背景――王の遺言

 古く由緒正しい王国・エインシェント。この地方において最も豊かな国の一つであった‥‥三年前までは。


 三年前。

 国を治めるエルダー王は、長年国境の向こうで睨み合っていたオーク族が国境を超えたと聞き、軍を率いて討伐へ向かった。

 信頼できる重臣達に留守を任せ、出発した王都の軍。

 君は守りを任された者の一人であり、その軍を見送った。


 王の軍は苦戦はしたものの、結局はオークどもを散々に蹴散らしたという。

 国境に平和を取り戻すと、王の軍は凱旋した。

 数は大きく減り、疲れ果ててはいたものの、勝利を掴んだのだ。


 だがそれが終焉の始まりだった。


 王はいくさが終わってから変わった。

 城の奥から出て来なくなり、一部の重臣としか会わなくなった。妻や子とさえ顔を会せなくなった。

 まともなまつりごとはいっさい行われなくなり、出されるのは課税につぐ課税と過酷な徴収のみ。

 意見しに行った者が生きて帰る事は無かった。


 輝かしい都が荒れ果てるのはあっという間だった。

 それが近隣に、そして国中に広まるのも。


 民は苦しみ、嘆き、時に反乱さえ起った。

 だがそれらを鎮圧して黙らせ、収奪を強行するのは、他ならぬ君達騎士団の仕事だったのだ。


 貧困と暴力、退廃と死が国に満ちる。

 それを君はただ無力なまま眺めるしかなかった。

 一揆を鎮圧し、首謀者の村を全滅させること。その任務を拒否したばかりに、君は王が変わってすぐに謹慎を命じられ、任務など何一つ与えられなくなっていたのだ。


 同じような立場の騎士達は、国に見切りをつけ次々と都から出ていった。新天地を国外に求めて。

 君は三年も我慢したのだが、ついに限界が来た。

 それは収入と生活の都合でもあるし――君が討つのを拒否し、それでも焼き払われた村の、最後の生き残りがついに討たれたと知ったからでもある。


 武具と僅かな小銭が全財産。それをまとめて、もはや乗る馬も無い君は、満月の晩に、番人さえいない門から都を出た。

 

 荒れ放題の田畑と瀕死の村々を通り抜け、旅を続ける。

 もう一、二日で国境に着くだろう。

 国外に希望を求め、君はその夜、森の中を歩いていた。


 狼の遠吠えが聞こえる。これでは迂闊に野宿はできない。君は暗黒の森の中をただ歩いた。

 そんな時に灯りが見えたので、君は迷わずそこへ向かったのだ。


 森の中の一軒家‥‥きこりか、猟師か。

 どちらであろうと一夜の宿を乞うため、君は戸をノックする。


『お入りなさい』


 若い女の声だ。しかしこんな夜分、身分を名乗る前の相手に入るよう促すとは?

 相手があまりに不用心である事が君を警戒させる。

 恐る恐る中へ入る君。

 目にした光景は――


 若いおかみさんが一人、鍋でスープを煮ている。夕食なのだろう。

 彼女は頭巾の奥から君をじろじろと窺う。美しい女だが、はて、見覚えがあるような‥‥。

 そう考えていると、先に彼女が驚き、大声をあげた。


「あなたは‥‥ああ、知っているわ! あなたほどの騎士が来てくれるなんて。そう、これは天の助けなのかもしれない」


 おかみさんが頭巾をとる。長く美しい髪がなびいた。

 彼女は家の奥へ行くと、藁布団で寝ていた老人に声をかけ、その身を支えて上体を起き上がらせる。

 君はしばし老人を眺め――驚きに叫んだ。叫ばずにいられなかった。


 エインシェント国のエルダー王!

 城の奥に籠っている筈の男が、めっきり老け込んでそこにいた。

 同時に、君は女が誰か気づいた。

 宮廷魔術師のメディアではないか。三年前から姿を見ないと思ったら‥‥。



 その夜。

 夕食が終わってから、王は君に事情を話した。


「今、城にいるのはわしではない。魔術で作り出された偽物の人形なのだ。全ては邪悪の魔導士、デッドクラウンと名乗る男の企みよ。そう、オークどもが騒いでいたのを含めてな‥‥」

 王は藁布団の中で咳き込む。

「オークどもは手強かった。狂ったように、正気をなくし、死ぬまで攻撃してきた。奴らも操られておったのだ。それでも勇敢な我が騎士達は道を切り開き、酋長を討ち取って勝利した‥‥多大な犠牲を払ってな。だが真の犠牲は、その裏で支払われた。手薄になった陣地を奇怪な魔術で抜け、わしの前に奴が現れた――魔導士デッドクラウンが」

 王の声が震える。

「戻ってきた騎士達は、オークの暗殺部隊が忍び込み、わしと護衛に返り討ちにされたと思っているだろう。デッドクラウンがそう見えるようにしたからな。実際はこうだ――奴は魔術を思う存分ふるい、わしらを一蹴した。わしの偽物と、犯人役をさせるオーク共の屍をその場に残し、奴は姿を消した。騎士達は真実を知らず、わしの偽物人形を都へ連れて帰ったのだ。そして人形はデッドクラウンに操られ、国はこの有様となった‥‥」


 王は上着を脱いだ。

 上半身のほぼ全てが、毒々しい緑色に焼けただれている。

「執念で生き延びたものの、わしはもう長くはあるまい。だが王として最後の務めは果たさねばならぬ。真の悪を討つ‥‥この手ではもう不可能ゆえ、その任務を与えるのだ。最後の忠実にして高潔な騎士に‥‥」


 断る道は無い。

 君は膝をつくと、強い目で王を見上げ、しかと頷く。

 それを見ると王は安心し、藁布団に倒れ、眠りについた。か細い寝息を立てて‥‥。


「デッドクラウンがいる居城までは突き止めてあるわ。そこまでの地図を授けましょう。そして、私が魔力を注いで造ったも」

 メディアは君に羊皮紙の地図と、銀細工の首飾りを渡した。


【銀のアミュレット を入手】

 この護符の魔力を解放すれば、君は【意志力】か【生命力】を、サイコロ2個の出目と同じだけ回復させる事ができる。これは戦闘の最中でさえ可能だ(君の攻撃力を決めるサイコロをふる前に使うこと)。

 一度使うとこのアイテムは消滅する。


 翌朝、君は小屋を出る。

 目指すは魔導士デッドクラウンの住むコフィン砦だ。


 最初の項目へ進め。

https://kakuyomu.jp/works/16817330663030599833/episodes/16817330663099971736

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