復讐の大地-06
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「旅の盗人だって?」
「ああ、そうだ。昨日の昼過ぎに来たんだけどな、その時に軒先に下げていた干し芋や干し魚が消えていた。金がなくなったって奴もいる」
「南から来たとかいう若い旅人さ、このアイーイェ方面へ歩いていくのは見ていたんだよ」
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「たいへんです! レオンさん!」
朝になりスヴロイに向かう準備をしていると、集落の若者がゲストハウスに飛び込んできた。スヴロイの奴らが来たと言って白い息を吐く若者に急かされ、レオンも集落の入口へと向かう。
「俺達のスヴロイを出発した時刻からして、わざわざ通過して極寒の丘陵地を抜けていくとは思えない。ここで1泊でもさせたんだろう?」
「アイーイェを秘境の観光地として有名になりたい、だったか? お前らの恰好の餌食だな。儲かったか? それともまさか盗人に銭を奪われちまったか?」
「フン、お前らのようなロクデナシの集落がなけりゃ、アイーイェは今頃もっと人が来ていただろうさ!」
「日頃見下してるこの集落にまで泣きついて、ママぁ僕ちゃん悲しいよう~ってか? 随分ご立派なんだなあスヴロイは」
「なんだと? 何が言いたい!」
「情けねえ奴らだって言ってんだよ。盗られた証拠もねえ、いつ、どこの、誰が、何を、どれくらい、それくらいの事も言えねえで、うちの大切な客を出せってバカかよ」
集落の西の門で、人だかりが出来ている。レオンは帽子を被り、尻尾をコートで隠した状態で間に入った。
「おれに何か用か」
「あっ! お前だお前! 俺達の集落で盗みを働いた奴だ!」
「悪いがコイツを連れていく。文句はないよな?」
「てめえらも盗られたもんがねえか、確認した方がいいんじゃねえのかい」
レオンを盗人呼ばわりしている声は、ゲストハウスを出た頃から聞こえていた。そのうえで、レオンは敢えて聞こえていないふりをした。
どうせスヴロイに向かうのだからどうでもいいと考えたからだ。
しかし「愛しき傀儡」を馬鹿にされては黙っていられない存在が1匹いる。
『貴様ら、レオンを盗人呼ばうむむむぐ……』
「ジェイソン、今は抑えて。どうせ後で暴れる事になる」
「何をブツブツ言ってる。いいから来い」
「おれ何も盗ってない」
「は?」
「おれが盗ったって証拠は?」
「お前の持ち物を見れば分かる」
「何盗られたん。おれの荷物にそれがあるかどうか、見てから欲しいものを適当にこれだって言われても困る」
レオンは幼い頃から数多の嘘つき、暴力者、権力者と渡り歩いてきた。こんな辺境で経験値の少ない悪党など、赤子の手を捻るより簡単だった。
案の定、スヴロイの男達は互いにどうするか相談し始めた。レオンが動揺して無実だと主張しながら慌てると踏んでいたようだが、レオンが冷静過ぎて、反対に動揺している。
「さっき騒いでたけど、干し芋と干し魚と金貨紙幣だってさ」
「干し芋も干し魚も、お前らの所で調達したかったのに売ってくれなかった。声かけても無視されたし、おかげで食べ物は全然持ってない」
レオンは自身の大きなバックパックを見せ、中に入っていなかったらどうしてくれるのかと問いかける。男達はまずいと思ったようだが、今更引く事も出来ない。
「た、食べたか部屋に置いて来たか」
「持ち物を見れば分かるんだっけ? 持ち物になかったら今度は食べたって言い張るのか。金貨紙幣は俺に幾ら盗られたんだ?」
「さ、3枚だ」
「名前は?」
「は?」
「金貨紙幣に名前書いた? おれが最初から持ってる金貨紙幣とどう判別するん」
男達は何も言えずに口を一文字に結んだまま。もちろん泥棒は言いがかりであり、盗まれたという紙幣の番号を控えている訳でもない。
レオンの問いかけにまともな答えなど持ち合わせているはずもないのだ。
「こ……こんなところに護衛も付けずに歩いてくるような奴なんか、大金を持ってるはずない。雇う金もねえ貧乏人なら、辺境で盗みくらいやるだろうさ」
「3枚なかったら、この村で使ったに違いないって言うのかな」
「そ……そうに違いないだろ!」
レオンはハァーっとため息をつき、自身の鞄から大金が入った麻袋を取り出した。
ついでに魚臭さの全くないバックパックを開いて見せる。
「おれ、たった3金貨紙幣くらいで盗みなんかせんよ。そんな事せんでもあと331枚あるけん」
「……え?」
「おれ、金持ち。金ないやつがこんなところまで旅できると思うか? 船賃も旅の食料もタダやない。貧乏やったら毎日働かんでどうする」
男達はレオンの所持金を知って驚愕していた。金貨紙幣など、この辺の集落ではかき集めてもそれぞれ10枚あるかどうか。
相手が悪い事に気付いた男達は、作戦を変更したらしい。
「わ、悪かった! どうやら俺達の勘違いのようだ」
「いやあ、旅の人が来た後の出来事だったから疑ってしまって……申し訳ない!」
男達は毛糸の帽子を脱いで頭を下げる。勿論、レオンもアイーイェの者達も許すつもりがない。
「お前らの集落には行ってやるよ。お前ら全員がおれに謝るのが当然」
「レオンさんの事とは別に、アイーイェを馬鹿にした事、忘れてないからね!」
「じゃあ、行こうか。おれもちょうど用事があったんだ」
レオンはわざわざアイーイェの住民という証人がいる前で身の潔白を示した。スヴロイが嘘つきである事を見せつけた事で、アイーイェはスヴロイの悪い噂を堂々と知っていると主張できる。
それもレオンは計算済みだった。
「か、勘違いだった、すまねえって言ってるじゃねえか」
「悪い事をした奴の気が済むかどうかじゃない、おれの気が済むかどうか。それが謝罪」
『まさか、我らを嘘つきの盗人だと決めつけた罪、心にもない言葉で償えると思ってはおるまいな』
レオンの胸元から声がし、男達は一瞬ぽかんと口を開けて固まる。その様子を見たレオンは、またため息をついて帽子を脱ぐ。
「お、お前、その、まさか」
「どうも、狐人族の始末屋レオンと魔族ジェイソンです」
「じゅ、獣人……」
「ジェイソン、どうぞ」
『レオンが大金を持っている事を確認した事で、レオンを見逃した後、襲って金を奪う計画に変更したのだな』
「な、何を……」
『獣人族と魔族の前では発言に気を付けた方が良いぞ』
全てバレている。男達はレオンが分かった上でこの受け答えをしているのだとようやく知った。
「お前らの集落に行く。おれを陥れて金品を奪おうとしたように、他の旅人からも奪ってきたな」
アイーイェの者達に聞いたとは言わない。そんな事を言ってしまえば、スヴロイの憎悪の目はアイーイェに向けられてしまう。
あくまでも自分達が暴いたという形で伝える。そうする事でレオンは更に有利に動く事が出来る。
「おれはここで話してもいいけど、知られたくない事を全部アイーイェの者に聞かれてしまうね」
『スヴロイで見た集落の様子を見て、貴様らの所業は把握しておる。戻らずとも全てここで語ろうではないか』
「わ、分かった、案内する」
男達は項垂れて集落へと歩き始める。歩む速度が遅すぎるせいで、レオンは1人の腕を掴んで問答無用で引きずり始めた。
「い、急ぐ、急ぎます!」
『帰りを遅らせ、双眼鏡でこちらを見ている見張りに合図を送るなど考えない事だ』
観念した男達はレオンに続いてトボトボと歩き、2時間でスヴロイに辿り着いた。2時間、レオンは自分が今まで相手にした悪党と、どう始末したのかを聞かせ、男達を絶望に叩き落とした。
「ごめんくださーい、ならず者ども、始末するから並べ」
レオンの声が集落に響いたが、今度は住民の反応が全く違った。双眼鏡で見張っていた者が集落内に知らせたのだろう。
「な、何のようで……」
「どうも、始末屋レオンとジェイソンです。旅人を殺して金品を奪う殺人ならず者共、全員始末しに来ました」
「さ、殺人? さ、さあ、何の……」
『知らぬと言い切って良いのだな? 貴様らは吾輩の前で虚偽の発言をする覚悟があると受け取って良いのだな』
レオンが宝物の山形鋼を構え、ジェイソンが数十匹に増殖する。
「物言えない亡き者の無念、お前らは知っているかい」
「……」
「たまには殺す側から殺される側になってみるかい」
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