帰り 2

 帰り道で私達はしばらく無言で歩いている。

 星谷ほしたにさんの歩幅に合わせながら歩く。おいて行かないように。

 未だに残る夏の残滓に苦しむ時間が進む。

 なにを話せばいいのか分からない。いや、分からないわけではない。話したいこと、聞きたいことがいっぱいある。だけどそれらを口にする勇気が私には無かった。

「ねえ、天霧あまぎりさん」

 あ、星谷さんから話しかけてくれた。少し申し訳ない。気を使わせてしまった。

「どうしたの?」

「天霧さんって結構寡黙な人よね」

「そうだね。人とあまり話さないから」

「そうなんだ」

 また会話が止まってしまった。

 なにか話さなければ、星谷さんが話しかけてくれたんだ。

「星谷さんには、私がそういう風に見えているんだね」

 言ってから自分は馬鹿だと思ってしまった。

 なにがそういう風に見えているんだね、だ。そういう風に見えているから星谷さんはそう言ったのだろうに。これでは笑われてしまう。

「うん、そうだよ。私から見たら天霧さんは、寡黙でカッコいい人」

 口元に手を当てて笑う星谷さんに私はまた目を奪われてしまった。

「……」

「天霧さん?」

 立ち止まってしまった私を、眉を少し顰めた星谷さんが見る。

「天霧さんは寡黙でカッコいいけど、変な人に訂正しようかな?」

 ……確かに変な人だと思われてしまう事をしてしまった気がする。保健室で目が覚めた時とか。

「ふふっ、確かに変な人だね」

「自分で言っちゃうの?」

「今日の自分の言動を振り返ってみただけだよ」

 そうだ、星谷さんのせいで私は変になってしまった。

「やっぱり天霧さんは変な人だね」

「星谷さんのせいだよ」

 あ……。

「私のせい?」

「いや、ごめん。こういうところが変な人なんだろうね」

 誤魔化して笑ってみるがどうだろう。

 星谷さんはまあいいやといった風に話を変える。

「あははっ、天霧さんの意外な一面を見ることができて嬉しいな」

 よかった。まだそれ程仲良くないから、お互いを知っていく段階だから誤魔化すことができたんだと思う。

 いつか、誤魔化さなくてもいいような関係になれるのだろうか。そう考えるのが不安でもあり楽しみでもある。

「もしかすると、星谷さんのイメージする私と本当の私は違うかもしれないよ」

 冗談交じりに言ってみる。この不安が無くなればいいと思ってだ。

 私が今恐れているのは、星谷さんの言う私の意外な一面。もしそれが、星谷さんが許容できない、受け入れることができないものだったらどうしようということだ。

「えー、それは気になるなあ。もっと天霧さんの意外な一面を見てみたくなる」

 本当に、そう思ってくれているのかな?

「自分のイメージと違ったら嫌じゃないの?」

「別に嫌じゃないよ。だってそれは私の勝手なイメージだもん」

「そうなんだ……それは良かった」

「どうしたの?」

 ホッとした私の顔をいたずらな笑みで星谷さんが覗き込む。

 星谷さんってこういう顔もするんだ……可愛い。

「なんでもないよ」

 私は星谷さんの視線から逃れようと顔を逸らす。今は星谷さんに見せられる顔をしていないからだ。

「ふーん。じゃあそういうことにしてあげる」

「ふふっ、ありがとう」

 そういうことにしてもらおう。今はまだ、全て見せるのが怖いから。

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