第一試練6 再開
明音先輩がお化けのような異形に遭遇してから数日後.
「明音先輩、ちょっと進むの早くないですか?」
「そう?これくらいじゃないと疲れないじゃない」
息を切らしながら明音先輩についていく。さっきからほとんどジョギングのペースで進んでいる。
今日は筋肉痛になりそうだなと感じつつ、何とか先輩の背中を追う。
あれから怪奇現象に遭遇することなく順調に四国へ進んでいる。
日の出ている間の明音先輩は身体の調子が良いのかとても元気だ。
後ろを振り返り秋灯が着いてきているか確認してくるが、その顔は溌剌としている。
夜になるとその顔は曇るが。
先日の添い寝は明音先輩の中で触れて欲しくないことになっている。
話題にしようとしたらキツイ目を向けられ、腕の皮膚を思い切りつねられた。
ネタとして解消したほうが、変に気を使わなくていいと思ったが駄目だった。
あれから流石に添い寝をすることは無かったが、同じ部屋で睡眠をとるようになった。
よっぽど怖い思いをしたのだろう。まだ夜が怖いらしく一人では寝付けないらしい。
一応本人は「近くで寝てれば何かあったときにどっちかは気が付くでしょ」と言っている。
同じ部屋じゃなくても物音がしたら気づくと思うが、秋灯は何も突っ込まなかった。
今までも近くで眠っていたことはあったが、仕切りの無い公園だったり、広いオフィスの中だったり、一定の距離を空けていた。
7,8畳くらいの部屋の中、手を伸ばせば届いてしまうような距離で隣あって眠るのは流石に慣れそうもない。
「今日はどのあたりまで進むの?」
「愛知の豊橋市まで進んでおきたいです。計画より少し早いですけど、何かあるか分かりませんから静岡は出ておきたいですね」
一日に30km歩くのにも意外と慣れてきた。今の明音先輩ならその倍でも構わなそうだが。
もう少し余裕が出てきたら一日くらい休息を取ってもいいかもしれない。
辺りは山に囲まれ視界の大半を緑が埋め尽くしている。あるのはトンネルと電線とぽつぽつある民家くらい。
都心の景色からだいぶ様変わりした。
そろそろ昼食の時間だが、周りにはスーパーやコンビニが見当たらない。
「お店がないんで、昼食はあそこでとりますか」
「他人の家の冷蔵庫を漁るのも抵抗がなくなってきたわ」
明音が諦めが混じった声で言葉を返す。当初他所様の家の物を漁ることに罪悪感を覚えていたようだが、今では平気みたいだ。
ちなみに秋灯は最初から何も感じてなかった。
ここからだいたい100mくらい。敷地が広く、横の駐車場は大型トレーラーが数台置けるかもしれない。
家のつくりも比較的新しく、綺麗な見た目をしてる。
秋灯は時間解凍の準備をするため認識の範囲を伸ばす。
最近は物の把握にも大分手慣れてきて、距離があったとしてもある程度構造を掴むことが出来る。
見えていないはずの家の中が分かる感覚は自分でも不思議だが、索敵としても使えるし便利だと感じていた。
「何かいますね。玄関が解凍されていて、人がいます」
「お化けじゃないわよね?」
「今回は生きている人です。部屋の中でおそらく寝ていますね。試練の参加者だと思いますけど、どうします?会ってみます?」
「相手は一人?」
「一人です。背格好は小柄で、おそらく女性。年齢までは、流石にわからないですね」
「どうしてそこまでわかるのよ。あなたどんどん人間辞めていくわね」
「体力お化けになってきている明音先輩に言われたくないです」
認識の範囲を部屋の中に絞り小柄な女性が玄関横の和室で横になっていることを確認した。
時間解凍は、玄関と冷蔵庫だけに使ってるみたいだ。
「とりあえず会ってみましょう。一人だけなら何かあっても逃げられるでしょ」
「明音先輩以外の人と会うのが久しぶりすぎて緊張します」
玄関の戸をノックしてからドアを開ける。
「すいませーん。誰かいませんかー」
「ひぇっっ!?」
和室から小さい悲鳴が聞こえる。畳から飛び起きたのがわかった。
「こちらに敵意はありません。突然話しかけて申し訳ないのですが、できれば試練について情報の交換をさせていただきたいのですが」
和室まで聞こえるよう声を張りつつ、敵意がないことを示す。
休んでいるところを他の参加者に話しかけられて相手はさぞ警戒しているだろう。
できれば試練の今の状況、禁制や明音先輩が見たお化けなど情報の収集をしておきたいが、果たして出てきてくれるだろうか。
部屋の中の女性は迷っているのか返答がない。
畳の上でじたばたしているような気配を感じつつ、待つこと二分。
和室の方から声だけ聞こえてくる。
「あの・・・試練の参加者の方ですか?攻撃してこないですか?」
「はい。自分は鐘ヶ江秋灯といいます。できれば共有できる情報があれば少しお話しできないかなと思いまして、こちらから危害を加えることはありません」
秋灯が男ということもあって警戒されているのかもしれない。
試練の規定で参加者どうし危害を加えられないため、あまり警戒されないと考えていたが、これなら同性の明音に対応してもらえばよかった。
出てくるのを躊躇っているのか長い沈黙の後、ようやく声の主が和室から出てくる。
若干緑色がかった黒髪を肩先まで垂らし、中学生くらいの背格好。
警戒しているのか口を八の字に曲げ、恐る恐ると言った表情でこちらを見てくる。
秋灯は日本人形みたいだなと感じた。
「えとえと、私は伊扇風穂野と言います。できれば、そのお願い、、交渉させていただきたいことがあります」
数日前秋灯たちの目の前から風と共に消えた少女がそこにいた。
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