第一試練25 伊扇のスカート

「おぉ早い、早い」


ベッドにしがみつきながら、足回りを確認する。

黒ずんだ四つの脚はタイヤよりも抵抗が少なく道路を滑らかに進んでいく。

高速道路の路面は凹凸が少なく、道路の線形も直線のためかなりスピードを出せる。


ベッドの中央。伊扇をうつ伏せに寝かせ万歳した状態でベッドに括り付けている。

手のひらを進路と逆向きに差し向け、推進力の突風を射出している。


伊扇の生み出す風は自分が吹き飛んでしまうほど勢いがある。

そのため突風の勢いを伊扇の身体からベッド全体へ伝えるため、強力に固定する必要があった。


ただ、絵面がひどかった。

五本のベルトで胴体と太もも回りを固定された伊扇は新手の拷問でも受けているようだ。


伊扇を固定する直前珍しく本人から抗議があったが、いろいろとなだめすかし無理やり括り付けた。

今も速度を調整するため風を射出しているが、内心不満に思っているだろう。

顔がベッドに埋もれているから分からなけど。


「すごいわね。もう大阪に入っちゃった」


明音先輩がもそもそと上体をあげる。

道路の横には大阪府の文字とその上に城とひょうたんが書かれた標識がある。


出発した当初、摩擦ゼロベッドに興奮して秋灯を質問攻めにした。

時間解凍の応用法だったり時間が止まっている物質の状態など説明したが、先輩の顔にはハテナマークが浮かんでいた。


結局体調を悪化させてしまったため、大人しく寝てるよう秋灯に注意されていた。

風圧が思ったよりもすごいため眠ることは難しそうだが、目を瞑るだけでも楽になるはずだ。


「とりあえず兵庫県に入ったら今日は終わりにしましょう。伊扇さん魔力は大丈夫ですか?」

「えっと、魔力は大丈夫です!でもこの姿勢が辛いです!スカートが大変なことになってます!」


風の勢いがすごくて聞き取りづらい。途中から全く聞き取れなかった。


伊扇は何故か今日に限ってスカートを履いている。

風圧によって中身が諸見えな状態で道路を滑走していた。

何も知らない人が見たら一種の拷問に見えるかもしれない。

中に短パンを履いているから別に見られたところでいいんじゃないかと思うが乙女的に嫌なのだろう。


この摩擦ゼロベッドは最初加速するまである程度の力がいるが、一旦速度が出ればほとんど力は必要ない。

空気抵抗や道路の曲線に伴う進路の変更で時々突風を出さなければいけいないが伊扇の魔力量なら問題なく保つみたいだ。


「えと、聞こえてないですか?せめて姿勢を!スカートを抑えたい!まだ仰向けの方が良かった!」


伊扇が叫んでいる。仰向けだと空しか見えないから嫌だとゴネていたのに。


前方にサービスエリアが見えて来たため一旦休憩にする。

伊扇の固定を解き、前方に向けて軽く風を出してもらう。

秋灯も両端のツルハシで地面をガリガリと掻く。


やはりこの摩擦ゼロベッドは止めるのに時間がかかる。

軍手をしているが、それでもツルハシを握る手がものすごく痛い。

今日の夜、余力があればブレーキ周りを少しは改良したい。


サービスエリアの駐車場にベッドを停める。

本来自動車が停まっているはずの場所にキングサイズのベッドが鎮座しているため違和感がすごい。

ただ、世界の時間が止まり人が誰もいないので注目を集めることもない。


周りを確認しつつ、ベッドに括り付けていた伊扇の固定を外す。

ベッドから解放され、身なりをただした後こちらに詰め寄ってくる。


「秋灯さん!さっきの聞こえてましたよね。ひどいです!」

「すみません、風で聞こえなくて」

「あとっ、そうだったんですか。・・いやっ、騙されませんよ!さっきも人を物みたいにくくりつけて!」


下道で慣らし運転をした後、高速道路に入った段階で伊扇を固くベッドにくくりつけたことを言っているのだろう。

伊扇の「これで本当に大丈夫ですか?動けなくて怖いんですけど?」という抗議に関し、「大丈夫、大丈夫」と言い全て押し切った。

速度を出すためには仕方なかったが、流石に扱いが雑だった。


「固定の仕方は夜にでも改良してみます。ただ、伊扇さんの安全を考えると、ベルトの固定は必須ですから、、今日はこのまま進ませてください」

「むぅぅ、わかりました。でもその・・・スカート履き変えてきます」


ちょろい。

伊扇の安全を考えた結果ということを説明すると渋々といった表情だが、了承してくれる。

それにしても伊扇は押しに弱い。大学のコンパとかで簡単にお持ち帰りされそうな雰囲気がある。

コンパに参加したことないけど。


「もろ見えでしたしね」

「あぁ!やっぱ見たんですね!ひどいです!セクハラです!」

「いや、短パン履いているから別にいいじゃないですか」

「それでも!気分的に嫌なんです!あんなに全開で!」


ぼそっと言ったのが聞こえてしまったようだ。

そもそも今日は長い距離を移動するのだからスボンを履いてきてほしかった。


伊扇を宥めつつ、昼食用の食料を与える。

昼飯を食べ終え満腹になった伊扇は先ほどの怒りが収まったようだ。


機嫌が悪くなったらこれからすぐにご飯を与えよう。

秋灯は伊扇の扱いについて一つ学習した。


ちなみに秋灯と伊扇の口論の間、明音はベッドで爆睡していた。

日中のポカポカした気温で眠るのは心地が良かったらしい。

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【第一試練の乗り物禁止について】


・車輪がついた乗り物が禁止

基本的には、移動を目的に作られた乗り物(車輪がついている)が使用禁止となっている。

また、ベッドは乗り物ではないという認識があるので使うことが出来る。


(車が乗り物ではない、という認識を持てていたら使うことが出来る)


試練の参加者は”禁止されている乗り物を使う”ことができなくなっていて、

意識に制限掛けられていて、自力では破ることができない状態です。


神様チートで一種の洗脳となっている。


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