第一試練11 京都到達
伊扇が列島行脚に加わり五日が経過した.
時間解凍の範囲拡大について明音、伊扇の二人とも夜に練習するようにしているが、なかなか成功しない。
回数の制限があるため練習しづらいことが上達しない原因だと思う.
魔力についてもあれから身体の強化を練習している.明音先輩は早々に習得し、魔力の強弱をつけて長く持続させたり、限界まで一気に使って強化を強めてみたりと色々試している.
建物の屋根から屋根へぴょんぴょん跳ねて移動する姿は見ていて正直羨ましかった.
伊扇については、若干だが風を抑えられるようになってきた.
魔力で身体を覆う際、突風が出てしまうなら最初から風を出す練習をすればいいと思いついたのがよかった.
魔力から風の現象への変換効率が彼女は恐ろしく高いらしい.ほとんど無意識で発生させているそれを意識的に感じ取れれば、オンオフもできるようになってくるだろう.
ただ、急に喋りかけたりすると突風で飛ばされることはまだまだ多い。
「明音先輩そろそろ京都駅なんで降りてきてください」
屋根の上に立っている明音先輩に声をかける.
まだお昼すぎであるが今日の目的地が見えてきた.
一日30kmのペースで進んでいたが、明音先輩が魔力を覚えたことで進みがだいぶ楽になった.
荷物のほとんどを明音先輩に持ってもらい、こちらは歩くことに専念できる.
心配していた伊扇は明音先輩に時々オブられているが、なんとかついて来ている。
本人曰く体力も少しはついてきたみたいで、おぶられている時間が日毎に減ってきている.
「あらもう着くの?早いわね」
ぴょんと7、8mの高さの屋根から飛び降りる.
「はぁはぁ、今日、は、これで終わり、ですか?」
秋灯の後ろで肩で息をしている伊扇。今日は一回もおぶられることなく歩き切った。
「20km弱進んだんで今日はもう終わりです.予定していた日数にだいぶ余裕が出てきたので、明日はお休みにしようと思います.拠点を決めたら後は自由行動にしましょう」
「ほんと!お休みなんて久しぶりね。でも日数は大丈夫なの?」
「少なくとも今のペースであれば6日で四国へ入ることができると思います.試練が始まってから今日で15日目なので計算上1週間の余裕はありますね。早くついたほうが何か特典とかあるかもしれませんが、だいぶ疲れも溜まってきているので、健康第一で行きましょう」
「なんだか思っていたより楽ね。もう少し大変だと思っていたのだけど」
「そんなこと言ってたらまたお化けみたいな異形が出ますよ」
「・・・あれが出ても今なら逃げてみせるわ」
倒すとは言わない当たり相当怖かったのだろう.
怪物が出ても今の明音先輩なら素手で勝てそうだけど。
「やったぁー。1日休めますーーー」
力なく伊扇が答える.三人の中で一番疲れているのは彼女だろう.
途中魔力を使って先に進んでいていいと伝えていたが、身体を鍛えたいと言い、練習以外で身体強化を使ってこなかった。
この五日間おぶられこそしていたが、よく歩き切ったと思う.
「今日もたらふくご飯を食べましょう.伊扇さん何かリクエストはありますか?」
「わ、私は脂っこいものが食べたいです!とんかつ、唐揚げ、ハンバーグ、それから、、、、」
最初から思っていが、彼女は本当に大喰らいだった.
「とりあえず、夕食は近場のスーパーにして、寝る場所はちょっといい旅館にでもしますか.時間解凍はあと2回ありますし」
京都周辺は高級な旅館が多い。時間が動いていたらまず宿泊できないが今は世界の時間が止まっている。
庭園付きの客室とか、キングサイズのベッドとかいろいろ憧れる。
できれば温泉にも浸かりたいが、お湯がはられた状態で時間が停止しているだろうか.
秋灯自身、行程に余裕ができたため気持ちが軽くなった。
試練についてずっと身構えて行動していた分、ここまで特に問題もなくて拍子抜けである。
「明音先輩そろそろ行きますよーー」
「・・えぇ、ちょっと待って」
後ろで立ったまま動かない明音先輩に声をかける.
お化けの話がそんなに怖かっただろうか.
「私は今日サウナに入りたいわね!」
「最近ブームですしね.でもヒーターが動くかわからないですよ?」
追いついてきた明音先輩に歩を合わせる。
キャンプ用のサウナならスポーツショップにあるかもしれない.
一応探してみるかと思いつつ、明日の休みの計画を立てていく.
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