第一試練27 神戸市街

前方の山の先に開けた神戸市街が見えてくる。

山道の高低差と道路が曲線的につくられていたため思ったより時間がかかってしまった。

眼下の市街を見下ろし、秋灯はようやく一息つく。


昨日突貫でベッドを改良し座椅子を取り付けたが、座っている伊扇の呼吸が荒い。

魔力はまだ余っているみたいだが、風の出力の調整でだいぶ神経を使わせてしまった。

残りの道路はまっすぐな下り坂のため伊扇に休憩してもらう。

ツルハシでがりがり道路を削り、ブレーキを適度にかけつつベッドを滑らせる。


「明音さん。・・多分秋灯さん昨日遅くまでこれ作ってましたよね」


伊扇がベッドで寝ている明音に小声で話しかける。

ベッドの両脇に新しく取り付けられたブレーキが二つ。

伊扇が今座っている座椅子、ベッドの先頭には操舵用のT字の棒。

明音がしがみつけるようベッドフレームから延びた取っ手。

一夜でベッドの細かい仕様が変わっていた。


「そうみたいね.私たちが寝た後も作業してたみたいよ」


ベッドを這いながら明音が伊扇に近づく。

前方でベッドの操舵している秋灯には聞こえないよう注意する.


「なんか昨日話してたこと言いづらいです」

「そうね.流石に一日そこらで改良しているなんて思わなかったわ」


昨日二人と別れた後、秋灯は一人宿泊先の庭に残りベッドの改良をしていた.

キングサイズのベッドの両脇には二筒のパイプが取り付けられツルハシを挟み込む形でヒンジで固定されている.

ツルハシの柄を傾けると先端が道路面と接触し、ベッドの速度を落とす.

先端部分には昨日までなかった木製の板があてがわれ、ゴム製のラバーのようなものが巻かれていた.

接地面を増やしてブレーキが効きやすいよう工夫しているらしい.


また、伊扇の固定の仕方についても改良されている.

ベッドの後方、マットレス部分を切り取り、そこに座椅子を置いている.

伊扇が座った状態でもベッドへの力が伝わるようガッチリ固定されていた.

伊扇は自身が出す突風を背中で押す形でベッドを進ませ、それなりに体は使うが、昨日の固定のされ方よりだいぶ楽になっていた.


突貫で仕立てだが、時間がなかったにしてはいい出来だと思う。


「なんか、昨日話してたことが申し訳ないです・・・」

「私もちょっと言い過ぎたかしら。あいつ、人には休め休め言うくせに、いつ休んでるのよ」

「秋灯さんに謝った方がいいでしょうか。でもなんのことだって言われるだろうし・・・」

「あいつ、ちゃんと寝なさいよ。隈もひどいのに。今日は締め上げて無理やり寝かせようかしら」


昨夜のガールズトークを思い出し、二人は罪悪感にかられていた。


「二人とも。瀬戸内海が見えてきましたよ」


前方の秋灯の言葉にびくりと反応する。

目的地である四国.その玄関口の明石海峡大橋と瀬戸内海が視界に入ってくる.

二人はベッドの上をもそもそと移動し秋灯に近づいた。


「ようやくここまできましたね」


感慨深そうにつぶやく。

道中様々なことがあったが、ゴールが見えてきてようやく肩の荷を下ろせそうだ.


「綺麗ね!瀬戸内海を見るのは初めてだわ」


心中を秋灯に悟られないよう平静を装う明音。

目的地が見えてきたため、感傷よりも感賞が勝った。


「そっ、そうですねー。すごい綺麗ですーー」


若干棒読みな伊扇。

秋灯が一瞬目を向けたが、特に気にしなかった。


「もうすぐ試練のゴールにつけるのね」

「はい.後は瀬戸内海を渡るだけですから今日中、後二、三時間もかからず着けそうです」

「なんか、色々大変だったわね.秋灯にも風穂野にも随分迷惑かけたわ」

「いえ、その分明音先輩には助けてもらってましたから.それにこういうのは一蓮托生ってものでしょう」

「そうね.でもありがとう」


短い言葉で明音先輩が感謝を述べる.

彼女を助けとなれたことに秋灯は素直に喜んでいた。


「わ、私もその・・一緒に来れてすごく助かりました!」


伊扇も動揺が収まったのか会話に入ってくる。

今朝何かを言いたそうにしていたが、なんだったのだろう.

ベッドに設置した座椅子を見て黙ってしまったが、あまり気に入らなかったのかもしれない。


「伊扇さん、魔力をだいぶ使わせてしまいましたが大丈夫ですか?」

「えと、はい.休ませてもらったので、もう大丈夫です!」


彼女にもだいぶ助けられた.

元々明音先輩に魔力を覚えてもらうため同行をお願いしたが、ここまで仲良くなれたのは嬉しい誤算だった.


「あとちょっとで四国へ着けます.最後の一踏ん張り、頑張りましょう!」


気合いを入れ直す.

最後まで何があるかわからないため慎重に行きたい.


「明音さん。私あとで秋灯さんに何か償いを・・・お金は意味ないし、食料も秋灯さんにもらってるし、全然思いつきません」

「そうね。・・・寝てなさそうだから、二人で添い寝でもする?」

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