第一試練17 少女の想い
少ない体力で喋り続けた明音は今はぐっすり眠っている。
「次の試練も一緒にか・・」
伊扇も含め全員で四国まで着ければそれに越したことはない。だが、今の状況では難しい。
方法が思いつかないわけではないが、できるかどうか怪しい。
明音の普段とは違う無防備な寝顔は見ていて飽きなかったが、流石にずっと見ているのは申し訳ない。
秋灯は足音を消しつつ客室から出ていく。
扉をそっと開けるが、その先に朝から避けられていた伊扇が立っていた。
どうやら秋灯が出てくるのを待っていたようだ。
「鐘ヶ江さん、お話があります」
真正面から秋灯を見てくる。いつもと違うその姿に若干気圧される。
「同行の件についてですよね。それについては今朝話した通り、、」
「一緒にいさせてもらえませんか」
秋灯の言葉を遮る形で伊扇が話しだす。
「今日一日ずっと考えていました.秋灯さんの言う通り試練に挑んでいる以上、自分の願いを優先した方がいいと覆います.私にもどうしても叶えたい願いがあります.自分がやってしまったこと.たくさんの人を傷つけてしまったこと.私は自分の過去を清算したくてここにいます.だから一旦ここを出て行こうと思いました」
「ちょっ、伊扇さん」
「でも嫌だった.次の試練に進めて、もしかしたらその先も進んでいって、いつか勝ち上がって願いが叶ったとしても、私は今日お二人を置き去りしたことをきっと後悔すると思います!」
堰を切ったように話しだす伊扇。早口でちょっと聞き取りづらかったが、言葉から必死さが伝わってくる。
「まだ会って一週間ですけど、お二人に一緒に行こうって言ってもらえたのが本当に嬉しくて.世界の時間が止まってからも、その前もずっと一人だったから.だから、こんなに仲良くなれたのに秋灯さんと明音さんを置いていきたくないです!」
息切れしつつ喋り終える。途中からどんどん声量が大きくなっていった。
後ろの明音先輩がいる客室まで響いてそうだなと思いつつ、伊扇に意識を向ける。
彼女の真摯な言葉に対し秋灯は戸惑い半分申し訳なさが半分だった。
この短期間でここまで心を許してくれているとは。
人と仲良くなる前提が打算ありきでしか考えられない秋灯とは真逆の考え方だ。
何か言葉を返さなければいけないが、うまく出てこない.
打算ではなく感情ありきの話し方を思いつけない。
秋灯が口を開かないでいると後ろの扉が開く。
眠っていたはずの明音先輩が扉の前に立っていた.
「話は聞いたわ!ありがとう風穂野。そこまで言ってもらえてすごく嬉しいわ。私もこんな病気すぐに治すから、少しだけ待っていて。絶対期限内に皆が四国に着けるようにするわ!」
顔面が青白く今にも倒れそうなのに、その姿は堂々としている。
「ちょっと、無理しないでくださいよ」
すかさず秋灯が支えるが、明音はその場にしゃがみ込んでしまう.
「秋灯、風穂野がここまで言ってくれてるのよ!何黙っているのよ、しゃんとしなさい!」
「ですが現実的に考えて明音先輩の体調が戻らないと期限内に着くのは難しいです。それならせめて伊扇さん一人で向かった方が合理的」
「うっさいわね!こんな病気気合いで治すわよ」
力が入らないのか秋灯に寄りかかっているが、言葉だけは勢いがある.
「いや、だから・・」
「体調の管理ができなかった私が100%悪いわよ。でも棚に上げて言うわ。秋灯、皆が四国に期限以内に着く方法を考えて。風穂野に言った手前かっこ悪いけど私は思いつけないわ」
「そんな方法あるわけ、」
「ないとは言わせないわよ.あなたreデバイスをいじったり、規定を何度も読み直してたでしょ」
見られていたのか.確かに時間解凍について調べたくてreデバイスの機能を確認していた.
規定についても、自分の思いついたことが抵触するかどうか調べていたが.
「私と風穂野、そしてもちろんあなたも全員が無事に着けるようなそんな方法を考えて」
「結構無理を言いますね」
確かに四国まで割と楽に着く方法は思いついていた。
ただ、明音先輩にばれるほど態度に出ていたのがちょっと悔しい。
「俺を買い被りすぎです。動かしたら今にも死にそうな病人を抱えて四国に着く方法を俺は思いつけません」
「痛いところを突くわね」
「だから明音先輩はまず身体を治すことに専念してください。せめて二、三日動かしても死なないくらいには。そうしたら、後のことは何とかします」
明音先輩から向けられる信頼は素直に嬉しかった。それと同時に荷が重いなと感じる。
「じゃあ方法があるのね」
「まだ思いつきです。色々試して検証しないと難しいですし、絶対に成功するとは言えません。だから一週間俺にください。その間に全員が四国へ、病人を抱えていたとしても楽に着く方法を成立させます。ただ、失敗する場合もあるので、その時は明音先輩の体調が回復していなくても背負って出発しますので覚悟しておいてください」
「分かったわ」
「伊扇さんもそんな感じでいいでしょうか?もちろん途中で気が変わって出発されても大丈夫です」
「は、はい!またよろしくお願いします!」
元気よく伊扇が頭を下げてくる。
秋灯に同行を了承してもらったため、安堵の表情をしている。
「とりあえず明音先輩はもう休んでください。今先輩がすべきことは大人しく眠ることです」
「うん、分かってるわよ」
明音先輩を持ち上げ部屋へ戻る。
普段の怪力がどこから出てくるのか分からないほど先輩の身体は軽かった。
布団へ下ろすと体力を使い果たした明音先輩は気絶するように眠った。
足音を殺し、伊扇と共に今度こそ部屋を出る。
「伊扇さん。すみませんが、この1週間でやっていただきたいことがあります」
「わ、私にもできることがあれば、なんでもやります!」
両手を構え上目使いでこちらを見てくる。気合が入っているのか、鼻息が荒い。
「伊扇さんの身体からでる突風。あの風を自由に操れるようになってください」
伊扇の顔が一気に暗くなった。
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