第一試練26 ガールズトーク
20畳ほどある和室に布団が二枚敷かれている。
時刻は19時ごろ。お風呂や夕食を早々に済ませ後は寝るだけ。
目標地点にしていた兵庫に入ったので、早めに休むことにした。
明音は布団の上でストレッチを行い寝る準備を整える。
最近一日中眠っていることが多く、身体を動かす機会がめっきり減ってしまった。
未だ体調が戻らず長時間動くことは難しいが、せめて鈍った身体をほぐそうと風呂上がりはストレッチを行なっていた。
開脚の姿勢で指先を床に近づける。
そのまま手のひら、ひじ、上半身と床にぺったりくっつける。
だいたい20秒程度同じ姿勢のままキープし、また身体を戻す。
今度は長座の姿勢になり指先をつま先へ近づけていく。
なんの抵抗もなく折り畳まれたガラケーのように身体を二つ折りする。
昔から身体が柔らかかったが、一日中寝ていても凝りが少ないこの身体はありがたい。
身体のどの筋肉が固まっているか調べながら入念にストレッチを行っていく。
「明音さぁぁぁあん」
横の布団からくぐもった声が聞こえてくる。
うつ伏せになって枕に顔を埋めているため、聞き取りづらい。
「どうしたの風穂野。さっきからその調子だけど」
「だってぇ。今日の秋灯さんの、私の扱いが、その、、」
伊扇は秋灯に文句があるようだ。
半日ベッドにくくりつけられていたことがよっぽど堪えたのだろう。
「けっこう酷かったわね」
「で、ですよね!ひどいですよね。風を扱えるようになれって言われましたけどまさかあんな風にベッドに括られると思ってなくて・・・。というか!一週間くらい前から扱いがなんか、遠慮がないというか、雑というか・・・」
「仲良くなってきた証拠じゃない?伊扇さんと本音で言い合ったから秋灯もああいう態度をしてるんじゃないかしら」
「それは、、嬉しいんですけど、その・・・あからさまに接する態度が違うというか・・」
最期は含んだ言い方だが、最近の秋灯の態度は確かに雑だ。
伊扇と仲良くなった証拠だと思うが、釣った魚には餌を与えないタイプなんだろうか。
「私にもけっこうズケズケ言ってくるわよ。今は体調崩してるから優しいだけで」
「いやそんなことないです!秋灯さん明音さんのことすごく大切に接してます!」
「そ、そうかしら?あんまり感じたことないけど」
伊扇の勢いの若干引く。
一緒にいて二週間ほどだが、これほど強く物を言っているのは初めてかもしれない。
「看病している時も、明音さんが寝ている時とかすごい優しい目で見てますし。時々撫でてましたし!」
「撫でて!?あいつそんなことしてたの。・・・・なんか恥ずかしいわね。明日問い詰めてやろうかしら」
「明音さんと同じように接して欲しいなんて言うつもりは無いですけど・・・。でも、もうちょっと優しくしてほしいなーって」
この一週間。伊扇と秋灯の距離はだいぶ近くなった。
今まではお互いに一歩引いた距離にいたが、内心を言い合ったことによって、冗談を言い合えるような仲になっていた。
でも、だからこそ秋灯が接する態度が明音とあからさまに違うことに伊扇は気づいてしまった。
口では厳しいことを言っていても秋灯が明音と接する時の眼は優しさが滲んでいる。
平素の伊扇であればここまで感情を吐き出すことはなかったが、一週間の鍛錬や寝不足によって諸々鬱憤が溜まっていた。
「そしたら秋灯に直接言ってみましょう」
「いやっ、それは言いづらいというか、恥ずかしいというか・・・」
「でもあいつ言わないと分からないと思うわよ。人の機微を察する能力がないと思うし」
本人がいないところで散々な言われている。
秋灯は基本相手の体調についてはよく見ているが、逆に感情面にはあまり気を配らない。
男女の違いかもしれないが、伊扇の言わんとしていることは明音も共感できる。
「むぅ、そうですね。もうちょっと優しく・・・女の子らしく接して欲しいって伝えてみます」
「うん、その方がいいわ」
落ち着いた伊扇をみつつ明音は、自分が寝ている間に随分と仲良くなったなと感じた.
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