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 強大な力を持つ主が倒され、魔物どもには戦意などもはや無かった。ほとんどの魔物は逃げ去り、僅かに残った物は君を見ると震えて逃げてゆく。

 邪魔も抵抗も受けず、君は王の待つ小屋へ戻った。


 君が帰り着いた時、王はもう寝床から立つ事もできなかった。

 そんな王は寝床で目を丸くした――君の肩にいる陽の妖精アテン=クアを目の当たりにして。だが戦勝報告を受けると、何かを悟った穏やかな表情を浮かべた。

「そうか。いや、それで良いのだろう」

 そう言うと金と銀で造られた、中央に小さな宝石の一つだけ備わったサークレットを取り出す。


「我が国の王に継承される冠、正当な王の証だ。都に帰り、貴公が次の王を選んでこれを渡す。そう頼もうと思ったが‥‥」

 王はサークレットを

「王家の守護者が貴公と共にあるなら、そういう事なのだろう。貴公が王になるのだ。そしてエインシェント国を建て直し、再び皆が日々を不安なく暮らせる故郷にしてくれ。願わくば、我が血族から伴侶を娶って欲しい。我が子や親族に年頃の者もいる筈だ」


 主君は国の未来を君に委ねたのだ。

 そして王は力尽きて眠りに落ちた。それはじきに永遠の眠りへと続く、最後の安息だ。

 彼はとうに限界だったのである。


 魔女メディアが君に一礼した。

「新しき王よ。私も共に王城へ戻り、再び宮廷魔術師に就きます。前王に化けていた傀儡人形も、妖術師の亡き今、正体を現して滅んでいるはず。私達は敵を倒しました。しかしそれはあくまで必要な準備でしかなく――平和を取り戻し、未来へ繋げてゆくのはこれからなのです。その真に大切な仕事ができるのは貴方なのです。及ばずながら、私も全てを捧げますわ」

 そして君の手をとった。

 君の肩では金の妖精が輝く笑顔を浮かべていた。


 君は最大の敵を打ち倒した。

 だがそれでも――だからこそ、と言うべきか――君の力はこれからも必要とされるのだ。

 この小屋で休息をとり、主君の最期を見届け、都へ戻って新たな時代を築く。その道程が明日から始まる。


 英雄の戦いの物語は、ここで栄光の中で幕を閉じる。

 ここからは幻想の国の黄金の時代の物語なのだ。


【fin】

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