学校 星谷サイド

 天霧あまぎりさんが早退した、私は遠ざかる彼女の背中をただ見つめることしかできなかった。本当は寄り添ってあげたい。私も早退して、一緒に帰りたい。

星谷ほしたにさんどうしたの?」

 だけど私の立場がそうさせてくれなかった。

 誰もいない廊下の先を見つめる私の背後からクラスメイトが声をかけてくれる。

「ううん。なんでもないよ」

 この人は確か長野さん。私は長野さんに笑顔を返す。

 次の授業がそろそろ始まる。

 天霧さんの机をさり気なく撫でて私は自分の席へ戻る。

 今日も一緒に帰りたかったな。

 昨日、始めて天霧さんと話すことができた。今まではただ彼女の姿を遠巻きに眺めることしかできなかったのに。

 天霧千花ちか。私が彼女を知ったのは去年、一年生の頃だった。クラスは違うけど彼女の姿は女の子にしては高い身長だから学年でも目立っていた。

 だけど周りの子はみんな、「あの子は人に興味がない」「ずっと無気力」「声をかけてみても素っ気ない」「会話が続かない」とかそんなことを言う。

 そんな話を聞いてから、私は休み時間とかの教室の外に出られる時、彼女を探すようになった。

 彼女の素っ気ないところや、無気力なところ、人に興味がない。私とは真逆の人だと思ったからだ。でも実際に会話したことなかったから本当がどうか分からなかったけど。

 そんな気持ちを抱きながら、私は私の学校での役割を果たしていた。行事には積極的に参加して、まずはクラスメイトと仲良くなる。みんなに私のことを知ってもらって、私は危険な人物ではないよと伝え回る。

 元々人と関わるのは嫌いじゃなかったから苦にはならない。だけど、心のどこかでは天霧さんのように、人と関わらずに過ごすことへの憧れがあったのかなって思う。周りの目なんて気にしないその姿の私は凄く惹かれた。

 だけど天霧さんに私が声をかけるチャンスがある体育祭や文化祭、彼女は当然のように学校に来なかった。

 体調不良、よく天霧さんの話で聞く言葉、周りのみんなは知っていた、体調不良なんて嘘だと言うことに。嘘をついて行事をサボる、当然周りからの反応は良くないものばかり。いじめには発展しないけど、無視をしている、陰口を言っている、そういう話は私にまで伝わって来た。

 天霧さんからしたら、無視をされてもそもそも関係ないだろうし、陰口は聞いていて気分が悪いけど中身の無い言葉ばかり、悪意のある噂を流すわけでもない。

 そして、やがてみんな天霧さんに無関心になる。

 それが、私が一年生の時に聞いていた天霧さんの事だった。

「ねえ星谷さん、天霧さんと仲いいの?」

「え?」

「いやだって、昨日も今日も保健室に行ってたから」

「クラスメイトが体調不良だったら心配でしょう? それに私、保健委員だし」

「でもあの子どうせ仮病だよ? いちいち星谷さんが気にかけなくても大丈夫だって」

 知ってる。天霧さんが保健室に行くのは体調不良なんかじゃないって。でも私は、さも初めて聞いたかのような態度をとる。

「……だとしても、それにはなにか理由があるんじゃないかな?」

 天霧さんがサボっていても別に私からしたらどうでもよかった。そうしている理由は知りたいけど。

「絶対ただサボりたいだけだって。だって来月文化祭でしょう? どうせ文化祭に参加する気ないんだよ」

 昨日の私達の会話を聞いていなかったのかな?

「それはちょっと悲しいな」

 思ってもいないことを笑顔で返す。多分長野さんには私がなにも知らない真面目な人に見えている。

 その後、適当に会話を重ねていると授業開始の時刻になる。

 もう今日は天霧さんと話せないのか、そう考えると授業なんて集中できなかった。昨日のうちに連絡先を交換した方がよかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る