27.イチコとコックリさん
「コックリさん?」
「うん。最近流行ってんの」
「へぇ」
最近って、四年生の時も流行って
「それに、なんでオレを?」
「イチコちゃん誘ったんだけど、怖がって参加してくれなくて。だけどこのまえ『ケンちゃんもおるならやる』って言ってさ〜」
「しばらく休みだったから、参加しない言い訳に使っただけだろ」
「うわ、それマァジで言ってる?」
「はぁ?」
「とにかくさ、参加してくれない?」
よく見ると、エッコ軍団(別に誰がリーダーって集団でもないけど)四人に混じってイチコもいる。普段からつるんでるワケでもないのに、何をそんな労力割いて誘うのか。
「や、オレは」
嫌がってることだし、ここは断る口実になってやろうと思ったが。
当のイチコを見ると、案外平気そう? ていうか、親指立てて手招き、どっちかっていうとやりたそう?
「やってもいいけど」
チラ見で確認するとイチコは小さく頷いた。やりたくないんじゃなかったのかよ。
「じゃ、決まり! おアツいですねぇ〜!」
エッコから謎の煽りを受けつつ、僕はテーブルを囲む円に参加した。
十円玉が、『はい』とか『いいえ』とか五十音とかいろいろ書かれた紙の上に置いてある。知らないなりに覚えのあるセッティングだ。
そこにみんなが人差し指を添えていく。
「ケントくんも乗せて」
「はいはい」
「せーので『コックリさん、コックリさん、おいでください』だからね」
「あー、なんか聞いたことある」
エッコは他のメンバーにも順番にアイコンタクトで確認を取ると、
「じゃあ始めるよ。せーのっ」
「「「「「「コックリさん、コックリさん、おいでください!」」」」」」
「これでちゃんと来たのか?」
「まぁまぁ。そう慌てなさんな」
十円玉はうんともすんとも。僕には不発にしか見えないが、エッコには想定内のようだ。
「コックリさん、コックリさん。おいでになられましたら、“はい”の方へお進みください」
すると、
「動いたーっ!」
「きゃーっ!」
「ケンちゃん!」
「そんな目で見るなよ」
そしてイチコ以外は何回もやってるんだろうから、いちいち騒ぐなよ。
「誰か動かしてる?」
「私じゃなーい!」
お決まりの会話が飛び交う。「誰かが無意識で動かしてるんだよ」とかいうお決まりの野暮は言わないでおこう。
そうしているあいだにも十円玉は
『いいえ』
「は?」
エッコがあまりにもコックリに不敬な声を出す。
「『いいえ』だってさ」
「いやちょっと待って、これは違うの」
「浮気したオンナみたいや」
「イチコちゃん!! それよりふざけてるの誰!? 正直に挙手! 今ならまだ許す! あ、もちろん十円触ってない方の手ね!」
エッコがジロリと見回すも、
「えっ、知らない知らない」
「私じゃない」
「そんなことしないよ!」
「アタシら初めてお邪魔して、そないなことする度胸ないわ。なぁケンちゃん?」
「そりゃあ」
みんな首を左右へ振る。誰かが嘘をついているでもなければ、犯人がいるわけではないらしい。まぁ無意識にやってることだからな。誰が悪いでもない。
魔女裁判ならぬコックリ裁判が行われている最中にも、十円玉はゆっくり動く。
『ふ』『ざ』『け』『て』『な』『ど』『い』『な』『い』
無意識のわりには言い訳がましいコックリだな。
これ、やっぱり誰かふざけてるんじゃないのか? イチコか?
が、プロのコックリストたるエッコが気になるのはそこじゃないらしい。
「ちょっと! 質問してないのに動いてるんだけど!? 誰!?」
『い』『い』『か』『ら』『し』『つ』『も』『ん』『し』『ろ』
十円玉がゆっくり、かつ滑らかに動く。
「またえらく乗り気なコックリだな」
まさかのコックリに急かされる人間たち。この言葉で正気に戻った(コックリしてる時点で正気も何もないか)エッコは、ニヤリと笑った。
「そうね、そうだったね。じゃあ本格的に始めましょうか! じゃあコックリさんに質問ある人!」
気を取りなおすの早いな。なんて思っていると、向かいのワカバが素早く左手を上げる。
「はいはいはい!」
「よしワカバくん! 何が聞きたい!」
エッコが指名すると、ワカバはチラッとイチコの方を見てニヤリ。
「何?」
ちょっと困惑気味に返すイチコには答えず、大きく息を吸うと、
「ズバリ! 『アイスイチコちゃんはハバトケントくんのことをどう思っているのでしょーか!』」
「ほああぁぁぁぁ!!??」
イチコの悲鳴が響きわたる。しかしチームエッコは
「いいねぇ!」
「気になる!」
「聞こう聞こう!」
「ちょっ、待っ!」
本人の意思を無視して多数決を決めてしまう。
なるほど。僕を引っ張ってまでイチコを参加させたがった理由が分かったぞ。要はデバガメみたいなもんだ。
僕が空気読んで言わなかった『本人たちが無意識で動かしてる』っていうの、エッコたちだって知ってたんだ。
で、とにかく女子は恋愛ナンタラが好きなもの。僕とイチコは一緒にいることが多いからって変な想像したんだろう。だからコックリを使って本人から聞き出そうってわけだ。
なんなら『僕が一緒なら』って条件も、本当はエッコたちが切り出したものかもしれない。こういう連中はとにかく本人同士を対面させて、ヒューヒューやりたがるもんだ。
「よし! コックリさん、コックリさん。アイスイチコはハバトケントのことをどう思っていますか!」
「ヤーーーイヤイヤイヤイヤイヤ!!」
イチコのブルーノ・ガンツ演じる総統閣下みたいな悲鳴とともに、無情にも十円玉は動き出す。
「さてさて! どうなるかな!?」
「わくわく!」
これじゃイチコが晒しものみたいでかわいそうだ。出る結果だって本人の無意識じゃなくて、誰かの妄想の可能性が大いにある。そしてこういう連中は、少しでも好意的な内容だったら絶対からかうし言いふらす。
「あのなぁ」
僕が庇うと、それはそれで「デキてるから隠そうとしてる」みたいなこと言われそう。そう思って黙ってたが、さすがにここは一言
と思った瞬間、
「うわっ?」
「えっ?」
「何!?」
急に猛スピードで十円玉が動き出した。
「なになになに!?」
「ちょっと誰!?」
エッコズが混乱するなか、慣れてないから逆に異常事態と気付かないイチコ。呑気に動きの先を追っている。この状況でそっちが気になること自体は普通に変だと思うが。
「えーと、『た』『い』『へ』『ん』『き』『よ』『う』『み』『ふ』『゛』『か』『い』。やっ!?」
「えー!? なんかイチコちゃん、ミョーに固い言い方するじゃん?」
「素直に『好き』って言いなよ〜」
照れるイチコ。恋バナとなるや一瞬で気を取り戻すエッコ勢。
確かにイチコらしからぬ、どころか他の誰もしなさそうな言い回しは気になるけど。
それより今はこのイジメみたいな状況をなんとかしたい。
「おい!」
「あ! まだ続きあるみたいだよ?」
わりと小学生男子にしてはドスの効いた声だったと思うんだけど、恋バナ女子には届かない。完全無視され、エッコは黙ってうつむくイチコの代わりに音読する。
「なになに? 『ま』『か』『い』『に』『つ』『れ』」
『帰って、調べる価値が大いにある』
「えっ?」
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