第一試練18 秋灯のお願い

高い天井とモダンな雰囲気のあるカウンター。壁には掛け軸や書道作品が飾られており、床は綺麗な木目のフローリングが続いている。和洋が混じった旅館だが、この場所はどちらかというと洋風色が強めだ。


ロビーの横には厚手のソファーと木製の低いテーブルが置かれている。

テーブルを挟み二人の男女が向かい合っているが、女性の顔色は悪そうだった。


明音先輩を寝かしつけた後、伊扇を連れ立って旅館のロビーに移動した。

この一週間の予定を相談したかったのと、伊扇の状況を聞いておきたかった。


伊扇にお願いしたいことは風を自由に扱えるようになること.

魔力を使用する場合、彼女の周囲から風が吹き荒れてしまうがこれを意図的に操ってもらいたい。

道中練習していた甲斐あって、ある程度抑えることができるようになっているが、求める段階にまで達していない。


「その・・練習はしてるんですけど、まだ難しくて、」


先ほどの芯のある雰囲気からいつもの自身なさげな伊扇に戻ってしまった。

おどおどしつつ、秋灯の質問に答えている。


「さっき何でもやると言いましたよね」

「いや、でも・・今まで何度もやろうとして、でも、、」

「明音先輩を焚き付け、俺に無茶振りが回ってきて、確実な方法をとれなくなった今、できないとは言わないですよね」

「えっとえと、怒ってますか?」

「怒ってないです。伊扇さんが一緒に行きたいと言ってくれたことは本当に嬉しかった。だからこちらも接し方を変えます。今までは気を使っていましたが、これからは仲間として接します」


秋灯の言葉が嬉しかったのか青ざめていた顔が綻んでくる。

明音先輩もそうだが、この少女も心が顔に出やすい。


「だから、一週間で出来るようになってください」

「あひゅうーーーーー」


伊扇の口から勢いよく空気が漏れる。

うなだれている伊扇を見て秋灯は、このリアクションは新しいなと思った。


「正直無理を言っているように聞こえるかもしれませんが、伊扇さんはすでに魔力を扱えるはずです」

「でっ、でも今まで全然成功しないじゃないですか・・」

「残りの問題はおそらく精神的なものだと思います。伊扇さん自身、あの風をどこか拒絶している節がありますよね。魔力は自分の心情が表れやすいので原因はメンタルのほうかなと」

「・・・・それは、その」

「別に無理に聞こうとは思いません.隠し事の一つや二つ誰にでもありますから.でもあの風は伊扇さんの才能であり、これから先、伊扇さんの助けになってくれます.自信さえ持てればきっと操れるはずです」


秋灯はずっと隠していたが、魔力について予備知識がある。

伊扇に助言することで、バレるかもしれないが最悪先輩にさえバレなければ構わない。


「・・・・風を扱えるようになったら、みんなで、明音さんと秋灯さんと試練を達成できますか?」

「必ずという言葉は性分的に使いたくありませんが、必ず達成させて見せます」

「わ、わかりました.それなら頑張ってみます!」


伊扇の一週間の予定を組んでいく.

普段行っていた魔力操作訓練に加え、メンタルトレーニングを追加する.

伊扇のような自己肯定感の少ない性格は、自分の自己認識を把握していない場合がある.

まずは瞑想や坐禅を行って自身の内面、感情や今の性格を形作るきっかけとなった過去を想起させる.


「ところで秋灯さんはこの一週間何をするんですか?」

「俺は時間の境界を解凍します」

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