復讐の大地-07
レオンの言葉を聞き、レオンの後ろで絶望している男達を見て、スヴロイの者達は全てを察した。
レオン達はこの集落が何をしたのかを知っている。
そして今レオンはどんな理由でここにいるのかも、予想がつく。
「だ、誰に言われてここに来た」
「こいつらが来いって、俺を盗賊だから連れていくって」
『吾輩とレオンから金品を巻き上げようとしてくれた礼はするつもりだ。遠慮はいらぬ』
「ジェイソンは相手の考えを全部読む。お前らが何をしたのか、分かってる。盗んだ物、全部ここに持ってこい。全部だ」
『1つでも誤魔化せば命はないと思え』
レオンの目は冷たかった。慈悲の色は全くない。隠れている者も、様子を伺っている者も、当初訪れた際にレオンを追い出した老婆も、敵わない事を察している。
それぞれが家や仕事場に向かい、1時間ほどでかつて奪った金品を空き地に持ってきた。
溶けかかった雪の上にむしろを何枚も重ね、いかにも高価な服、バッグ、化粧品、小物類や防寒着などが並べられた。もちろん現金も。
「これ、全部やないよね」
「む、村にあるのは全部だ、間違いない」
「食べ物、宝石、現金。使ってしまった分は仕方ないなんて、おれ言ってない」
「か、勘弁してくれ、も、もうしない!」
「後、攫った人達は盗った事にならんとも言ってない。どこにやった」
おとなしく言う事を聞き、全てを差し出せば見逃して貰える。村の者達はそう考えていた。しかしレオンは甘くない。
レオンを連行してきた……もとい、レオンに引きずられるように戻ってきて男達は、半泣きでレオンに許しを請い、集落がいかに厳しい状況なのかを打ち明けた。
「港に下りる道は崩落して、作物も育てる場所がねえんです! あまり深い場所に行くと狼や熊も出る、こうするしかなかった!」
「やっと人が1人通れる道を補修したけど、それも去年やっと出来たばかり」
「悪い事をしたとは思ってる、だけど生きて帰せば絶対に俺達の事を喋る、それだけは避けないといけなかったんだ!」
住民達はそうだそうだと頷き、生きていくために仕方がなかったと主張する。レオンは失望のため息をつき、近くにいた男の胸倉を掴んで持ち上げた。
「おれは攫った人々をどこにやったのか聞いた。お前らに攫った理由を話せとは言ってない」
『我らが同情するとでも思ったか。何故悪者の命乞いを聞き入れると思うた』
「返せない分は労働力や臓器で返す必要があるね。もちろん償いとは別だよ」
言い訳をしてもレオンは動じない。住民は誰からともなく膝をつき、額を地面に擦り付けるようにして土下座を始めた。
「申し訳ございませんでした!」
「おれにひれ伏すのは勝手だけど、ほんとお前ら、自分の事ばっかりだな」
土下座を受けても、レオンは心が揺れるどころか怒りを覚えていた。
「おれは聞いた事に答えろって言った。お前らが達者に暮らせない理由も、謝りたいかどうかも知らん、おれは質問した」
「……」
「土下座っち、誠意を見せるものやろ。おれの質問無視して何が誠意なん」
『貴様ら、レオンに何度も同じ事を言わせるな。我らがそのうち諦めるなどと思っているなら大間違いだ。何時間でも何日でも……』
「え、やだ。もうそろそろ全員始末して自分で調べようかと思ってたのに』
『ふむ、そうだな。吾輩もその方が良いな、人族の世界に長くいると、どうも魔族らしさを失っていかん』
手始めにと言って、レオンは持ち上げていた男を思いきり投げ飛ばした。
男は数メルテ先の家の屋根に放り投げられ、それきり動かなくなった。
「おれね、頭使って言葉使ってならず者始末するより、さっと殴って始末するほうが得意」
レオンはもう一人を抱え上げ、次は思い切り地面に叩きつけた。2人共、ジェイソンが心を読んだところ、実際に人を手に掛ける役目を担っていた者だった。
「紹介屋が近くにないのが残念、お前らを売り飛ばして金にする事も出来ん。でもいいや、お金はいっぱいあるけん、たまには慈善する。良い事するのは人である証拠」
「わ、分かった! 答える! た、食べ物などは全部食べてもう持っていない、現金などはアイーイェで肉や野菜を買う時に使った!」
「旅人は……口封じの為に殺した。悪い事だとは思っていても、生きていくためにはどうしようもな……」
「殺してどうした、殺した後の亡き者はどこにやった」
「う、海に……」
殺した旅人を海に投げ捨て、証拠を隠滅。そこまで聞いたレオンは、山形鋼のカバーを外して構えた。
ジェイソンが心を読まずとも、目の前にいるのが本物のならず者であり、始末しなければならない相手だと分かったからだ。
「う、うわぁあ!」
レオンは逃げ惑う者達を容赦なく殴りつけ、ジェイソンも大勢を執拗に追い回し、疲れ果てた所で襲い掛かる。
放心状態で失禁している者、年寄りだからと命乞いをする者、自分はやっていないを繰り返す者。
レオンは命乞いを無視し、幼い子供以外の全員を殴りつけていく。
「やられてたまるか!」
数人の男がナタや銃を持ち出して応戦しようとする。しかし戦いに慣れた盗賊やギャングに比べたら、その扱いは何も持っていないのと変わらない。
ナタを振る腕を掴み、引き金を引く前に側頭部に蹴りを入れる。斧を投げる手の動きを見れば、どこに飛んでくるかは分かる。
「どんな手を尽くしても勝てん時、悔しくて腹が立つよな。お前らが殺した者達がどんな気持ちやったか、分かるやろ」
集落の若い衆も、力自慢もレオンには敵わない。2時間後には、元いた空き地に全員が集められた。
気を失った者も、血を流し動かない者も、動けるがもう抵抗を諦めた者も、全員が冷たい雪の上に投げ飛ばされる。
「生きるために仕方なく殺す時、いただきますをする。亡き者を悼むつもりがあるなら、埋葬する。お前らは?」
『骸を海に投げ捨てずとも、火葬でも土葬でも良かったであろう。貴様らは相手を人として見ず、金品の残りカスとしか見ていなかったのだな』
「本当は、盗られた人に返すべきだ。本人がおらんなら残された家族に渡すべきだ。でも、もうそれは出来ん。供える事もできん」
謝る事も、償う事も出来ない。ならば、せめて遺品情報を公開し、遺族にこの事実を公表するしかない。
「ジェイソン、これ全部アイーイェに持って行って、説明してくれる? 各町や村に手紙を送ってもらって」
『承知した』
レオンは被害者ではない。しかし今となってはならず者を許せる者がいない。
許されないならず者を始末する、それは獣人族としての使命だ。
レオンは倉庫にあった大工道具を引きずり出し、家の壁や屋根を壊し始めた。2時間ほどで1軒の家から柱を6本確保すると、空き地に突き立てていく。
それを繰り返す間、残りのジェイソンが住民を見張り、逃亡を阻止していた。やがて日が翳り始めた頃、空き地には100本の柱が立つようになっていた。
レオンはまず意識のない者から担ぎ始め、踏み台に乗って1人1人をロープで柱にくくり始めた。
これから何をされるのか分かった者達が、号泣しながら許しを請う。
「おまえら、泣いて助けてっち叫ぶ旅人を1人でも許した事あるか」
「そんな事言ったって、お願いです、勘弁してください、もう2度と悪い事はしない、約束します!」
「正しき者は、そもそも1度だって悪い事はせん。ならず者は同じ扱いされる権利を持ってない」
「お願いです! 子供がいるんです、私が死んだら……」
「ならず者が育てるのは子供のためにならん。お前らは自分が他人を許さず殺して金品を奪うくせに、なんで自分達がされる時は反対する」
暴れる者の腹を殴り、最後の1人を柱にくくり付けると、レオンは壊した家の壁板で空き地を覆い始めた。
力ない命乞いの声が、夜風にかき消される。
深夜になって寒さに手が痺れも、レオンは手を止めることなく作業を続けた。すっかり朝になった頃に壁が完成すると、今度は壁板の高さまでモルタルを流し込んでいく。
「これが固まったら柱が倒れんね。ああ、暴れん方がいいよ、その体勢でモルタルの中に倒れたら、そのまま固まるけんね」
『まだ生きておるならな』
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