学校 2

 それからゴロゴロと寝返りを繰り返しながら時が過ぎるのを待つ。永遠にも感じられる時間を過ごしながら、早く授業が終われと念じる。

 ――私らしくない。


 やっと授業が終わった。

 だけど気分は優れない、今日はもうこのまま帰ってしまおうか? 文化祭の準備は来週からだし、別に問題無いだろう。

 そうと決まれば早く帰ろう。私は帰る事を伝えて保健室を後にしようとする。早く帰りたい、星谷さんの顔を見ないうちに。

 だけどそれと同時に星谷さんに会いたいとも思ってしまう。

 そんな事を考えて保健室を後にする。教室へ向かおうと廊下の角を曲がたところで――。

「あっ、天霧さん!」

 渡り廊下で私の名前を呼ぶ声がした。よりによってなんでいるのかな……。

「ああ、星谷さんか」

 もしかして、私の事を心配してくれたのかな? 私の中の罪悪感が更に膨れる。

「どうしたの? 私は今日早退するけど」

 私がそう言うと星谷さんが驚いて目を見開く。よかった、これは私を心配してくれているんだ。星谷さんの表情以外にも、星谷さんが向かう先には保健室や応接室、後はよく分からない空き教室しかないからだ。一応昇降口に通じてるけど、次の授業は体育では無いから、昇降口に向かうというのも無いだろう。

「そうなんだ……、大丈夫?」

「一人で歩けるから、帰るのに問題ないよ」

 優しい子だ、ますます自分が嘘をついているなんて言い出しづらくなってくる。

 でも、嘘をつく度に星谷さんの優しさが辛くなってくるのだろうと思ってしまうと、私は今すぐ逃げたかった。これ以上自分が傷つきたいくないから。

「親には連絡しているの?」

「仕事中だから」

「一人で帰るのは危ないと思うわよ?」

 ――危なくないよ、私は逃げたいだけだから。

 なんて言ったら少しは軽くなるだろう。もしかすると気分もマシになって早退せずに済むのかも。だけど、心が軽くなっても星谷さんに嫌われてしまのでは? と思うと言い出すことが出来なかった。

「それなら星谷さんが送ってくれるかな?」

 それか、逃げたいだけ、という言葉を冗談めかして言えればいいのかもしれなかった。だけど口から出た言葉は違う言葉だった。

「うーん……」

 なにを言っているんだ私は、星谷さんが困る事を言ってしまうなんて。

「ははっ、冗談だよ」

 無理やり笑みを浮かべて私は教室へと逃げようとする。

「本当に大丈夫?」

 だけど星谷さんはそんな私の事を気にかけてくれて逃がしてくれない。

 逃がしてくれないんじゃなくて私が一緒にいたいだけなんだけど。

「大丈夫だよ。もしかして、星谷さんって心配性かな?」

 昨日のお返しとばかりに冗談めかして言ってみる。

「そうなのかな? 体調悪い人を気遣うのは当然のことだと思うけど」

 当然のことなのかな? 私は他人が体調悪くても心配なんてしないけど。

「星谷さんは優しいね」

 本当に優しい、嘘をついている私が苦しくなるほど。

 更に内から重たくなった身体を引きずって、私は教室へと戻るのだった。

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