第2話 マッチングアプリとか恐怖しかない!
【きっかけは突然に】
「鴨ちゃん、最近会ってないけど元気にしてる?」
高校、大学と同じだったヒマちゃん(仮)から連絡がきたのが、今思えば大きな転機だった。
この時私は東京でヴィジュアル系バンドのライブが終わり、夜行バスで帰るべく山手線で電車を待っていた。確か当時33歳くらい。現実逃避の後の余韻にドップリ浸かり、お花が咲き乱れたままの脳みそにガツンと響く一撃で、瞬時に我に返った瞬間であった。
女子あるあるだが、しばらくぶりの友人からこの手の連絡がくる時は大抵が結婚報告と相場が決まっている。ヒマちゃんも例に漏れず、その後続いたラインには結婚することになったと嬉しい報告が続いていた。
後日、ヒマちゃんとランチのセッティングをして久しぶりに会うことになった。久しぶりに会ったヒマちゃんは、腰まであったロングの髪をバッサリと切って少し大人っぽくなっていた。(と言ったって、この時点で二人とも三十路越えのいい大人である)
まずその髪のことから始まって、近況報告もそこそこに結婚が決まったことを早く聞きたくて仕方なかった。
「結婚報告本当にびっくりしたよ、改めておめでとう!」
「いきなりでびっくりしたでしょ?ありがとう」
こんな会話の後に、ヒマちゃんは思いがけない事を口にした。
「結婚するきっかけになったの、鴨ちゃんなんだよ」
はて??ヒマちゃんとは少なくとも一年は会っていなかったはず。誰かを紹介したりもしていない。どういうことだろう?
続けてヒマちゃんが言うにはこういうことであった。
「前に鴨ちゃんと遊んだ時、婚活パーティー行ったりして婚活してるって聞いて火がついたんだよ」
なるほど、確かにそんな話をしていた!
私はモテないことも、彼氏がいないことも恥じるタイプではなかったので、よく話のネタにと婚活の話をしたりしていたのである。
婚活パーティー、街コン、相席居酒屋、結婚相談所etc……。
ありとあらゆる婚活をしていた。その話をしたのが三十路に手が届くあたりだったので、彼女はそこから思いたって積極的に婚活を始めたということだった。う~ん、偉い!!
先に挙げたように、私は結婚しない(できない)ことを正当化するため、“これだけ活動したんですよ~”という実績が欲しかった。そのためにあらゆる婚活を試していた。
(ヒマちゃんと比べて私の何と後ろ向きな理由なことよ、トホホ……)
しかし、色んな婚活に手を出した私だが唯一“マッチングアプリ”にだけは手を出していなかった。
なぜなら現在のアラフォー世代にとって、マッチングアプリは出会い系アプリ=危ないものという意識が強い。出会い系が出始めた頃、殺人事件や沢山のトラブルが連日メディアで取り上げられていたのをリアルタイムで見聞きしてきたのだ。第三者を挟まず、個人でやり取りをして見ず知らずの人と会うというのも何だか怖いと思っていた。
ところがどっこい!ヒマちゃんはマッチングアプリで素敵な旦那様に巡り会ったというではないか!!
結婚に至るまでのドラマを聞いて感心しながらも、この頃には婚活をスッパリ辞めて趣味に没頭していた私は婚活を再開させる気がまったくなかった。だってバンドマンを追いかけるのも、新しい品種の薔薇を育てるのも楽しくて仕方ない!美しいものに囲まれて夢見心地でフワフワしていた。
毎日が充実している。それでいいと心の底から思っていた。
だからこの日はヒマちゃんの幸せそうな様子を見て暖かい気持ちになって、結婚式には是非出席させてねと言ってバイバイしたのであった。
この日、ヒマちゃんからもらった“マッチングアプリ”という新しい情報と可能性の芽。それはその後も心のすみっこに存在し続け、数年後のある日、仕事のストレスが爆発したことによって突然開花することになるのである。
どこまでいっても私の婚活は後ろ向きであることよなぁ……。
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