家 星谷サイド

 学校が終わった。私は急いで昇降口へと向かい靴を履き替える。いつもならいろいろ手伝ったりするけど、今日はなにか仕事を頼まれて遅くなるわけにはいかなかった。

 私は先生に聞いた天霧さんの家の住所をマップに打ち込みながら正門を早足で抜けていく。天霧さんの家の途中でコンビニがある。そこに寄って行こう。

 

 息を弾ませた私は、天霧さんの家であろう建物の前で呼吸を整えていた。表札には『天霧』の文字、間違いない。ここが天霧さんの家だ。

 住宅街の中に目立つわけでもない、駐車場の無いただの一軒家。カメラの付いていないインターホンを押す。

 急いできたから、まだ他の小学生や通学生などが帰ってきていない。

 そのため、辺りは静まり返っていてインターホンの音が家の中かで響いたのが聞こえる。

 だけどしばらく待っても扉が開く気配も無いし、人が動く音も聞こえない。

 それから何度かインターホンを押してみたけど反応は無い。

 ――家の中で倒れていたらどうしよう。

 焦った私は、天霧さんの家の敷地内に入って、扉の前に立つ。そして扉を力を込めて扉を叩く。

「天霧さん。大丈夫?」

 返事は無い。

 私の胸に不安が広がる。こういう時には救急車を呼ぶべきか、それとも警察か。分からない。

 そんなことを考えていると、家の中から足音が聞こえてきた。

 ゆっくり、ゆっくりとこちらに向かってくる足音。私は胸をなでおろす。

 やがて、ガチャリと鍵の開く音がして、扉がゆっくりと外へ開いていく。

 扉から顔を出したのは天霧さんだった。

「天霧さん、急に来てごめんね」

 天霧さんの顔色はあまり良くなく、どこか上の空だった。いつも人に興味なさそうな顔をしているけど、今日は興味がないというか見えていないような感じだ。

「ああ、星谷さんか……どうしたの?」

 気怠そうな声だ。相当しんどいんだろう。

「えっと、天霧さんが体調不良だって聞いたから、なにか食べられる物を持ってきたの。食べるものが無いと思うから」

 私は持っているコンビニの袋を掲げてアピールする。ゼリー系統の食べ物をいっぱい買ってきた。

「食べ物はあるけど……、立っているのがしんどいんだ」

 天霧さんは少し目を泳がせながら答える。

 身体を扉に預けている様子からして無理をして出てきてくれているんだ、それなら早く休んでもらわないと。家の中に入って大丈夫かな……?

「だから……家に「天霧さん――あっ」

 私は慌てて口を噤む。天霧さんが先に口を開いたのに、遮ってしまった。

 私は手で先にどうぞ、と促したけど、天霧さんはぎこちなく笑みを浮かべる。

「星谷さんからどうぞ」

「あ、でも――」

 天霧さんからどうぞ、と言おうとして考え直す。今は一刻も早く天霧さんを休ませないといけない。無駄なやりとりで体力を消耗させるのは避けたかった。

「その……天霧さんの家に、入っていいかしら……?」

 天霧さんみたいなタイプの人は、家に他人を入れるのが嫌かもしれない。だけど、いまこの状態の天霧さんをそのまま放って帰るわけにはいかなかった。

 私が窺うような目で見ると、天霧さんは力が抜けたような表情になり答える。

「私も丁度、そう言おうと思っていたんだ。それじゃあ、肩を貸してくれないかな?」

 天霧さんの言葉に、私はホッと息を吐く。

「うん。分かった」

 一昨日と同じように、私は天霧さんに肩を貸して、天霧さんの家にお邪魔するのだった。

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