第12話  いじめられっ子同士

 五限の授業から戻ってきて教科書を入れていると僕は机の中に見慣れない紙切れが入っているのに気が付いた。


 以前に消えろやゴミなどの悪口を書かれた紙を入れられたことがあるので、今回もその類の小林の悪戯か?と憂鬱気に思い、小林の様子をチラリと見たが、いつものように僕のことを見てニヤニヤと笑っているわけではなく、友人と普通に会話をしていた。眉をひそめながらそれなら、誰かが自分の席と間違えて何か入れたのかな?と思いそっと取り出して所持者の名前を見るために中身を確認した。


「……えっ?」


 そこには放課後、屋上に来てくださいと女子特有の丸まった文字で思いもしなかったことが書かれていたので僕は思わず更に眉をひそめた。


 いかにも悪戯みたい文句なのに、小林が犯人じゃない?


 そうすると、誰が僕のことを呼び出したのか?それを確かめるために放課後、僕は授業が終わるとすぐに屋上に向かった。


 ただ、数分経っても誰かが来る様子はなかった。


 こうなると実は小林がどこかに隠れていて、僕がいつまで待とうと誰も来ないのにもかかわらず待ちぼうけを食らっているのを陰で嘲笑っているんじゃないかと思い始め、付近を軽く探し始めた。するとその時突然ドアが開いた。


「すみません、遅くなってしまって」

「いや全然待ってないからいいけど……あの紙って書いたの高崎さんだったんだ」


 小林の悪戯かと疑ってしまったことを軽く内心で謝る。


「ええ、すみません。名前を書いておけばよかったですね……。一応遅れてしまったのには理由があって、一緒に帰らない? とかこの後遊びに行かない? と誘われたのをすべて断るのに意外と時間をとられてしまっただけで……というより本当に面白いですよね。全く気付いていないんですから」


 高崎さんの言わんとしているところが何となく分かってしまった僕は何とも言い難い複雑な気分になり黙り込む。


 そんな黙り込んでしまった僕に突然彼女は頭を下げてきた。


「ごめんなさい」

「えっと……、いきなりどうしたの?」

「見てましたよ、昼休み購買に行かされるのを」

「……」


 昼休み、詩音から逃げるように校舎裏に行ったら、運悪く小林の取り巻きの一人に出くわして、パシリをさせられたのは事実だ。


 ただそれだけなら別に高崎さんには関係のない話なのだから謝る理由にはならない。ということは……。


「それって私のせいですよね……」

「いや、別にそういうわけじゃ……」

「別にそこで嘘を吐かなくてもいいんですよ。私は桜木くんに助けてもらったのに逃げるようにいなくなってしまったわけですから」


 二年前、僕は放っておけなくて小林たちにいじめられていた高崎さんを庇ったことがある。


 確かに実際、彼女が転校してしまってから標的が僕に移ったのは事実だ。ただ、そうだとしてもその責任は高崎さんには全くない。悪いのはいじめをする側で、された側ではない。他にあるとしても庇った僕の自己責任だけ。


 そう思ったままに高崎さんに伝える。


「やっぱり優しいですね、桜木くんは」


 高崎さんの素直な賞賛が少し恥ずかしかったのと、僕にとってもっと重要な尋ねたいことがあったので僕は話題を変えた。


「そんなことより、なんでわざわざこの学校に戻ってきたの? ……またいじめられるかもしれないのに」

「……私には心残りがあったんです」

「心残り?」

「……ええ、心残りです。……それを私は果たすために戻ってきたんです。……今となってはそれも二つに増えましたけどね」


 そこまで言うと高崎さんが一歩僕の方に近付いてきた。


「昨日のに加えて、もう一つだけ提案をしてもいいですか?」

「……何を?」

「私と一緒に、復讐をしませんか?」

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