに被弾を恐れたらしい。しぶしぶパソコンをどけて僕と向かい合う。
『そうだな。独り言やら博士との通話は今話した以上のことを知らんが」
親指を立てて下唇に当てる仕草。エスパーク人も地球人と似た動きのクセするんだな。人型特有のやりやすい動きとかがあるんだろうか。
思い出しているというよりは情報を整理していたんだろう。すぐにメロはカウンターへ肘をつき、こちらへ身を乗り出す。
『ヤツがオマエの家で夕食をご馳走になった日のことだ。何かを大事そうにハンカチで包んで持ち帰ってきたぞ』
「何か、って?」
『もちろん入浴中に覗いてやった。私の食事をすっぽかして捕虜虐待……』
「そっち方面広げるな! 何が入ってたんだよ!」
『知りたいか?』
「この状況で知りたくないワケないだろ!」
肘をついていたメロが、急に腕を組んでふんぞり返る。
『詫びのキャラメルでも期待したのだが、そうではなかった。甘い甘いキャラメルを』
「あとで買ってやるから教えろ!」
ムダに交渉上手というかガキっぽいというか。鼻からむふーっと息を抜いたメロ。またカウンターに肘をついて人差し指を立てる。
『髪の毛、だ』
「髪、の毛ぇ?」
え、なんで? なんでそんなモン大事に持ってきてるんだ? おねえさんFBIか何かか?
『長さ的にアレは、確実にヤツのものではなかった。とすれば、十中八九』
「オレ、の?」
『そう』
メロは深く頷くと、急に煽り性能バツグンの笑顔を浮かべる。
『ジャパニーズトラディショナル呪いには、髪の毛を使うものがたくさんあるんだろう?』
「はぁ!? おねえさんがオレを呪おうとしてるってか!?」
『イカスミパスタに混ぜるよりは健全だと判断する』
「判断してんじゃねぇ! そんなことあるワケ!」
僕だって今までさんざん救ってきてもらった身。おねえさんに対する信頼はガッツリある。
まさかそんなことをするような人じゃないし、される理由も見当たらない。
そんなことはメロも分かってるんだろう。彼女はパソコンをカウンターに戻しはじめる。
『だから行くのを止めはしない。ただ気を付けろよ、と。それだけだ』
「えぇ……」
そんな突き放し方されると、それはそれで急に心細い。
「なぁ、メロも一緒に来てくれよ」
『断る』
「なんだよ。世界で一番ポテトにご執心かよ」
『いや、普通に怖いし』
「急に真っ当な生き物になるじゃん」
そりゃ一度おねえさんにボコられてるメロからすれば、当然っちゃ当然だ。
でも今回に限っては、当事者になった僕の方がガチガチに怖いんだぞ!
「いいじゃんか! ついてこいよ! オレらにゃ星や人種を超えた友情があるんだろ!?」
『キサマっ!? 信頼関係を人質に取る気か!? そういうことすると、割と深刻にヒビが入るぞ!?』
「いーいーかーらー!」
『痛い痛い痛い痛い!』
カウンター越しに腕を引っ張ると、半分くらい引き出されたところで特殊部隊は投降した。
『ここがあの男のハウスね』
「オマエ一回来てるだろ。そもそも初めて会ったのがここだよ」
相変わらず行政が取り潰すの忘れたみたいなボロ屋の博士ハウス。僕らはこっそり庭(と言うほどゼイタクなスペースでもないけど)へ周る。
普段なら住むなんて絶対あり得ないと思うこの家も、こういう時だけはありがたい。しっかり耳をすませば、壁の隙間から微かに会話が漏れ聞こえる。
でも微かに聞こえたってしょうがない。もっと隙間に顔を寄せようとするけど、すでにメロに占領されていた。割り込もうとしたら手で押し返される。
なんだよ。あんだけ渋ったクセに、いざ現場に来たら当事者そっちのけかよ。
仕方がないので行きがけに買ったキャラメルをその辺に投げる。まんまと釣られた特殊部隊に、僕はエスパーク敗北の理由を見た。
これで落ち着いて中の様子を窺える。居間の方へいろいろ角度を凝らしてみると、座布団にアグラのおねえさんの背中。あとキングの耳飾りが、斜め後ろから見える。博士はここからじゃ見えない。
肝心の会話は、
「──」
「──?」
「──!」
よく聞こえない。小声でボソボソ密談してるってよりは、単純に調子が低い感じ。重い話題だから自然と抑えめのテンション、みたいな。
かろうじて疑問系の語尾とか何か力が入ったとか、わずかな抑揚が伝わるくらいか。メロが場所を譲らないわけだ。
と、そのメロが戻ってきた。
『どうだ。何か情報はつかめたか』
中学生くらいの体格は一応、やや小柄な小学生男子の僕より背が高い。それを利用してか、少し
「いや、なんにも。頭乗せるな」
あとキャラメルを噛むな。アゴの動きで脳天がゴリゴリ擦れる。痛いんだよ。地味に噛む音が響いて余計に聞こえにくいし。
『そうか。なら仕方ないな』
メロは小さく呟くと、僕の右耳に何か突っ込んだ。
「なんだなんだ!?」
『静かにしろ。バレるぞ』
「んなこと言ったって」
『しっ』
鋭く制されると思わず黙る。すると、
『万が一』
「お?」
おねえさんの声だ。
『でもこのまえの』
博士の声もする。
『私がいつも着けている翻訳機だ。集音機能の範囲を広げてみたのだ。聞こえるか?』
これは頭上からメロの声。
「うーん、途切れ途切れ?」
『そうか。最大にしているのだが。やはり戦闘や長期の地球滞在による整備不足で、劣化を引き起こしているようだな』
となればもう、これでがんばるしかない。断片的な言葉をつなぎ合わせてなんとか。
メロもキャラメル噛むのをやめて集中する。
聞こえてくるのは、
『男の子』
やっぱり僕の話題だ。
『たしかに問題ではある』
『髪の毛使って』
『それはもうやった』
『だけど念には念を』
『だから誘拐』
『やって損はないし』
『問題ない。始末』
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