33.『おねえさん』とスーパーヒロイン
「やぁいらっしゃい」
博士はパソコンの方を向いて座っていたが、僕らが来ると振り向いた。
画面には英語の文章がびっしり。
「何見てんの? えっちなヤツ?」
「おい」
イチコよ、小五のオトメとしてソレはどうなんだ。
しかし博士は気にしない様子。
「海外の論文読んどるんじゃよ」
「へぇー、博士っぽいわぁ」
「暇じゃからの」
「博士っぽくない動機やぁ」
改めて室内を見回す。以前と比べてゴミもゴミ以外もゴッソリ減り、殺風景になっている。
まぁ暇だよな。テレビも本もないし、年寄りがユーチューブ見るとも思えないし。研究に必要なサンプルとかは、ほとんどメロがパーにしたし。
直接パーにしたのはUFO撃墜したおねえさんだけど。
「何かな?」
「なんでも」
横目で
いや、「なんでも」じゃない。目的があって今日は来たんだ。聞きたいことがバッチリあるんだ。
「博士」
「なんじゃい」
「おねえさんも」
「はぁい」
僕が床に正座すると、一応緊張感を感じ取ってくれたみたいだ。博士は体ごと向きなおり、おねえさんも腰を下ろしてアグラ。おい、少年少女の憧れ。
「聞きたいことがあるんだ」
「おねえさんのスリーサイズかな?」
「違う」
「ワシ!?」
「茶化すなムカデジジイ!」
「ムカデジジイってなんだよ……!」
「なんか似たような映画あったなぁ」
全然緊張感汲み取ってなかった。おねえさんは腹抱えて仰向けに倒れるし、イチコはチョイスが趣味悪すぎる。あとジジイはクネクネすんな。
「マジメな話なんだよ!」
「はいスイマセーン」
「反省しとりまーす」
「黙っときますぅ〜」
バカどもを黙らせたことで、やっと本題に入れる。いらない横道ばっかりで本筋はちっとも進まないのがこの作品の悪いところだ。
ここでハンパに間合いを置くとまたウルサくなる。さっさと話を始めてしまおう。
「単刀直入に聞くよ」
「うむ」
「バッチこい」
「二人は何者なの?」
「はい?」
「ん?」
案の定、二人はよく分かってない顔をする。ま、この聞き方じゃあな。
「『おねえさん』です」
「博士です」
「そうじゃなくて」
分かってないなら分かってないなりに、黙って続きの説明を待てよ。
「宇宙人とか悪魔とか、ソイツら自体のインパクト強いからつい忘れるけど、おかしいんだよ」
「何が」
おねえさんは腕を組む。別に冷たい感じではないけど、なんとなく警戒されてるのが分かる。
ちなみにイチコは空気読んで完全に黙ってる。さすがにいろいろ感じ取ったらしい。
「博士はメロが来た時、宇宙人のことを最初から知ってた。おねえさんもさっきの会話で、タコを見て悪魔だって分かるくらい詳しいのが分かった」
今度は二人とも相槌を打たない。僕の言葉を待っている。
つまりそれだけ慎重にならざるを得ない、ヤバめの話題だってことだ。
「そんなのの存在を知ってて、受け入れてるだけでもおかしいんだ。なのにソイツら。オレらは存在を知らないどころか、見えないところで人間と戦争までしてたって」
誰も口を挟まないから、僕もどんどん勢いづいていく。
「戦争が起きて『知らない』なんてことあるか? テレビも新聞も何も言わないなんてあるか? 誰も気づかないくらい痕跡が残らないってあるか? あり得ないんだよ、そんなこと。だったら考えられるのなんて一つじゃないか」
あのヤギ頭がベラベラしゃべってたのを、イチコは現場で聞いていたはずだ。
それでも驚いた顔をしている。小声で「えっ?」とか「なんやて?」とか呟いている。
普通はそうだ。
なのにおねえさんと博士。当然のように、マジメに僕の話を受け止めている。
それがもう答えみたいなもんだ。
「誰かが隠してたんだよ。マスコミにも命令できるくらいの、大きい誰かが」
一度おねえさんの目を見つめる。目を合わせるとかじゃなくて、瞳を射抜くように見つめる。
彼女は逸らさない。
だから僕も逸らさない。
「そんな情報を知ってた、二人はいったい何者なんだ?」
ここでようやく、二人は僕から目線を外し向き合った。
真実を話すべきか確認し合っているのか。数回小さく頷くと、また僕へ視線を戻す。さすがに適当なゴマカシを練る時間もコンタクトもないはずだ。あらかじめ用意されてたとかでなければ。
「まぁ、なんだろうね」
口を開いたのはおねえさん。後頭部を掻きながら、少し言葉を選ぶような調子。
「ざっくり言うと、ゴルゴ13みたいなもん?」
「ゴルゴ?」
「そ」
おねえさんは人差し指を立てる。
「ま、例えはなんでもいいんだけど。要は皆さまご存知のスーパー仕事人! 的な?」
「言うて一般には隠されとるんじゃがの」
「そそ、あくまで政府だけ。それも非公式。だけどそういうお偉いさんには認められてるから、男の子が知らない世界のヒミツも教えてもらえる。仕事の依頼とかでね」
目の前のTシャツジャージおねえさんが? ちょっと信じられない。
「どうしてそんな」
「逆に聞くけど、男の子が政府のお偉いさんだとするじゃん? おねえさんくらい強い人いたら目ぇつけない? お仲間にしといて、いざという時の切り札にしようと思わない?」
「た、たしかに」
そう言われるとたしかにそう。
ちょっとした納得で僕の剣幕(?)が削がれたせいだろうか。ずっと後ろの方で黙っていたイチコが、四つん這いで前に出てくる。
「え? てことは博士もなん? めっちゃ強いん? マーベルヒーローなん?」
「ヒョウブはアンパンマンのオマケのジャムおじみたいなもんだから」
「言うてジャムおじおらんとアンパンマンどうしようもないじゃろが」
「違いないね」
おねえさんは博士の背中をバシバシ叩く。やめろやめろ。アンタの腕力じゃ、老人なんかバラバラに飛び散るぞ。
とかなんとか、そっちに気が逸れているうちに。
おねえさんはニコッと笑って、
「ま、そういうわけだから。『おねえさん』はホンモノの正義のヒロイン! 今まで以上に頼りにして、憧れてくれていいんだよ、少年少女」
納得するとかしないとか、受け止める間もなく話をまとめてしまった。
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