23.『おねえさん』と電気ショック

 ♪ポンポコポコポン ♪ポンポコポコポン



 室内が青い光で点滅し、アイフォンの着信音みたいな響き渡る。


「な、なんだ?」

『まさか!?』


 さっきまで淡々と小難しいことを言っていたメロが急に取り乱す。まるで飛び付くように操縦台へ駆け寄った。

 彼女がやたら数の多いスイッチをバチバチ押しまくると、謎の光と音は収まる。

 が、


『なんということだ』

「どうしたんだよ! さっきのはなんだよ!」


 僕の言葉に振り返ったメロは、元から白い顔をさらに蒼白にしていた。宇宙人の生態なんか分からない僕でも察するほど。


「ど、どうしたんだよ。墜落でもしそうなのか?」

『たしかにこのままでは、確実にそうなるな』


 彼女は冷や汗を流しながらニヤリと笑う。宇宙人も汗かく構造してるんだな。

 って今はそれどころじゃない!


「はぁーっ!? 笑ってんじゃねーよ! そんなの困るよ! なんとかしろよ!」

『分かっている。私とて落ちる気は毛頭ないぞ! もちろん死にたくないし、君を死なせるわけにもいかない』

「無闇に拐っといてよく言うよ!」


 メロはまたスイッチを押す。


『墜落回避に関してはな、無闇にポジティブぶち上げているのではない。しっかりした対策があるのだ。見よ!』


 自慢げな声とともに、空中にウインドウが出現する。SFでよく見るやつだ。そこに映っているのは、



「えっ? えぇーっっっ!!??」



 電柱の上で腕組みをかき、ムスッとこちらを睨むおねえさんだ!!



「えっえっえっえーっ!?」

『落ち着けハバトケント。さっきも言ったが、ちゃんと対策は用意してあるのだ』

「どうしてオレの名前を?」

『それくらい調べるだろ普通』


 普通調べないと思うけど、メロが答えてくれるとは思えない。彼女がまた何かスイッチを操作するのに夢中なあいだに、おねえさんの方も立ち上がる。

 僕はモニターに飛び付いた。


「おねえさーん! 助けてーっ!! 宇宙人に手違いで拉致られたーっ!!」


 相変わらずどうやって居場所を突き止めるのか不明だけど、来てくれたからにはもう安心だ! きっといつものようにバケモノじみたパワーで僕を助け



「UFOごとオレまで撃墜されたりしないだろうな!?」



 なんか急に恐ろしくなってきた! よくよく考えたら、相手はビルを引っぺがして持ち上げるようなタイプだ!

 悪い予感に身悶える僕をメロが押しのけてくる。


『どきたまえ。対策があると言っているだろうが』


 彼女が再三スイッチを操作すると、



 モニターに映るおねえさんへ、狙撃スコープみたいなターゲットマークが。



「え、ちょっ、何する気だよ!?」

『フハハハハ! 我が軍最新鋭の電気ショック照射装置だ! これでアイツを跡形もなく消し飛ばしてやる!!』

「えぇーっ!?」


 あまりにも物騒な! いかにおねえさんがバケモノとはいえ、体自体は生身の女性だぞ!? いくらパワーがあったって、そんなの直撃したらさすがにもないだろう!


「やっ、やめろぉ!!」

『もう遅い! エネルギー充填完了!』


 モニターの端っこにUFOの全体図が映っている。最初に外側から見た時にはなかった細長い銃身みたいなのが、機体の下側から生えているようだ。

 つまり装置は外に付いているってこと。なのにバチバチバチバチッと、凶悪な音が機内に響く。おそらくは、とんでもない威力の電気ショックが!



『飛び散れっ!!』



 メロが操作盤にゲンコツを落とすと、モニターいっぱいに閃光がほとばしる。



「おねえさんっ! 避けてーっ!!」



 僕の叫びは虚しくどこかへ。電撃は光の合間からかすかに見える、おねえさんの姿に直撃した。


「うわっ!」


 そのまま急に威力を増した光で、すぐに何も見えなくなる。


 たっぷり数秒間はそうしていただろうか。徐々に光は小さく収束していき、ようやく視界が正常に戻る。


「お、おねえさん! おねえさん!!」


 慌ててモニターに飛びつくと、そこには



「あ、あぁ!」

『ウフハハハハハハ!!』



 おねえさんの姿なんか、カケラも残っていなかった。



 そこにあるのは水蒸気みたいな煙と、威力にしてはほんの少し焼け焦げただけの電柱。

 おねえさんなんか、足先も残っちゃいない。


「う、うぅ! くそぉ!」


 膝から崩れ落ちた僕に、メロが呆れたような声をかける。


『分からないヤツだな。たしかに君と彼女が密接な関係であったのは知っている。だがこれで、撃墜される脅威は去ったのだぞ?』


 奥歯が軋む音がした。こまめに切っているはずなのに、爪が手のひらに食い込む感触がする。


「ふざけるなっ!」

『それともアレか。そうか、君は彼女が救助してくれることを期待していたのか。だが、君も懇意こんいにしていたのなら、アレがどういう手合いか知っているはずだ。巻き込まれてどうなっていたか分かったものではないぞ。そういう意味では、我々には君の生命へ危害を加える予定などない。お互いの利益に繋がったのではないか?』

「黙れよっ!!」


 力のかぎり吠え返すけれど、僕にはどうしようもない。仇の討ちようなんてない。僕は無力で小っぽけな、ただの小学生だ。

 爪の痛みを感じる拳の、手の甲に涙がぽつりと落ちる。


「おねえさん! どうして、どうして避けなかったんだ!」



『そりゃあおねえさんが避けたら、街のどこかに当たっちゃうかもしれないじゃん』



「えっ?」

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