第一試練29 ウィーキャンフライ?
「行きます!」
伊扇の掛け声とともに彼女の手の平から風が吹き荒れる.
同時に伊扇の背中から座椅子へ伝わりベッドが速度を上げていく。
風とベッドの間で締め付けつけられる伊扇の身体が心配だが、魔力で最低限身体の強化を行なっている.
秋灯、明音はベッドにしがみつき風圧を減らすよう姿勢を低くする。
切断された橋の先端。設置したジャンプ台までまっすぐ進路を取れるよう両脇のブレーキで調整する。
ベッドは法定速度を超え、高速道路でビュンビュン飛ばしている車並みの速度になる。
ここに来るまでベッドがどれくらいの速度に耐えられるのか確かめていたが、ここまで速度を出していなかった。
橋の外の空と海の景色が一気に流れていく.
「そろそろジャンプ台です。・・飛びます!!」
ジャンプ台の手前で秋灯が声を張り上げる。
ベッドの脚とジャンプ台が触れ、ガタンと大きな音を出した一瞬。
身体が空中に浮いた。
「おぉぉぉおおお」
「「きゃぁぁぁぁあああああああああああああ」」
全員が叫び声を上げる。
50mもの跳躍。飛んでいた時間はわずか数秒。
身体が投げ出されそうになるが、必死にベッドにしがみつく。
もう一度ガタンと大きな音を立て、ベッドが対岸の路面に触れる。
ベッドフレームが衝撃で歪んでいるがギリギリ壊れていない。
「まだ!!」
対岸に着けたことで安心したが、今日一秋灯が大きく叫ぶ。
着地した衝撃でベッドの進路が大きく左へ傾いている。
これでは車道脇のガードレールへぶつかってしまう。
激突ないし、最悪それを乗り越えて海へ落ちる可能性もある。
秋灯は用意していたパラシュートの紐を引っ張る。
フレームの裏側に取り付けられたそれは、ベッドの後方で大きく開く。
「明音先輩ブレーキ!」
一瞬遅れて明音がレバーを抑える。
最初にぶつかるのは秋灯がいる左側。
明音先輩がいる右側でブレーキをかければ速度を殺しきれなくても進路は変えられる。
ベッドの進路が少し右に傾くが、
「足りないか」
一瞬ガードレールの摩擦解凍ーー摩擦をなくせば、ぶつかっても滑って衝撃を逸らせるーーの準備をしたが、すぐにやめる。
衝撃を減らしてしまえば、ガードレールを乗り越え、そのまま全員が海に落ちてしまう。
秋灯が衝撃に備え身をかがめるが、同時に明音がベッドから飛び出る。
身体の表面は濃い赤色に覆われ、濃密な魔力を纏っている。
「おんりゃぁぁあぁああああああああああ」
相当な速度を出しているベッドのわずか先に降り、ベッドの先端のフレームを掴んでハンマー投げのような体勢で無理やり進路を曲げる。
明音の身体を軸にしてガードレールをすれすれで躱す。
ベッドは明音を置き去りにそのまま直進し続け、秋灯は急いでブレーキを、伊扇は風を再度出し、ベッドはようやく停止した。
「明音先輩っ!!!!」
「明音さんっ!!!!」
秋灯、伊扇が明音がいる場所まで駆け寄る。
明音は地面に倒れていて、魔力も霧散していた。
「明音先輩!!身体は!意識はっ!!!!」
倒れた明音を抱き上げ身体を揺する。
明音は目を瞑っていて、顔は真っ青になっていた。
「・・くふっ。慌ててやんの」
閉じられていた目が開かれ、秋灯の鼻をつついてくる。
秋灯の焦った顔が面白いのか笑いを堪えていた。
「ふぅーーー大丈夫よ。久しぶりに魔力を使ったからちょっと疲れただけよ」
一呼吸の後、秋灯に支えられながら明音が起き上がる。
身体は辛いのか表情が歪んでいる。症状も元に戻ってしまったかもしれない。
「明音先輩、すみませんでした。俺の考えが甘くて・・・」
「こういう時は一連托生って言うんでしょ。それになんとか辿り着けたからいいじゃない」
50mの距離を跳んだことにようやく実感が湧いてきた。
数分の出来事なのにどっと疲れた気がする。
「みんな無事でよかったですー」
伊扇が涙声になりながら明音に飛びつく。
先輩の身体は瀕死だが、なんとか踏ん張って伊扇を受け止めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます