24.『おねえさん』と鬼ごっこ
聞き慣れた声は唐突に僕の背後、モニターの方から聞こえてきた。
『まさかっ!? そんなバカなっ!?』
メロも慌てるが、振り返ってモニターを見ても電柱しか映っていない。
『どういうことだ!? ありえないぞ!?』
スイッチを雑に押しまくるメロ。それに合わせてモニターの映像が切り替わる。
すると真上だろうか、映像が青空に切り替わったところで、
『「おねえさん」はねぇ』
何やら黒い点が、だんだん大きくなっていく。
『ジェームズ・ボンドくらい揺るぎなくて、ロッキー・バルボアくらいガッツがあって』
それはこっちへ向かって、食らった電撃をボウリングの球くらいに圧縮させて、
『ジョン・マクレーンくらい不死身』
バスケのダンクシュートみたいな体勢で落下してくる、おねえさんだ!
『着払いでお返しいたしまーーーすっ!!!』
『ぐあああああああっ!!』
メロの絶叫が響き渡る!
どうやらUFOに電撃を叩き付けられたみたいだ。感電こそしないけど、激しい揺れが機内を襲う。僕も両手で後頭部を庇って、舌を噛まないよう必死に耐える。
『くっ、くそぅ! まさか、最新兵器でも通じないとは!』
揺れでひっくり返っていたメロが起き上がり、操作盤に手をかける。
『おいっ! 地球人には「三十六計逃げるに
「そんなの小学生が知るかよ!」
『戦場は常に流動的なのだ』
「つまり!?」
『撤退だーっっっ!!』
モニターではダンクシュートを終えたおねえさんが道路へ着地しているが、映像はグルリと動く。どうやら思いっきり背を向けて、とにかく逃げる方向に舵を切ったようだ。小さい別枠のモニターで表示されたおねえさんがどんどん小さくなっていく。
しかし、
『くそっ! 今ので電気系統がイカれた! 本来の速度が出ない! このままでは!』
メロがレバーを目一杯押し倒しながら、チラリと小さいモニターを見る。
そこにはぐんぐん距離を詰めてくる、ウサイン・ボルトみたいなフォームのおねえさんが!
『すぐに追い付かれてしまう! 迎撃しなくては!』
「あれだけ電気ショック浴びせといて、まだ攻撃するっていうのかよ!」
『ヌルいこと言うな! オマエはヤツの恐ろしさを知らないからそんな「街に出たヒグマを殺すなんてかわいそう」みたいな発言が出てくるんだ!』
「人間のマイナーな話題に詳しいな!」
おそらくX(Twitter)の炎上した話題で情報収集してる宇宙人。右手で操作しつつ左手で頭を掻きむしる。
『ダメだっ! 電気ショック照射装置も回路がショートしている!!』
「逆によく飛んでられるな、このUFO!」
『なんでもいい! なんでもいいから発射してくれ! ハトでもいいから!』
「マジシャンかよ!」
そのあいだにも迫る魔の手(僕にとっては味方なんだけど)。
モニターをよく見ると、オーバーオールは焼け焦げてあちこちボロボロ。いつもの耳飾りもクイーンがない。
だけどアフロになってないし皮膚も
「バケモノ……」
『失礼な。「おねえさん」だよ』
『少し静かにしてくれないか!』
余裕で律儀に答えるおねえさん。涙目でテンパる特務部隊員。僕は完全に被害者なんだけど、さすがに少し哀れに思えてきた。
メロがもう自分で何をどう操作してるか分かってなさそうにスイッチを叩くと、
『動いた!』
ガコン! という振動を感じ、顔の前でお手手パチパチ喜ぶ特殊部隊。モニター端っこのUFO全体図に映ったのは、
「ミ、ミサイル!?」
『暴発していたら危ないところだったな!』
「おい! そんなもん街中でぶっ
『電気ショックと一緒だ! ヤツがなんとかしてくれるのを期待するんだな!』
「コイツ!」
『発射ぁ!!』
恐怖でおかしくなっているのか、子ども向け作品の悪い博士(ヒョウブではない)みたいなテンションになっているメロ。発射スイッチにゲンコツを落とす。
瞬間、またも機内まで響く空気かガスが噴射される音。すかさずエンジンが点火したか空気が震えているかのような轟音。
二本のミサイルが煙の尾を引いて、ぐんぐんおねえさんへ飛んでいく。
『頼むからこれで消し飛べぇ!』
あまりにもプライドがない小物な殺意を載せたミサイルは、あっという間に目標へ到達する。
が、
『おりゃああ!!』
おねえさんは難なく、両脇でがっちりホールドしてしまった。ミサイルの勢いで少しだけ後ずさるも、それすらすぐに止まる。
『何ぃぃぃぃぃぃ!!??』
メロが引き続き小物感たっぷりの叫びを上げる。
対するおねえさんはミサイルを片手に一本ずつつかみ上げ、思いっきり飛び上がり、
『出したオモチャは、元あった場所にお片付けぇぇぇぇぇ!!』
もうここは彼女の射程内、UFOに向かって振りかぶる!
ん? ちょっと待って?
『やめろおおおおお!!』
「待っておねえさん! 僕も乗ってるううあああああ!!」
『爆☆散!!』
「うわああああああ!!」
『ぐぎゃあああああ!!』
凄まじい爆音と衝撃が、僕を襲
気がつくと僕は、博士の家のボロい畳の上で横になっていた。
「……夢?」
じゃないな。空が見える。屋根がない。
「やっほ。目が覚めた?」
視界を遮るように、用事で別れたはずのおねえさんの顔がドアップで差し込まれる。てことはやっぱり、あれは夢じゃなかったみたいだ。
服も昼間見たのと違って、『セーラーマリ・キュリー』とかプリントされたTシャツにステテコ。いかにも『あり合わせに着替えました』って感じ。耳飾りも片方しかないまま。
電気ショックで服ボロボロになったのが現実だからだろう。
「おねえさんはさぁ……」
「何かな?」
「助けようとするのはいいけど、人質のこと考えてないよね……」
出たのは、安堵と寝起きが混ざった軽口。対する彼女はいつものように胸を張る。
「『おねえさん』だぞ。あのUFOの強度くらい知ってる」
「Wikipediaにでも載ってるのかよ……」
「そんな言い回しできるなら平気そうだね」
「うん……」
それより、どんなダニが湧いてるかも分からない畳だ。できるかぎり寝っ転がらない方がいいだろう。大きくノビをしながら起き上がると、
そこには大量のUFOの破片と、ロープでミノムシにされたメロが転がっていた。
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