第13話  私が始めた物語

 いじめの復讐。


 僕自身具体的にそこまで考えるのには至らなかったが、二年間いじめに対してただただ無抵抗で過ごしていたわけではない。


 教師に相談してみたり、直接やめてくれと頼んでみたり。ただしそれだけではほとんど効果が出ず解決できなかったので今に至っているのだが。


 そんな僕だからこそ当然の疑問が生じる。


「どうやって……?」

「……ごめんなさい。具体的にはまだ……。さっきの様子を見て突発的に思っただけなので」

「……」

「ただとびっきりの方法で、桜木くんのことをいじめていた方々にやり返したいんです。それこそ後悔をしてはやまない程度には」


 高崎さんのまっすぐとした目から強い意志を僕は感じ取った。だからこそ僕は疑問を口にする。


「……それだと高崎さんのじゃなくて僕の復讐になっちゃわない?」

「おそらく私と桜木くんをいじめているメンバーって大体同じだと思うので大丈夫です」

「……僕自身あんまり女子にはいじめられてないけど」

「……それは……私は桜木くんに助けてもらったんだからいいんです!」


 少し怒ったように僕に言う彼女。


 彼女自身が僕のためを思って言ってくれているのが分かった僕は素直に好意に感謝しながらも、彼女に大丈夫だと伝えようとした。


「高崎さんの気持ちは嬉しいよ。たださっきも言ったと思うけど、高崎さんには責任とかないんだから。わざわざ高崎さんが自分を犠牲に、危ない目に晒してまでやろうとしなくてもいいn」

「別に責任感なんかじゃないです。恩に感じている部分は確かにあるかもしれません。というより確かにあります。それでも、私はそれ以上に」


 彼女はそこで一旦息継ぎを挟み、一言言い放った。


「やらなきゃ、終わらせなきゃいけないんです。私が始めた物語なので私がケリをつけて、そして——」


 彼女が最後に告げた言葉は小さすぎて聞き取れなかった。ただ聞こえた部分に関して言えば、力が籠もっていて、その言葉を聞いたからには物語の部分に突っ込むのはもう野暮だと思った。


 彼女は僕のことをもう一度見据え、手を差し出してきた。


「一緒に復讐をしませんか?」


 僕はそう差し出された手を今度は固く握り返した。


「それならお願いします」


 そんな僕にありがとうございます!と言いながらとびっきりの笑顔ではにかんできた彼女を見て僕は何故か少し胸が暖かくなっていた。



 屋上から降り、裏門から学校を出て、折角だからと一緒に帰宅している途中で僕はふと思い出したことを尋ねる。


「そういえば、もう一つって何?」

「……もう一つというのは?」

「いや、心残りのこと。さっき二つあるって言ってたでしょ。多分わざわざこの学校に戻ってきた本来の理由にあたるやつだと思うんだけど……。僕に出来ることなら手伝うよ」

「そうですね……」


 何かを考えこむように僕から視線を逸らしていたが、やがて首をゆるゆると横に振ると微笑みを見せてきた。


「今はやめておきます。……もう少し経って一区切りが付いたらお願いするかもしれませんが」

「分かった」


 ちょうどそこで僕の家が右に進んだ方向にあるのに対して、彼女の家に行くには直進をしなければならない分岐路に着いた。


「それじゃあまた明日」

「はい。復讐方法の方は考えてくるので、思いついたら今日みたいに机の中に紙を入れておきますね」

「オッケイ、分かった」

「それじゃあ今日は本当にありがとうございました。さようなら、桜木くん」


 手を振る彼女に僕も同じように手を振り返しながら彼女と別れ、一昨日、昨日そして今日と起こったことを軽く思い返しながら僕は家まで一人帰った……。

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