第15話 いつも全部、突然に
その知らせは突然だった。
特に何もせずに一人部屋でぼうっとしていたところに母親が慌てた様子でノックもせずにいきなり入ってきた。
「真砂希!」
「何?」
そのあまりの慌てように僕はベッドに横たえていた体を勢いよく起こす。
「詩音ちゃんが……」
「詩音が……何?」
「交通事故に遭ったんだって!」
「!?」
詩音に関わることか……と少し母親の慌て具合に対して冷静になっていたが、想像を遥かに超える言葉が出てきたので、思わず唖然としてしまう。
「病院に今から車で行くから、一緒に来るなら早く来なさい!」
「……分かった」
家を飛び出し、親の運転する車に乗って病院に向かう。
徒歩で行くなんかよりは遥かに速いはずなのに、信号待ちの時間などはじれったさを感じ、やけに心臓がゾワゾワし呼吸が苦しくなった。
時間にしてみれば十分程度のはずなのにやけに長かったその時間を終えて、やっとのことで病院に着くと詩音の両親と合流した。詩音の母親の震える肩と顔色の悪さがまさか……と僕の悪寒を煽る。
深呼吸をして焦る気持ちを落ち着かせながら看護師さんからされる説明を聞く。
詩音が脇見運転の車と接触したこと。弾き飛ばされて全身を打ち、体に多数の擦り傷を負ったこと。そしてもう一つ——命に別状はない。
そこまで、一番聞きたかったことを聞いて安堵の息を僕は漏らしたが、次に発せられた言葉でそれを撤回することになった。
ただし、運悪く頭を打ったためか意識不明のまま運ばれた彼女は現在も意識が戻っていないこと。
その後、病室に案内されたが、個室で眠る詩音を見て僕はやけに補修のされた人形みたいだと思った。
体のあらゆるところに巻かれた白い包帯が何かあったことを漂わせているが、それ以外は呼吸もしているのでただただ寝ているだけのように見えなくもない。
家に帰ってからも現実味がなく、彼女のそんな姿を思い出しながら味のしない夕食を食べている内に突然涙が溢れてきた。
なんで涙が出てきてるのか、考えなんて上手くまとまらなかったのでなんとなく彼女の名前を呟く。
「詩音……」
♢
詩音が交通事故に遭ってから数日が経った。
関わりたくない、もう関わらないと決めたはずなのに毎日足は勝手に病院に向かっていた。
そして今日もまた僕は学校が終わると未だに目を覚まさない彼女のお見舞いに向かっていた。
少し違うところがあるとすれば、事故のことを知った高崎さんに一緒にお見舞いに行かせてくださいと頼まれて一緒に向かっていること。
「桜木くん、大丈夫ですか?」
「ああ、うん」
隣にいる彼女が心配そうな声をかけてくるが、僕は上の空で返事を返す。
それ以外にも道中でしきりに高崎さんに何か話しかけられていた気がしたが、それも全部同じく上の空で返事している内に、気付いたら病院の入り口にいて、次の瞬間には病室に着いていた。
何かの間違いでいいから、目を覚ましていないかなと思いながら病室の扉を開ける。
ただ残念ながら現実にはいつもと同じように眠る彼女。
誰にも聞こえないくらいの大きさで溜め息を吐いて、最早僕の定位置となった椅子に腰掛け、彼女を眺める。
そんな僕の様子に見かねたのか高崎さんは僕の肩を揺すり、提案をしてきた。
「ちょっと外歩きませんか?」
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