第一試練8 提案

昼食をとりながら伊扇に話を聞いたが、魔術師は基本的に世襲制らしい。

古くから魔術師の家系は存在し、親から子へ魔術の術式と呼ばれるものを継承していく。

東日本側で六家、西日本側で四家の大家が存在し魔術師を多く輩出しているのだとか。


魔術師の資格の発行や管理、仕事の斡旋などは日本魔術師協会なる組織が行っており東京と大阪にある。

政府に認められている歴とした機関とのことだが、日本が魔術の存在を認めれていることには驚いた。


魔術師は基本的に管理する土地を割り振られ、生涯その地域の霊的防御を担う。

霊的防御とは怪異や妖など異形のものを抑え、時には退治する仕事だという.


ただ、魔術師といえど本家と分家の確執や東京近郊の家程教会と癒着があったりとやっていることは旧家や財閥と変わらないらしい。歴史を持っていると権力闘争や世襲、相続など問題が溜まっていくのだろうか。


伊扇は分家の血筋だが、魔力量が多く本家で修練させられ魔術の基礎を学んだとか。

結局魔力の制御ができず教官を何度も吹き飛ばし匙を投げられたらしい。


「それで!私でも魔術は使えるの?」


伊扇が頑張って説明してくれていたので、うんうん聞いていた明音先輩だが。

いよいよ堪え切れなくなったらしい。


「えとえと、魔術は使い方が二つありまして、一つは魔術師の家系じゃないとできない方法で、もう一つは自力で魔術を構築して発動する方法です。一般の魔術師や突発的に魔力を持ってしまった人はこっちの方法で術式を使うみたいです。ただ、魔術師の家系ではない人はそもそも魔力量が乏しくて、術式の構築が感覚的に理解しづらいらしくて」

「それだと私は使えないの?」

「そと、えっと・・白峰さんは既に多くの魔力を纏っているみたいでして」

「私、魔術使っていたの?」

「いえ、魔術ではなくて魔力です.魔力は人から溢れてくるエネルギーみたいなもので、魔術の使用だったり身体の保護に使えたりするんですが」

「最近明音先輩が体力お化けになっていたのはそういう理由ですか?」

「えっと、えと、多分そうだと思います.私も試練が始まってからなんとなく魔力の量が増えて・・・規定にあった禁制の内容と

関係があるかもと思うんですが。一般の人が魔力に目覚めても不思議じゃないと思います」


横の明音先輩が「私は既に魔法少女だったのね」と呟いている.

あんたは少女じゃないだろとつっこみたかったが、殴られそうなのでやめておく.


「魔力がガソリンみたいなもので、術式が車だったりバイクというようなイメージですか?」

「えと、はい。そういう感じです。その例え分かりやすいですね」


魔力はだいぶ便利そうだ。

明音先輩は魔力を持っているようだが、ぜひ使えるようになりたい。


「魔力は明音先輩も持っているようですけど、魔術に使う術式は一般の人でも覚えられます?」

「才能がある人だったら、多分できると思います.ただ、その、、、術式がその人に合う合わないがあったりするので複数の術式を教えてもらって、そこから自分の扱いやすい術式を選んだり、慣れてきたら構築の組み方を変えてみたりするみたいです。・・・・私は魔力制御ができなくて術式を発動させられたことがないですが」


昔を思い出したのか伊扇の顔が暗くなる。

これまで頑張って喋っていたが、そろそろ限界が近そうだ。


「伊扇さん。一つ提案なのですが、いいでしょうか?」

「えっと、えと、はい。なんでしょうか」


まだ、会ったばかりの少女にこんな提案をするのは気がひけたが、試練に勝ち進んでいくためにはこの機会を逃す手はない。

明音先輩に魔力について学んでもらう絶好のチャンスだ。


「伊扇さんは道中物資に困っていて食料の調達や寝床の確保が難しい。ここまでくるのも大変だったと思います。逆に我々は物資には余裕があり時間解凍の回数に余分があります。ただ、魔術、魔力に関係する知識が乏しい」

「はぁ、」


胡散臭そうな喋りになる秋灯。

初めて伊扇の顔が怯えから不可解といった顔に変わる.


「そこでなのですが第一試練の間、四国まで一緒に行きませんか?我々は食料と寝床を伊扇さんに提供します。毎日布団ないしベッドで寝られます。あまりにも硬すぎる地面の上で睡眠を取ることはないとお約束します。また、夕食はガスコンロを携帯しているので暖かい料理を作れます。俺が責任を持って料理をします。その代わり伊扇さんには教えても構わない知識でいいので魔力、魔術について教えていただきたい」

「ひぇっっ。ちょっと突然すぎて・・」


長々と売り文句を喋る秋灯。マルチ商法の勧誘をしているような罪悪感があるが気にしていられない。

伊扇の表情には再度怯えが戻ってしまった。


「秋灯、流石に急すぎるわよ.あなた時々ぐいぐいいくわよね。ただ伊扇さん、私からもお願いさせて.

魔術の話をもっと聞きたいというのもあるんだけど、同性の子が一緒にいてくれると私も安心するし.秋灯には変なことはさせないからその辺は安心してね」


変なことってなんだよ.

夜、身体を拭くときは別室にいるし、薄着の寝巻きを横目で見るくらいしかしたことがないというのに.


「えと、お話しはありがたいのですが、私は魔術について教えられることが本当に少なくて・・・魔力制御もできないし、本家でも役立たずで・他のちゃんとした魔術師の方にお話を聞いた方が・・」

「そんなことないわ。私たちが出会った最初の魔術師はあなただもの.私はあなたの話を聞いてすごくワクワクしたわ。奇跡みたいな力を使えるあなたはすごいのよ!」


知り合ってまだ一時間も経っていないが。相手の人間性や経験など全く知らずそれでも言い切る明音。


「えっと、少し、その、考えさせてください」

「うん、ぜひ考えてみて!」


終始押し切る形で会話が終わる。

食料に関して押し入れにあった缶詰めだけでは足りなかったので、スーパーが見つかるまで一緒に進むことにする。

とりあえず今日一日共にして、そこで伊扇の回答を聞く流れとなった。


道中明音が忙しなく話しかける。久しぶりに同性の歳が近い少女と話せることが嬉しいのだろう。

ぜひ口説き落としてほしい。

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