廊下

 教室から逃げるように、転ばないように出てきた私は、保健室を目指す。

 後ろで私を呼ぶ声が聞こえたけどまあ無視していいかな。

 保健室は一階に下りて渡り廊下を渡った先にある。すこし階段を下りるのが怖いけど、手すり持って慎重に下りたら大丈夫かな?

 それにしても、授業中の校舎内は静かでいいな、今は私のスリッパが廊下をする音しかしない。

 私が階段に差し掛かろうとした時、後ろからパタパタと誰かが走ってくる音が聞えた。

「ちょっと、まって」

 私は素直に待つようなことはせず、そのまま階段を下りる。そして踊り場に下りた時丁度。

「待ってって! 危ないから!」

 息を切らしたクラスメイトが私の手を掴んでいた。

 確かこの子は……文化祭委員の子だ。委員なのに申し訳ない。

「あれ? こういう時は保健委員が来るものだと」

「私は保健委員もやってるの」

 ああ確かそうだった。文化祭委員は文化祭近くにならないと仕事がないから他の委員と兼業だった。

「ああ、そうだったの。ごめん、手間かけさせて」

 悪いことをしてしまった。この子の仕事が忙しい時に余計な仕事を増やしてしまって。

「別に私は大丈夫。そんなことよりふらふらしているのに勝手に行かないで。階段とか危ないから」

「ははっ……確かに」

「もうっ、笑い事じゃないよ」

 いい子だなあ、私の心配してくれてるんだ。

「えっと……こういう時は肩を貸せばいいんだよね」

「そうだね。それじゃ肩を貸してくれるかな?」

 私がそう言うと戸惑いながら私に肩を貸してくれる。私は左腕を相手の肩に回す。相手の体温が丁度良く、辛うじて耐えていた眠気がさらに大きくなって襲い掛かってくる。保健室まで持つかな。

 一段一段階段を下りていく。私の方が身長高くて少し変な体勢になっているけど、この子は大丈夫かな。

「大丈夫? ごめんね、こういうのに慣れてないから、上手く肩を貸せてるかわからない」

 いい子すぎて、眠たいから仮病を使って教室から抜け出した、なんて言ったら泣いてしまうんじゃないかな? それにしても――。

「温かくて、丁度いい感じ。あ」

「え、なに言ってるの?」

 しまった。

「うん、気にしないで」

「あ……うん」

 ちょっと気まずい空気が漂う。大丈夫、微妙な空気になっても保険室に辿り着ければそれでいい。

 もう階段も終わりを迎える。後は渡り廊下を渡れば保険室はすぐそこだ。

 密着しているからか少し暑くなってきた? それともこの子の体温が高いのかな? ちらりとこの子の顔を覗き見る。真面目な子だ。そろえられた前髪の下にある瞳が真っ直ぐ進む先を見ている。

 そしてほんのりと頬が赤く染まっている。無理して私のことを運んでくれているのかな? 左手で肩を触ってみる。華奢な身体だ、そんな華奢な身体で私を支えているのだから当然しんどいだろう。

「もう大丈夫だよ」

「そういう訳にはいかないでしょ? ふらついていたんだから」

「いや、でもしんどいでしょ? 私身体大きいし」

「羨ましいぐらいにね」

「あー、ありがとう」

 これは離してくれる気配無いな。

 言うてる間に保健室だし、別にいいか。この子にはあと少し頑張ってもらおう。

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